両手に買い物袋を下げて、ヒヨリは地下鉄を歩いていた。
食材や消耗品などの生活に必要なものをまとめて買ったのだ。
買いすぎたかな、と思いながらてちてちと駅構内を歩いていく。
「う・・・重い・・・」
「ヤナナ、ヤナナップ?」
ぽつりと出てしまった言葉にヤナップが心配そうにヒヨリを見上げた。
「大丈夫だよ、ヤナップ」
「プゥ・・・ナププ」
大丈夫とは言うものの、ヤナップはヒヨリが心配だった。
ヒヨリの持っている荷物を手で叩きながらヤナップは鳴いた。
「え、荷物持ってくれるの?」
「ナァップ!」
ヒヨリの言葉にうん、とヤナップは両手を上げた。
「ふふ、じゃあ、メロンをお願いしようかな」
買い物袋に入っている大きなメロン。
通常のメロンより少し値段が張っていたもの。
だがこのメロンは高いだけではなく結構大きいのだ。
ヤナップにメロンが入った袋を渡せば、予想以上の大きさにヤナップの身体がよろけはじめた。
「ナァップ!ナププ・・・」
「あ、メロン重かった?じゃあ、こっち持ってくれる?」
「ヤナァ!ナップ・・・ナププッ!」
もう片方の手にある、買い物袋。
こっちは今のメロンよりも軽い。
軽い方をヤナップに渡そうとすると、ヤナップは嫌がる素振りを見せた。
だが、ヤナップはメロンの重さに耐えきれないのか、ホームに倒れそうになった、
「あ、ヤナップ危ないよ・・・!」
倒れる、と思ったがヤナップの身体は倒れなかった。
「ナプ?」
不思議で顔を見上げれば、そこにはノボリがにこっと笑って立っていた。
どうやらノボリが倒れそうになったヤナップを支えたらしい。
「ヤナップ、ヒヨリを助けたい気持ちもわかりますが、無理して重いものを持たなくてもいいのですよ?」
そう言うと、ノボリはヤナップの手からメロンの入った袋を取った。
「ノボリさん!」
「ナップ・・・」
ヤナップはノボリにメロンの入った袋を取られたのがショックだったのか、耳をしおらせ俯いてしまった。
「随分と買いましたね。お持ちしますよ」
それどころか、ノボリはヒヨリの手に持っていた荷物のほとんどを持ってしまっている。
「ありがとう、ノボリさん」
「ヤナァ・・・」
羨ましそうにノボリを見るヤナップ。
どうしてこんなにも差があるのだろうか。
ノボリみたいに身長も高かったらたくさんヒヨリの役に立てただろうに。
つくづく、自分がポケモンであることを恨んだ。
涙が出そうになる。
それに気づいたのか、ヒヨリはヤナップと視線を合わせるためにしゃがみこんだ。
そっと、頭を撫でてやる。
「ヤナップ、気を落とさないで?私、ヤナップの気持ち嬉しかったんだから。ありがとね、ヤナップ」
「ナァップ!」
にこっとお礼を言えば、ヤナップに笑顔が戻った。
「さて、もうすぐわたくしの仕事も終わりで御座います。ヒヨリ、ヤナップ。
事務室で待っていてくださいますか?せっかくですし、一緒に帰りましょう」
「うん、そうする!」
「ナァップ!」
そう言うと、ノボリはヒヨリとヤナップを連れて事務所の方まで歩いていく。
「しかし、このメロンは随分と重いで御座いますね・・・」
「このメロンね、高級メロンなんだよ。ちょっと奮発しちゃった」
「高級メロン・・・まるでヒヨリみたいですね」
「・・・え?」
ポツリと出た言葉にヒヨリは目を丸くする。
横ではヤナップがうんうんと鳴いていた。
「ナップ!」
「ヤナップもそう思いますか?」
「ナァップ!」
ヤナップは片手を上げてまた鳴けば、ヒヨリの肩に乗るのだった。
ノボリとヤナップの会話に首を傾げたヒヨリ。
今日も無事に地下鉄の業務は終わりを告げるのだった。
君を例えるなら高級メロン
(わたくしとヤナップにとって、ヒヨリはこのメロンと同じように高級なので御座います)