前に1度、知らない男の人に声をかけられたことがあったけど、
あの時はノボリさんが助けてくれたから、どうにかなった。
同じことは3度くらいまであるって誰かが言ってた気がする。

そんなはずがない、と思いつつもノボリさんがいない時にこういうことにもなりかねないので、ちょっと対策を考えてみたんだ。




2人の彼氏



地下鉄、バトルサブウェイ。
普段は物静かなこの場所も今日は何だか雰囲気が違う。
すれ違う人がいつもとは違う格好を身に纏っている姿が多いからだ。

今日は年に1度の夏祭り。
ヒヨリもヤナップとノボリと一緒にそのお祭りに行く予定だった。

「やっぱ浴衣姿多いね…」
「ナプゥ…?」

ヤナップを腕に抱き、ヒヨリが呟いた。
そんなヒヨリも浴衣を着ている一人だった。

「早くノボリさんとお祭り行きたいね、ヤナップ」
「ナァップ!」

そう言いながら腕の中のヤナップと笑い合った。
ノボリとは仕事が終わる時間に売店の前で待ち合わせをしている。
ヒヨリは売店までやってくると、そこの主のヨシエに声をかけた。

「こんばんわ、ヨシエさん」
「おや、ヒヨリちゃん。その浴衣は…これからノボリさんとお祭りにでも行くのかい?」
「はい!」
「ナップ!」
「ヤナップも甚平を着せてもらって…良かったね」

そう言ってヨシエがヤナップの頭を撫でれば、照れくさそうにヤナップは鳴いた。
ヤナップも今日は甚平を着ていた。
この間買い物に行き、このお祭りの為に買ったヤナップの甚平。
紺色と白の縦のしましま模様が引き立っていた。
ヒヨリの浴衣は白にピカチュウの顔が模様となっている浴衣だった。
髪の毛をまとめ上げてあるその姿にヤナップは最初頬を染める勢いでうっとりとしてしまった。

「あ、もうすぐ5時だ」
「ナァップ!」
「あ、ヤナップ!」
「よっぽど今日のお祭りが楽しみなんだねぇ、ヤナップは」
「ヤナップは今日が初めてですから…」

ヒヨリが仕事が終わる時間を呟けば、ヤナップは嬉しそうにヒヨリの腕から降りて、
ノボリが居るであろう、管理室へと走って行った。
ヤナップの心中を察したヨシエとヒヨリはくすくすと笑ってヤナップの走る後姿を見ているのだった。


―――――――


その頃ノボリは、仕事を終わらせて帰る準備をしていた。

「ではクダリ。後を頼みます」
「うん。ヒヨリちゃんと楽しんできてね」

そう言うとノボリは管理室を後にする。

「いいなぁ、僕も彼女欲しいなぁ…」

早くヒヨリ以上に好きになれる子が現れるといいな、と思いながらクダリは仕事に励むのだった。

管理室を出て歩いていれば、向こうの方から何かがこちらへ向かってきた。
その正体に気づいたノボリは、口角を釣り上げ微笑んだ。
次第に距離を縮めていくと、その何かはノボリに抱き着いたのだった。

「ナププ!」
「ヤナップ、わたくしを迎えに来て下さったのですか?」
「ナァップ!」

ヤナップを抱き留め、そう言えばヤナップは見上げてそう頷いた。

「ということは、ヒヨリはもう来ているのですね?」
「ナップ!」

そう言ってヤナップを地面へ降ろした。
よく見ると、ヤナップは甚平を着ていた。

「ヤナップ…その姿、とてもお似合いで御座いますよ」

ノボリがそうヤナップに褒めてやれば、ありがとうと言うかのように鳴く。


―――ヤナップが甚平を着ているということは、ヒヨリは浴衣姿でしょうか?


愛しい彼女はどういう浴衣を着ているのだろうか。
ヒヨリに似合うものであれば何でもいい。

「さて、ヒヨリが待っています。行きましょうか、ヤナップ」
「ナァップ!」

ノボリとヤナップが同時に歩き出す。
ヤナップのおかげで今日のお祭りの楽しみが増えたことは言うまでもない。

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