テーブルの上にある、かぶとを見てヤナップは首を傾げた。
「ナップ?」
「これはかぶとだよ。今日はこどもの日だから、そのお祝いするの」
「ヤナァ?」
ヒヨリの言葉にまたしてもヤナップは首を傾げる。
クスリ、と笑ってヒヨリはヤナップの頭を撫でた。
「別名、男の子の日。お祝いしよう、ヤナップ」
「ナァップ!!」
お祝い。
その言葉にヤナップが嬉しそうに鳴いた。
ヤナップは男の子。
ヒヨリはどうやらヤナップの為にこのかぶとを飾ったようだ。
ノボリがヒヨリとヤナップのやり取りを聞いてこちらへやってきた。
「おや、かぶとですか。懐かしいですね」
「こどもの日だから、ヤナップとお祝いしようと思って」
「それはそれは」
すると突然、ヤナップがテレビ画面を見て騒ぎ出した。
「ナァップ!」
「え?」
「ナップ、ナァップ、ヤナナ、ナァップ!」
必死に画面を叩いて訴えている。
画面の中では、時代劇が行われていた。
戦国時代の、争っているシーン。
「え、時代劇ごっこやりたいの?」
「ナップ!!」
ヒヨリがそう言えば、ヤナップは頷いた。
どうやらかぶとを連想して時代劇をやりたいようだ。
テレビではかぶとを被った武者が攫われた姫を助けるためのお話をしていた。
それに置き換えての時代劇ごっこだった。
「お姫様はヒヨリで、わたくしが姫をさらった悪いやつ、と言ったところでしょうかね・・・?」
「で、ヤナップがかぶとを被った勇者・・・?」
「ナァップ!!」
ヤナップは「うん」と頷いた。
雰囲気を出すために、新聞紙で剣とかぶとを作ったヒヨリ。
それを身に纏い、ヤナップは嬉しそうに鳴いた。
「これでいいかな?じゃあ、やってみようか」
「ええ」
「ナァップ!」
そう言うと、ノボリはヒヨリの後ろに立つと腕を首に回した。
悪役っぽく演じるが、相手は大事なヒヨリ。
ヒヨリが苦しくないように、最小限の力でノボリは腕に力を入れる。
「姫、一緒に来ていただきましょうか」
「きゃっ!誰か助けてっ!!」
ヒヨリ演じる、ヒヨリ姫。
姫の叫びにタイミングよく現れるナイト。
頭にかぶとを被った伝説の勇者だった。
「ヤナァ!ヤナナ、ナァップ!!」
「勇者ヤナップ!!」
新聞紙の剣をノボリに向かって突き刺した。
勝負しろ、と言うかのように。
「ほう、このわたくしに勝負を・・・?良いでしょう」
ヒヨリを安全な場所へと移動させ、ヤナップと向き合ったノボリ。
「ヤナァ・・・!!」
剣を握りしめ、ノボリへと突進していく。
「ナァップ!!」
ノボリに剣を振りかざすも、間一髪のところで交わされてしまう。
「くっ・・・ヒヨリは渡しませんよ、ヤナップ!!」
「ナァァァァァァップ!!」
ノボリの言葉にヒヨリの目が丸くなる。
ただの時代劇ごっこだと言うのに、ノボリは結構本気でヤナップと戦っているようにも見える。
ヒヨリは渡さない、と言う当たり、まるでヤナップを恋敵にしているような。
そんな感じだった。2人の攻防が未だに続いていた。
何やってんだか、とヒヨリはノボリとヤナップを見守っていた。
渾身の一撃がノボリに命中した。
苦しそうにもがくノボリ。
「く、や、ら・・・れ、た・・・」
ノボリが倒れると、ヤナップはヒヨリの元へと駆け寄った。
「ナップナップ!」
「勇者様、ありがとうございます!」
そう言うとヒヨリはヤナップを抱き上げた。
「ヤナ、ヤナナ」
「はい、どうしました?」
「ナップ!」
ヤナップがヒヨリの唇と自分の頬を指差した。
それを見て何を言いたいのか察したヒヨリ。
「え、キスしてほしいの?」
「ナァップ!!」
嬉しそうに頷くヤナップ。
ヒヨリは目を細めて微笑んだ。
「わかったわ。勇者様、助けていただき感謝いたします」
―――ちゅっ。
頬に口づけを落とすヒヨリ。
「ナァップ!!」
ヤナップは嬉しそうにヒヨリを見つめた。
ヒヨリもまた、ヤナップを見つめた。
「ヒヨリ〜」
「きゃぁぁああ!」
ノボリがものすごい剣幕な顔つきでヒヨリとヤナップを見ていた。
これにはヒヨリも思わず声を上げてしまった。
「ヤナップにキスするとはどういうことで御座いますか〜?」
「の、ノボリさん!これはごっこだから、ね?」
迫ってくるノボリにヒヨリも思わずたじろく。
「ごっこでも許せません!ヒヨリ、わたくしにもキスしてくださいまし!」
「え・・・?」
「どうしました?ヤナップにできるのですから、わたくしにだってできるはずで御座います」
「うー・・・」
赤くなってヒヨリは背伸びをしてノボリの頬に口づけた。
「こ、これでいいかな?」
「ヤナップと同じほっぺですか・・・」
「え?・・・んっ」
きょとん、とノボリを見れば影が重なった。
ノボリがヒヨリに口づけを落としたのである。
唇が離れれば、ノボリはニヤリと笑った。
「御馳走様で御座います」
「の、ノボリさん!!」
「ナップぅ・・・」
今のやり取りをヤナップが面白くなさそうに見ていた。
ぶすっと頬も膨らませていた。
「もう、ヤナップが拗ねちゃったじゃない」
「ヒヨリは後で堪能するとして、柏餅でもいただきましょうか」
「!!」
言葉の意味を理解したヒヨリは林檎のように頬を赤く染め上げた。
ノボリはもう一度ヒヨリに口づけると、柏餅を取りに歩き始めた。
「もう・・・、ノボリさん!!」
勇者ヤナップ
(今日はこどもの日)