背中越しのキス日が沈んだライモンシティ地下鉄。
ナマエはクダリと待ち合わせをしているため、駅のホームの入り口に佇んでいた。
―――クダリ君、早く来ないかなぁ。
両手を摩り、息を吹きかける。すっかり冬の気温になり、身体は冷えてしまっていた。暖かい格好はしているが、ナマエは冷え性の為に、外の空気がより一層冷たく感じる。
―――寒い・・・。
身震いをしていると、自分の元へ一つの影がやってきた。
背中越しのキス
「ごめん、ナマエ。待った?」
影の主はナマエが待ち焦がれてたクダリだった。
「ううん、大丈夫」
「手がこんなに冷えちゃって・・・」
クダリはナマエの両手を包むように握った。
その行動にナマエの頬が赤く染まる。
「クダリ君・・・!」
「それに、恋人同士なんだから、僕のことは”クダリ”でいいのに・・・」
クダリは苦笑した。
ナマエはクダリが年上のためか、なかなかクダリのことを呼び捨てで呼ぶことができない。
よく、小説でありがちな呼び捨てしないとお仕置きとか言われないだけマシなのかもしれないが。
クダリはナマエの手を握ると、ポケットに手を突っ込んだ。
「さ、行こうか」
「うん!」
2人で歩く駅の階段。
クダリが前、ナマエが後ろを歩く。
キスするにはちょうどいい高さに、ナマエはふと思ってしまった。
―――あ。キス、したいかも。
クダリと付き合い始めた時から微かにあった憧れ。それは、階段などの段差のところでキスすることだった。クダリは自分にキスするとき、たいていは屈んでくれる。
自分からキスするときは(と言ってもほっぺ程度だが)、背伸びをしないといけない。
ナマエとクダリの身長差は明らかなもので、自分の頭のてっぺんがクダリの胸の当たりの高さというわけだ。
クダリの背中を見つめるナマエ。
階段を下り切ったところで、クダリの動きが止まった。
「クダリ、君?」
「ナマエ・・・」
ナマエのほうへ振り向くと、クダリはそのままナマエの顔に影を落とす。
「クダリ・・・」
くん、とは言えずにナマエの言葉はそのままクダリの唇に飲まれた。
そっと触れるだけのキス。名残惜しそうにナマエの唇から離れていく。
ナマエは顔を赤くした。
「ごめん、背中越しからキスしたいって言うの何となくだけどわかっちゃった」
聞けばどうやら無意識にクダリの手を強く握っていたらしい。
ナマエはそのままクダリの胸に額をこつんとくっつけた。
「ううん、嬉しい。段差にのぼってキスっていうのしてみたかったし・・・」
「僕も同じこと思ってた」
そう言ってクダリはナマエを抱きしめた。
「ナマエ」
「なぁに?」
「今日、僕の家に泊まっていかない?」
「・・・うん」
意味を察したのか、ナマエは顔をさらに赤らめて頷くのだった。