定刻。
ノボリがヒヨリのいる売店へ迎えに行くと、ヒヨリは食品庫にいるとヨシエから聞き、食品庫にやってきた。ドアを開けてみれば、ヒヨリの姿はどこにもなかった。
視界にあるのは、大きい脚立のみだった。

「ヒヨリ?」

ヒヨリの名前を呼びながら食品庫の中へ足を踏み入れていく。
脚立の上からゴソゴソと物音が聞こえてくる。
ノボリはその場所にたどり着くと、上を見上げた。
そこにはヒヨリの下半身と思われるものが脚立から離れ、ふよふよと浮いていた。

「ヒヨリ、何をしていらっしゃるのですか?」
「ノボリさん?ちょっと奥の方の物が欲しいんですけど、なかなか取れなくて」

足をばたつかせながら、棚の奥にある目的のものに手を伸ばす。
ノボリはその光景が見ていられず、冷や汗を流した。

「あ、危ないですから、わたくしがとりますよ?」
「大丈夫ですよ。あ、とれ・・・」

取れたと同時に足のばたつきも収まり。
足を脚立に落とし、上半身を出した時、脚立がぐらりと揺れた。
どうやら強く脚立を踏んでしまったようで、脚立がバランスを失う。
当然、ヒヨリの身体も揺らいだ。

「ヒヨリ!?」

ガシャーンという脚立が倒れた音とドサッというノボリが間一髪でヒヨリを受け止めた音が同時に食品庫に響いた。

「あたたた・・・。ヒヨリ、お怪我はありません・・・」
「ひゃっ!!」

疑問詞を投げた答えは想像以上の甲高い声だった。


「”ひゃっ!”!?」

その声にヒヨリの方を見れば、ヒヨリは顔を赤くして震えていた。
その理由がわからず、ノボリは首を傾げた。


「の、ノボリさん・・・手がその、む、胸に・・・」

胸、と言われて手の方を見た。
ノボリの手がヒヨリの胸に置かれていた。
どうやら、起き上ったときに胸に触れてしまったのだろう。
ノボリも顔を真っ赤にさせて、胸から慌てて手を離した。

「も、申し訳ございません!」

パッとヒヨリから少し身体を離した。

「ううん、良いの。それより、助けてくれてありがとうございます」
「あなたに怪我がなくて何よりです」

そう言うと、ヒヨリの胸に触れていた手をノボリはじっと見つめた。


―――ヒヨリの胸って結構・・・。


すると、食品庫の扉が開かれた。
そこに立っていたのは、ヤナップだった。
心配そうな表情を浮かべて、ヤナップはヒヨリに駆け寄った。

「ヤナナ!」
「あれ、ヤナップ?ヨシエさんと一緒にいたんじゃ?」
「すごい音が聞こえてきたからちょっと来てみたんだよ」

ヤナップの後ろから声が聞こえてくる。
声の方を向けば、そこにはヨシエが立っていた。

「ヨシエさん!」
「脚立を倒した音だったんだね。ヒヨリちゃんに怪我がなくて何よりだよ。さて、私はヤナップと仕事に戻るとするかね・・・。行くよ、ヤナップ!」
「ナァップ!!」

ヨシエに言われれば、ヤナップは一鳴きしてヨシエの後をついていく。
2人で食品庫を出ようとした時、ヨシエが足を止めてヒヨリとノボリに振り向いた。

「あ、そうそう。ヒヨリちゃん、そこでノボリさんと少しゆっくりしておいで」
「・・・え?ヨシエさん、それどういう意味で・・・」

ヒヨリの言葉を最後まで聞かずに、食品庫の扉が閉まっていった。
ヒヨリは口をあんぐりと開けて固まっていた。
ノボリはフッと笑うと、ヒヨリの頬に手を伸ばした。

「行ってしまいましたね。ヒヨリ、ここはヨシエ様のお言葉に甘えましょう」
「ノボリさんまで。それ、どういう意味・・・」

ヒヨリの言葉はノボリの口づけによってかき消されたのだった。


―――――――


「たまには二人きりにしてやらないとねぇ。じゃないと、ノボリさんが可愛そうだ」
「ナップ」

売店に向かって歩いていくヨシエとヤナップがこんな会話をしていたとは2人は知るはずもなかった。


どさくさな出来事

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