好きな女性の事は些細な事でも知りたくなるものです。
これはお付き合いを始めた時のヒヨリとの会話で御座います。
やっぱり初恋はレモンの味?
「ヒヨリ、初恋はいつですか・・・?」
「えっ、初恋・・・ですか?」
横でヤナップと群れていたヒヨリに初恋は何時か、と聞いてみれば、
きょとんとした表情でノボリを見上げた。
ヤナップも不思議そうにノボリを見上げる。
ヒヨリは少し考えると、懐かしそうな表情を浮かべて言った。
「初恋は幼稚園の時ですね」
「そう、なんですか?」
驚きました。
まさか初恋が幼稚園の時だなんて。
少し驚いた表情を浮かべれば、ヒヨリは苦笑した。
「何時だと思ったんですか?」
「元彼が初恋の相手かと・・・」
「違いますよ!確かに元彼は好きでしたよ。でも、なんか違うんですよ」
「違う、とは?」
何かが違う。
どういう意味なのだろうか。
「好きでも、本気で好きではなかったんじゃないかって思って」
「ほう・・・」
「だって、元彼とはその・・・キス以上のこと、したくありませんでしたし・・・」
キス以上のこと、はつまり。
ヒヨリは恥ずかしいのか、頬を赤く染めて俯いたかと思えば、
眉を八の字にしてノボリの顔を見据えた。
「何か思ったんです。この人にすべてを捧げてもいいのかなって」
「と、申しますと?」
「なんだかつながった途端に捨てられそうな気がして。案の定、やれないから付き合えないって言われましたし。何なの、本当。思い出しただけでむかつく・・・」
だんだん怒りを含む言葉にヤナップは肩をびくっと震わせてヒヨリを見上げた。
「ヤナナ?」
「あ、ごめんね。ヤナップに怒ってるわけじゃないからね?」
「ナプゥ・・・?」
優しく微笑み、ヤナップの頭を撫でるヒヨリ。
ヤナップは何のことだろう、と首を傾げる。
「話がそれましたね。初恋が幼稚園・・・ですか」
「でも、幼稚園でもよく覚えてないんです・・・」
「覚えてないのですか?」
「どんな気持ちだったのか、全くと言っていいほど覚えてないんですよ。
気になってた、だけなのかもしれないですけどね。ドキドキ感もなかったですし」
小さいころの儚い記憶。
ドキドキ感がなくても、うっすらと心が憶えている。
ホカホカとしたあの気持ち。あのころはこの気持ちがよくわからなかった。
大人になった今だからわかる、あの気持ち。
「ほう・・・。元彼・・・もでしょうか?」
「言われてみれば、元彼にもそんなにドキドキしてないかも・・・。告白してきたのも向こうですし」
「そうだったのですか・・・」
告白してきたのも元彼。
ノボリもヒヨリ告白した。
元彼がヒヨリに告白したくなるのもわかる気がする。
こんなにも一途に思ってくれる彼女はこの世界にいるだろうか。
ただ明らかに違うところが一つだけある。
ノボリが告白した時、返事を待つと言った。
返事を聞く前に聞いてしまった、ヒヨリの気持ち。
ヒヨリも、ノボリを好きになっていたということだ。
その事実に気が付き、ノボリは目を細めてヒヨリを見た。
「はい。ちなみにノボリさんの初恋は・・・」
「ユウコです。ですが、ユウコへの想いは儚く終わりましたけども」
「いいなぁ、ユウコさん。ノボリさんの初恋の人で・・・」
ヒヨリは羨ましそうな表情を浮かべた。
「そうで御座いますか?」
「私が初めて好きになったのって、ノボリさんかな?」
「どうしてで御座いますか?」
「初恋は確かに小さい時だったけど、その時は好きって意味わかってなかっただろし・・・。元彼は自分から好きになった訳じゃないから・・・」
ヒヨリが言いたいのは、初恋と言っても小さい時でその時の気持ちがよくわからなかった。
元彼は好きだと言われてもドキドキするほどの好きな気持ちは生まれなかった。
それに自分から好きになった訳でもない。
思いがすれ違うこの感覚は、まるでレモンを食べた時の酸っぱさだ。
「まるでレモンの味、ですね」
「え?」
目を丸くしたヒヨリにノボリは微笑んだ。
「言いませんか?初恋はレモンの味って」
「どういうことなのかな・・・?」
「酸っぱいってことで御座いますよ。叶わぬ恋みたいな」
「ファーストキスはレモン味、って言うのと何だか似てるね」
「ええ。ですが、ヒヨリ。わたくしが初恋の相手だとしても、わたくしはレモンのような酸っぱい恋には致しませんので」
「どういう意味?」
首を傾げたヒヨリをそっと引き寄せて、耳元で囁いた。
「酸っぱい恋ではなく、甘い甘い恋をあなたとしていきますよ」
顔を赤くして見上げたヒヨリにノボリは口づけた。
数分後、2人に挟まれて苦しくなったヤナップが声を上げるのはまた別のお話。