どうしてこんなに憂鬱なのかな?
ノボリさんと喧嘩したわけでもないのに。
寧ろ、ノボリさんとは円満にやっている。
可愛くて仕方のない、ヤナップのことだって何の悩みもないのに。
―――どうしてこんなに悲しいの?
ベッドの上に体育座りになり、窓の外を見据えた。
太陽が西に傾いている。
もうすぐ日が暮れそうだ。
「ヤナナ?」
「ヤナップ・・・」
ヤナップが顔を覗かせた。
夜も近いせいか、ヒヨリの顔はとても悲しそうに見えた。
すると突然、ヒヨリの目に涙が浮かぶ。
「ヤナナ!?」
驚いたヤナップは慌ててヒヨリの目尻に手を伸ばした。
「ごめんね、ヤナップ。なんだか今はとても泣きたい気分なの・・・」
そう言うと、ヒヨリはヤナップを抱き寄せる。
ヤナップはヒヨリの頬を何度も何度も叩いた。
まるで泣き出した子どもをあやすように。
「ありがとう、ヤナップ」
ヒヨリはヤナップの前で大泣きしてしまった。
――――――
「・・・となると、ヒヨリは意味もなく悲しくなって泣いた、と」
「ナップ」
仕事から帰ってきたノボリは、家の暗さに異常を感じてヒヨリの部屋へやってきた。
扉を開ければ、ヤナップを抱きかかえたまま眠るヒヨリの姿があった。
顔を覗けば涙の痕が残っているのに気が付く。
ヒヨリにされるがままになっていたヤナップをヒヨリから離して事情を聴いたノボリ。
ノボリも最近になって、ヤナップの伝えたいことがわかってきた。
「もしかしたら・・・ヒヨリは・・・」
「ナプ?」
ノボリが考えていることにヤナップは首を傾げた。
「ヤナップ。ヒヨリは今、とても不安定な時期なのかもしれません」
「ナプ!?」
どういうこと、とヤナップは声を上げた。
「ヤナップに説明してもわからないと思いますが、女性は一定の周期になると精神が安定しないことが多いそうです。急に怒ったり、今みたいに泣いたりと・・・」
「ヤナァ・・・」
ヒヨリはあまり怒らない。
時々、今みたいに急に悲しくなって泣いてる時はある。
ノボリもそれは知っていた。
あるときに急に泣き出した時の事を思い出せば、今みたいな状況とよく似ていた。
「こういう時はそっとしておいてあげましょう。ヒヨリも好きでこうなってるわけでは御座いませんので」
「ヤナァ・・・」
「ですが、こういう時でも傍にいることを許されるのはヤナップくらいでしょう。ヒヨリを頼みますよ」
「ナァップ!」
ノボリが頭を撫でれば、ヤナップはわかった!と言うかのように頷いた。
眠っているヒヨリに近づき、頬にそっと口づけた。
「悲しくて泣きたくなったらいつでもわたくしやヤナップを頼ってください。しっかり抱き留めますから」
そう言うとノボリはヤナップを連れて部屋を後にした。
眠っているはずなのにヒヨリの目からはまた、涙が零れ落ちた。
それはまるでブドウの実のような、一粒の涙。
ブドウ一粒、私の涙