聖なる夜のプロポーズ


「ナマエ!」
「はい?」
「クリスマスは一緒に過ごそう!!」
「え、でもお仕事・・・」
「仕事終わってからだから遅くなっちゃうけど、クリスマスは君と過ごしたいな」
「はい・・・っ!」


聖なる夜のプロポーズ


待ち合わせは7時。
場所は地下鉄の入り口。
ここでナマエは大好きな彼、クダリを待っていた。
待っている間も外は寒くて。身震いして身体を縮こませた。
はぁ、と手に息を吹きかけて手をこすり合わせる。

仕事で忙しいのに、自分の為に作ってくれた時間。
クリスマスも忙しくて会えないだろうと思っていたから、ナマエは余計に嬉しかった。

うきうきした気分でクダリを待っていると、後ろから男の声が聞こえてきた。

「かーのじょっ!可愛いね。俺らと遊ばない?」

顔を上げれば、2人組の男がにやにやしながらツバサを見ていた。

「すみません、待っている人がいますので・・・」

そう言ってその場から離れようとするが、手首を掴まれてしまった。

「ちょ・・・離して・・・!」
「そんな奴、どこにもいないじゃん」
「君、捨てられたんだよ」
「そんなわけ・・・!」

クダリに限ってそんなことはない、泣きそうになるナマエ。
横から別の手が男の手を掴んだ。
ナマエの手首から男の手を引き剥がすと少し低めの声で言った。

「誰が彼女を捨てたって?」
「クダリさん!」

ナマエがクダリの名前を呼べば、男は顔を青ざめた。

「クダリ・・・だと!?」

ナマエを自分の後ろへ隠し、男達に笑みを向けた。
その笑みはどこか凍り付いているような気さえする。

「君達、僕の彼女に手を出そうなんて良い度胸だね?」
「す、すみませんでしたぁぁあ!」

男達は即座に逃げて行った。

「ふぅ・・・大丈夫?」

クダリは一つため息をつくと、ナマエに優しい笑顔を見せた。

「え、あ。はい・・・」
「あいつら、ナマエが僕に捨てられたとか言ってたけど、そんなこと絶対にないから」

クダリのその言葉にはどこか怒気があったように感じた。
ナマエもクダリが自分を大切に思っていてくれるのをわかっているから、
そんなことは絶対にないと信じていた。
結果、来てくれて助けてくれた。
ナマエは後先もクダリと離れることは決してないと思っている。
自然と笑顔が生まれた。

「はい」
「じゃ、行こうか」
「はい!」

さりげなく繋がれた手。
クダリのぬくもりを感じながら歩き出す。

「どこ行くんですか?」
「うん?ちょっと行きたいところあって、ね?」

そう言われて連れてこられたのは、ライモン遊園地の入り口。
入り口をくぐり、とある場所にやってきた。

「ここだよ」
「え、ここって・・・」
「そ、イルミネーションの迷路だよ」

毎年クリスマス限定に行われるイルミネーションの迷路。
実はナマエは1度来てみたかったのだ。

「わぁ・・・」

期待を膨らませるナマエ。
クダリはナマエの手をきゅ、と握った。

「絶対出口まで行くんだ。行くよ」
「?クダリ、さん?うん・・・」

何かに燃えているクダリ。
首を傾げるも、クダリに連れられ迷路に入っていく。
迷路の行き止まり。
何もないのに、壁の向こうから何かが出てきた。

「きゃぁぁぁぁぁぁ!」

ナマエは悲鳴に近い声をあげてクダリに抱き着いた。

「ひぃぃぃいいいい」
「あはは、ナマエ面白い!行き止まりに来ちゃうと、お化けが驚かせてくれるんだ」
「そんなサプライズいらないよぉぉぉおおお」

半泣きになってクダリの腕にしがみつくナマエ。
離れまい、とぎゅうとしながら辺りをきょろきょろする。
イルミネーションの迷路とはいえ、ある意味お化け屋敷だ。
ようやく出口までやってくると、目の前にはキラキラと輝く大きなクリスマスツリーがあった。

「わぁ・・・」

イルミネーションがいくつも光っていて、七色の虹のようだった。

「綺麗・・・」

クダリが燃えていたのは、きっと自分にこれを見せたかったから。
すっかりツリーに見とれてるナマエの名前をクダリは呼んだ。

「ナマエ」

呼ばれてクダリの方を見れば、ゆっくりと近づいてくる顔。
ナマエは目を閉じ、クダリのキスを受け入れる。
触れるだけのキスをすれば、唇がゆっくりと離れていく。
クダリはナマエの身体をそっと抱きしめた。

「さっきも言ったけど僕がこの先、君を手放すことは絶対ないから」
「クダリさん?」

顔を上げてクダリを見れば、クダリはにっこり笑った。
イルミネーションの効果なのか、クダリの笑顔がいつもよりかっこよく見える。
見ていられなくて、少しだけ顔を逸らすが、クダリがナマエの頬に手を置く。
前を向かされ、そのまま流れるように指で顎を掬い上げた。
そしてもう一度ナマエの唇にキスをする。

「さっきナンパされてた時に思ったんだ。君は一生、僕が守るって」
「・・・っ、クダリさん。それって・・・」
「そう言う意味で取ってくれていいよ」

クダリの思いがけないプロポーズの言葉に、ナマエの目からは涙が零れた。
クダリはまた優しく笑うと、ナマエの目元に指を当てて涙を拭いてやる。
まだ涙が残る目元にキスを落とす。

「泣かないで」
「これが泣かずにはいられないよ・・・」

涙交じりにナマエは笑った。
クダリはナマエの身体を少しだけ離す。

「ナマエ、手、貸してくれるかな?」
「手?」

言われるがまま両手を差し出したナマエ。
クダリは右手を取ると、ポケットから指輪を取り出した。
クダリはその指輪をナマエの薬指にはめて、そこにキスをする。

「・・・!」
「いつかちゃんとしたの贈るから。今はこれで我慢してくれるかな?」

本当は今日、プロポーズする気はなかった。
自分がナマエにと買った指輪はどこの雑貨屋さんにでもあるような
ハートのモチーフの指輪だったから。
プロポーズはちゃんとした指輪でしたかったけど、
ナマエがナンパされてるところを見たら気が気じゃなかったから。

「十分だよ。可愛い・・・」

ナマエは愛しそうに右手の薬指を見た。

「気に入ってもらえて嬉しいよ」
「ありがとう、クダリさん。あ、私もプレゼントあるの」

そう言って、ナマエはバッグから少し大きめの包みを取り出した。
それをクダリに渡した。

「開けて良い?」
「うん」

かさかさ、と包みを開ければ、そこにはシビルドンの形をした抱き枕が顔を出した。

「これ・・・」
「シビルドンの抱き枕だよ。前に欲しいって言ってたから」
「嬉しいよ、ありがとう。ナマエ」

ナマエの身体をもう一度引き寄せて、抱きしめた。
包みを元に戻して、クダリはナマエの手を握った。

「さ、帰ろうか」
「うん」

そう言って迷路を抜け出し、ライモン遊園地から出てきたクダリとナマエ。
歩いていく方向がナマエの家とは別の方向で。

「あれ、私の家反対方向だよ・・・?」
「僕の家に行くんだよ」
「え?」

ナマエはきょとんとしてクダリを見上げた。
クダリはナマエの額にキスを落とす。

「今日、泊まっていきなよ」
「う、うん・・・」

意味が分かったナマエは顔を赤くして頷く。
クダリがまたナマエにキスをしようと顔を上げさせる。
ゆっくり近づくクダリの顔。
唇と唇が触れ合う寸前でナマエの声が漏れた。

「あっ・・・」
「どうしたの?」
「見て、雪・・・!」

ナマエが空を指差せば、暗い夜空からは白い雪が降ってきた。

「どうりで寒いわけだよ・・・」
「今年はホワイトクリスマスですね!」
「そうだね」

クスリと笑いあって、ナマエとクダリは自然に手をつなぐと、
クダリの家へ歩いていくのだった。


[戻る]
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -