ヤナップがヒヨリの元に戻ってきて、数日が経った頃。
地下鉄で仕事をしていたヒヨリはヤナップ、ノボリ、クダリと一緒に昼食をとっていた。
君だけにとびっきりのオレンジスマイル
ご飯を食べ終わったヒヨリが手を合わせた。
今日はカレーを食べたようだ。
「ごちそう様でした。ご飯、おいしかったね」
「ナァップ!」
横にいたヤナップに声をかければ、ヤナップも嬉しそうに声を上げた。
ヤナップのご飯はポケモンフーズをヒヨリが少しアレンジしたもので、
ヤナップはヒヨリが作ったもの以外はあまり口にしないのだ。
「そうだ、ヤナップ。オレンジジュース飲む?」
「ナップ!」
「食器片付けたらジュース買おうね」
そう言うと、ヒヨリは椅子から立ち上がった。
食器を持って、洗浄のカウンターへと歩いていく。
ヤナップも借りたポケモンフーズ用のお皿を持って、ヒヨリの後ろをてちてちと歩く。
カウンターまでくれば、食器を棚の下に置く。
ヤナップがお皿を持って鳴けば、ヒヨリはヤナップからお皿を受け取り自分が置いた食器の横に置いた。
ヒヨリの肩に乗り、2人でごちそう様、と挨拶をする。
食堂で働く店員もありがとう、と言う。
ヒヨリとヤナップは顔を合わせて、横にある自販機へと歩いて行った。
その光景をノボリとクダリは優しいまなざしで見ていた。
ふと思った事をクダリがノボリに聞く。
「ノボリ兄さん、妬かないの?」
「何がですか、クダリ・・・」
「ヤナップとヒヨリちゃんの仲の良さにだよ」
「最初は妬いていました。しかし、ヒヨリにはヤナップも必要なのだと思ったら、不思議と妬かなくなりましたよ」
ノボリとクダリはヒヨリとヤナップへの視線を未だに外さない。
「へぇ・・・。ほら、よく恋人のポケモンに妬くって聞くじゃないか。ノボリ兄さんにはないんだ」
茶化すように言ってノボリが顔を赤くなるのを期待したつもりが、
そのまなざしは真剣な表情になった。
「ヤナップが居なくなった時のヒヨリをあなたもみたでしょう?」
「うん、ヒヨリちゃんから笑顔が消えたよね・・・」
ノボリの表情が少し暗くなれば、クダリの表情も同じように暗くなった。
少し切なそうにヒヨリとヤナップを見た。
2人は楽しそうに自動販売機にお金を入れて、ジュースを買っていた。
そして、笑いあっている。
「あの時に思ったのです。ああ、彼女にはヤナップが必要なのだと。
もし、わたくしがヤナップに妬いたとしてヒヨリとヤナップを引き裂くようなことをすれば、ヒヨリはわたくしに笑いかけることはなくなるしょう。わたくしはヒヨリの笑顔が好きで御座います」
「・・・!」
―――ノボリ兄さんってこんな表情(かお)もしたっけ?
その時のヤナップとヒヨリのやり取りを見ていたノボリの表情は、
クダリも見たことのない、フルーツのオレンジのような穏やかで柔らかいものだった。
これはヒヨリにだけ向けられる、とびきりの優しくて愛に満ちた笑顔。