葛藤


付き合ってだいぶ経つ。
たまにお互いの家に泊まったりして、一緒に寝るけど、
彼女とはまだ一度もそう言った行為はしていない。

泊まる度に理性との戦いになるなんて彼女は知らないだろうなぁ。


葛藤


ガチャ、と寝室の扉が開かれた。
ドアの前にはお風呂上がりのナマエが立っていた。

「お風呂、ありがとうございましたー!」
「うん、じゃあ寝ようか」

読んでいた雑誌をパタンと閉じてテーブルの上に置いた。
ベッドに潜るため、布団を捲り上げる。
僕がベッドに入っても、ツバサはいつまで経ってもこっちにこない。
ツバサの方を見れば、ドアの前で下に俯いていた。

「どうしたの?早くおいでよ」
「あ、うん・・・」

頬を染めた顔を上げて、僕の方へ来たナマエ。
ベッドに入り、布団をかける。
ナマエを抱きしめようとすると、ナマエはくるりとドアの方を向いてしまった。
耳が微かに赤い。僕は上体を少し起こした。
ナマエの流れる髪を耳にかけて、そっと唇を寄せた。

「ナマエ、こっち向いて」
「やだよ、恥ずかしいもん・・・」

ぴくん、と肩を震わせるが、恥ずかしいと言ってナマエはこっちを向いてくれない。
どっちの家に泊まっても、寝るときはいつもこんな感じだ。
僕はナマエの肩に手を置き、彼女の身体を無理矢理僕の方へ向かせた。

「ひゃ・・・」

小さくて、可愛い悲鳴が聞こえてきた。

あれ、僕がナマエを見下ろしてる形に、ナマエが僕を見上げてる形になってる。
まるで押し倒したみたいだ。

僕は目を細めて、少しだけ口角を上げた。
ナマエの赤くなった頬に優しく手を添えた。
微かに震えてるのは、気のせいなのだろうか?

「ナマエ、顔赤いよ」
「だってだって、クダリさんを間近で感じてドキドキして・・・」

僕は固まった。というか、理性が外れそうになった。
僕を間近で感じてドキドキして、って。
それは僕を意識してるって言ってるようなものだよ?
僕を煽るの?そんな可愛いこと言ってると―――。
君を、壊してしまいたくなる。

「・・・クダリ、さん?」

きょとんとした、だけどどこか不安げな目で僕を見てくる。
ゆっくりとナマエとの距離を縮める。

「・・・ナマエ」

ナマエの名前を呼ぶ。
びくん、と反応するナマエの身体。

もし、ここで君を抱いたら?
優しくできないかもしれない。

君は僕の欲望を受け入れられる?
壊したいと思う半面、壊したくない。

僕は最後の理性を繋ぎとめた。

「おやすみ」

それだけ言うと、僕はナマエの唇にキスを落とした。
そのまま壁際の方へと身体を向けた。

「クダリさん・・・!」

心での葛藤が終わったかと思ったら、今度は彼女が抱き着いてきた。
胸が当たってる。これわざとなの、ねぇ!?
また理性が崩れそうになる。
ナマエに悟られないように、彼女の手に己の手を重ねた。
やんわりとその手を剥がした。
そのままの態勢でナマエに言った。

「ナマエ、僕から離れて。じゃないと、僕、君を壊しちゃうかもしれない」
「クダリさんに・・・クダリさんに壊されるなら本望だよ・・・」
「・・・っ」

そう言ったナマエの身体は震えていた。
僕は言葉を失った。
一呼吸おいて、ナマエと向き合った。
頬に手を添えれば、ナマエがピクンと反応して顔を上げた。
その目は潤んでいた。

「ナマエ・・・」
「覚悟は・・・覚悟はできてるから・・・」

ああ、そうか。
その言葉を聞いて僕はわかった。

ナマエに、拒否されるのが怖かったんだ。

僕は目を細めて笑った。
ナマエの目からは一粒の涙が流れた。
その涙を指で掬ってやる。

「泣かないで。君の気持ちが聞けただけで僕は嬉しいよ」
「クダリさん・・・」
「今日はもう寝よう。今度泊まりに来たときは覚悟してよ?」
「うん、わかった・・・」

僕が少し妖しい笑みで言えば、ナマエは赤くなった顔でこくんと頷いた。

「クダリさん」
「ん?」
「私のこと、大事にしてくれてありがとう」

そう言えば、ナマエは僕の頬に一つキスをした。
そういう、一つ一つの仕草が僕を狂わせてるの、わかっているのかな?


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