ヤナップにとっては生まれて初めてのお祭り。
ヒヨリとノボリにとっては付き合い始めてから初めてのお祭り。

「ヤナップってば、甚平を自分で着るって聞かなくって…」
「良いじゃないかい、そう言う経験をポケモンがしてみても」
「でも、結局はうまくできなかったんですよ」

ここに来るまでの出来事を嬉しそうに語るヒヨリ。
ヒヨリもヤナップと同じで、今日のお祭りが楽しみだった。

さっき「ノボリの仕事が終わる」と言ってどこかへ行ったヤナップだったが、
行先は大体わかっていたため、あえて追いかけることもしなかった。

ヤナップの甚平姿をノボリはどう思ったのだろうか。
そして今日の自分の浴衣をどう思ってくれるのだろうか。




2人の彼氏



「ヨシエさん、聞いてくださいよ。ヤナップってば…」

ここに来た時からヤナップの事を楽しそうに話し続けていたヒヨリ。
その表情、声、雰囲気からもヒヨリがヤナップをとても大事にしているのがわかる。
もう、ヤナップはヒヨリと出会ったころのヤナップではない。
ヒヨリの中では今はもう家族以上の存在になっているんだなと伝わってくる。

微笑ましそうに一生懸命ヤナップの事を話すヒヨリに笑みを向ければ、一人の男が声をかけてきた。

「すみません、これ下さい」
「「ありがとうございます〜!」」
「…あ」

ヨシエは今仕事中だから良いとしても、ヒヨリは非番。
つられて言ってしまったあたり、すっかりここの従業員になっていた。
ヒヨリは苦笑して口許を押えた。

「へえ、君もここで働いてるの?」
「はい、そうです」

男に声をかければ素直にそう答えるヒヨリ。

「彼女のヤナップがこの店のちょっとした名物なんだよ」
「へぇ…見てみたいな、そのヤナップ」
「今はちょっとここにはいませんけども…」

男がじーっとヒヨリの格好を上から下まで眺めながら言った。

「ところで、そんな格好してるってことは、今日のお祭りに行くの?」
「はい、そうです」
「一人で?」

1人で、と聞いてきたところで、ヒヨリは必死に考えていた策を打ち出した。

「いえ、2人の彼氏と…」
「は?2人の彼氏?君って実は浮気性なの?」
「そう言う意味ではないですよ」
「でも彼氏が2人もいるんだろ?だったら俺とも…」

ナンパされそうだと思ったから、必死に考えた対策をしてみたのに。
これじゃあ、逆効果じゃないの…。

「ヤナナ!」

そこへ男とヒヨリの間を割るようにヤナップがヒヨリに抱き着いてきた。

「ヤナップ!」

ヒヨリもヤナップを思い切り抱きしめた。

「ヒヨリ、お待たせいたしました」
「ノボリさん!」

彼氏の登場にヒヨリは心を躍らせた。
男はノボリを見つめた。
2人の彼氏と行くのだから、当然もう一人の男がいるはずだと辺りを見回すが、
生憎人間の男は見当たらない。
まさかと思い、腕の中でヒヨリにすり寄ってるヤナップを指差した。

「あのさ、この人が彼氏だっていうのはわかったけど…もう一人の彼氏ってまさかそのヤナップの事…?」
「そうですよ」
「ナプゥ?」

何の話?、とヤナップは首を傾げる。
それはノボリも同じだった。

「とっても可愛い彼氏です」

そう言って男にずいっとヤナップを見せるヒヨリ。

「そしてうちのお店のちょっとした名物のヤナップだよ」
「え、こいつが!?」

男は驚いた表情でヤナップを見た。
何かバカにされたのかと思い、ヤナップは頬を膨らませてぷぃっと横を向いてしまった。

「ナプゥ、ナプナプゥ!」
「あ、もう…ヤナップってば…」
「ヤナップは知らない男性の前だとそういう表情が多いですよね…」
「そういう意味かよ。なんだよ、彼氏が2人って言うから俺も混ぜてもらおうと思ったのに」
「!?」

男はふてくされれば、ノボリは驚いて目をぎょっとさせた。

「ナプゥ、ヤナナ、ナププヤナップナプゥ!」

ヤナップはヒヨリはそう言うことしない。ヒヨリはノボリだけ、と男に抗議していた。

「でもお前の事も彼氏って言ってたぞ、この子…」
「ナプ…!」

そう言われれば、ヤナップの表情は一変した。

「おっといけねぇ!早くしないと彼女に叱られちまう!楽しい会話をサンキューな!」
「って、彼女いたんですか!」

ヒヨリがそう叫べば、男は手を振りその場を後にするのだった。
男がいなくなり、ノボリがヒヨリに問いを投げかけた。

「ヒヨリ、話がちょっと見えなかったのですが…」
「ナプ!」

ヤナップもノボリと同じだったようで、頷いた。

「前に1度だけナンパみたいなことされたの覚えてる?」
「え、ええ…」
「ヒヨリちゃん、モテるねぇ!」

それを聞いて茶化すように笑うヨシエ。

「あんまモテたくないです…。でね、その時にまた今日みたいにノボリさんがいない時に男の人に変に声をかけられたらいやだなぁって思ってさ。『「2人の彼氏」待ってます』って対策考えてみたんだけどね。まぁ…今の人は彼女持ちだったみたいだけど…」

ヨシエはヒヨリが「2人の彼氏」と言った時点でノボリとヤナップの事だと言うのはわかっていた。

「なるほど…ヒヨリはヒヨリなりに考えていたということですね」
「うん!」
「ナチュッ!」
「きゃ!」

ヤナップはヒヨリがナンパ対策とは言えど、自分を彼氏と言ってくれたことに
嬉しさを覚えて思わずヒヨリの頬にキスをした。

「もう、ヤナップってば」
「ヤナップは嬉しかったのでしょう。ヒヨリにそういう風に言ってもらえて。
さ、そろそろお祭りに出かけましょうか」
「はい」

ヒヨリはノボリが差し出した手にそっと自分の手を差し伸べた。
ヤナップはヒヨリの腕から降りると、ノボリの肩へと移った。

「じゃあ、ヨシエさん。行ってきます」
「あいよ!気を付けてな!」
「はい、ありがとうございます」

そう言うとノボリとヒヨリはヨシエに背を向けてお祭り会場目指して歩いていくのだった。

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