バレンタインデー昼休憩直前に鳴ったライブキャスターの通信音。
ボタンを押せば、クダリの大切な彼女からのものだった。
「ごめんね、クダリさん!今日はとあることに集中したいから、そっちいかない!!」
「え、ナマエ?それどういう意味・・・」
「わーっ、チョコ焦げる〜!!」
電話の向こうで慌てた声がしたかと思ったら、ライブキャスターがぷつりと途切れた。
余程慌てたのだろうか。
「チョコ・・・?」
何か特別なことでもあるのだろうか。
首を傾げ、クダリはライブキャスターの日付の表示を見た。
今日は2月13日。明日は2月14日。
世間一般的にはバレンタインデーの日だった。
「あ。明日はバレンタインデーだったんだね」
自分の為に手作りチョコを作ってくれるんだなと思うと、自然と笑みが漏れてくる。
クダリのその笑みに、横にいるノボリが首を傾げた。
「どうしました、クダリ?」
「ノボリ兄さん?明日はバレンタインデーなんだなぁと思って」
「バレンタイン、ですか。去年を思い出しますね」
ノボリの脳裏には、去年のバレンタインデーの悲劇が浮かぶ。
どこへ行っても、ノボリとクダリにチョコを渡そうとする沢山の女の子の姿があった。
終いには追いかけられたり、ロッカーに詰め込まれたりと、いい思い出がない。
その数は数えきれないほどだ。
「うん。去年は色んな女の子たちからたくさんチョコもらったよね。食べきれないくらいに」
「しかし、今年はわたくしにもあなたにも本命がいます」
ノボリの言葉にこくん、と首を縦に振る。
「彼女以外から貰うつもりはさらさらないよ」
ノボリもクダリのこの言葉に頷く。
彼女の、ナマエ以外のチョコは何もいらない。
もし、明日女の子たちに迫られても絶対に受け取らないと。
ノボリもクダリもそう心に誓っていた。
「ところでクダリ」
「何、ノボリ兄さん?」
「遠い国では、バレンタインデーは男性からもプレゼントを贈るところもあるみたいで御座います。あなたもナマエ様に何かプレゼントを考えてはいかがでしょうか?」
「プレゼント・・・かぁ」
―――――――
翌日、ナマエから今日の夜に会いたいと連絡が入った。
待ち合わせをし、クダリの家に向かって歩いていく。
家に着き、リビングで寛げば、ナマエがカバンからごそごそと何かを出し、
それをクダリに手渡した。
「クダリさん、はい。ハッピーバレンタイン」
「ありがとう」
受け取れば、メッセージカードも一緒にラッピングされたリボンに括り付けられていた。
カードを見れば、ナマエらしい愛の言葉が書かれていた。
『いつもありがとう。大好き』
フッと、笑ってカードを閉じる。
チョコと一緒にテーブルの上に置いた。
「そういえば、クダリさんってバレンタインの日って女の子からチョコもらったりするんですか?」
「うん、去年は食べきれないくらいのチョコが・・・」
昨日のノボリとの会話を思い出しながら、クダリは苦笑した。
もう、あんな思いは2度としたくない。
今日だって、たくさんの女の子にチョコを受け取ってと志願されたが、全て断った。
目の前の、大事な彼女の為に。
「うえ・・・。貰う方も大変ですね」
ナマエもクダリの言葉に苦笑した。
クダリはにっこり微笑むと、ツバサをそっと抱きしめた。
「大変だよ。でも、今年は違うよ」
「違うって何がです?」
顔を上げれば、微笑んだクダリがナマエを見下ろす。
クダリがそっと人差し指をナマエの唇に宛がった。
「僕には君がいる。貰うチョコは君からので充分だよ」
かぁぁぁっと、頬を赤らめ、ナマエは俯いてしまった。
「そうだ僕からもプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
「ノボリ兄さんが言ってたんだけど、バレンタインデーは遠い国では男性も女性にプレゼントするんだって」
そう言えば、クダリは数本のバラが包まれた花束をナマエに渡した。
「わぁ・・・。ありがとう、クダリさん」
「それともう一つプレゼントあるんだ」
ナマエが持ってる花束を取り上げ、テーブルの上に置けば、そっとツバサを組み敷いた。
「え?」
何が起きたかわからずに、目をぱちくりとさせれば、クダリの顔がナマエの顔を覗きこんだ。
フッと微笑んで、ナマエの唇に一つキスを落とせば、ニヤリと笑った。
「僕だよ。僕の愛を君にあげる」
「え、クダリさんの愛・・・?」
言ってる意味がわからない、と首を傾げたナマエにもう一度クダリはキスをする。
耳元へ唇を寄せれば、飛び切り甘くて低い声で囁いた。
「今夜は帰さないよ」
顔を赤らめたナマエをそっと抱き上げ、寝室へと消えて行く。
その後、2人はとびきり甘い夜を過ごしたのだった。
バレンタインデー
(2人の気持ちを確かめ合おう)