唇(クダリ)


私は今、壁とクダリさんの間に挟まれている。
目の前には、クダリさんの真剣な眼差し。

「ナマエ・・・」
「く、クダリさん」

耐えられず、視線を逸らしてしまう。
どうして、こうなってしまったのだろうか。

えぇと、確か、いつものように二人でランチをして。
クダリさんの一言が原因だったんだっけ。

「ね、ナマエ」
「何ですか?」

クダリさんに呼ばれるが、視線は雑誌のまま呼びかけに答える。

「キス、しよっか」
「え?」

思わずクダリさんを見た。
クダリさんはニコニコしながら私に近づいてくる。
私はパニックからか、読んでいた雑誌をそのままにして、部屋中を逃げ回った。
一歩、一歩と下がっていけば、クダリさんも私の方へ近づいてくる。
ついに背中に衝撃を受ける。
壁に遮られ、クダリさんの腕が伸びてきて、逃げ場を失った。
目の前にはクダリさん。

確かこうなったんだっけ。
そう、考えていたら、クダリさんの顔が近づいてきた。

「ちょ、ちょちょ!待ってクダリさん!」
「だーめ。待てない・・・」
「ちょ、・・・っ!」

唇に来るであろう、出来事に思わず目をつぶる。
だが、思ったものはいつまでたっても来ない。
不思議に思った私は恐る恐る目を開けた。
そこには、少し悲しげなクダリさんの表情があった。

「ナマエ、僕とキスするの、嫌?」
「え?」

思いもよらない言葉が耳に入ってきた。
私はきょとん、としてクダリさんを見た。

「僕はナマエが好き。誰よりも愛してる。だから、君が嫌がることはしたくないんだ」
「クダリさん・・・」

そう言って、私の髪を掬ってキスをすると、また私の方を見た。

「嫌なら嫌ってはっきり僕のこと、突っぱねて」

私はクダリさんからの視線に耐えられず、目を逸らしながら言葉を紡いだ。

「あのね、私、まだキスすることに慣れてなくって、それで・・・」

クダリさんのキスは好き。
優しくて、暖かくて。
だけど、こういうことに不慣れな私はいつも戸惑うばかりで。

「心の準備が・・・」

私がそう言うと、クダリさんの両手が私の顔を包んだ。
こつん、とクダリさんの額が私の額とくっついた。

「大丈夫、僕に任せて」
「うん」

クダリさんの唇が近づいて来る。
目を閉じれば、クダリさんの優しいキスが唇に触れた。


唇にキスするのは、愛情の証。
(君が好きだから、キスしたくなるんだ)


おわり。
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