「ヤナナ!」

お風呂から出てきたヤナップが勢いよくヒヨリに抱き着いた。
ヒヨリも優しくヤナップを抱き留める。

「ヤナップ、お風呂気持ちよかった?」
「ヤァップ!」

そう聞けば、うん、と頷いた。
後ろからはタオルを肩にかけたノボリがやってきた。
今日はヤナップと一緒にお風呂に入っていたのだ。

「ヒヨリもお風呂に入ってきたらどうですか?」
「うん、そうさせてもらうね」

そう言ってヒヨリは浴室へと消えて行った。



信じる気持ち



お風呂から上がれば、ノボリに今日は一緒に寝ようと言われ、
ノボリの部屋のベッドで横になったヒヨリとヤナップ。
ヤナップはベッドに潜ったと同時に夢の中へ旅立ってしまった。
ヒヨリの腕の中ですやすやと眠るヤナップ。
ノボリはヤナップを愛しそうに見つめるヒヨリを見つめていた。
毎日ヤナップや自分に愛情を持って接するヒヨリ。
そんなヒヨリが愛しくてたまらない。

「ノボリさん…」
「どうしました?」
「そうやって見つめられると…は、恥ずかしい…よ」

ノボリの視線に気が付いたのか、ヒヨリは頬を染めて視線を逸らした。
クスリと笑ってノボリはヒヨリの頬に手を伸ばした。

「ヒヨリは本当に可愛いですね。このまま…」
「ノボリ、さん?」

疑問詞を浮かべているヒヨリの頬に手を滑らせながら呟いたノボリ。

「いえ、何でも御座いません。おやすみなさい、ヒヨリ」
「あ、ちょっと待って。私、聞きたいことが…」

頬にキスを落として目を閉じようとしたが、ヒヨリに制止の言葉をかけられてしまった。

「はい、何でしょうか?」
「ノボリさん、最近なんか寝る前になると変だよ。何かあったの?私、何かノボリさんにしちゃった?」

昼間、クダリに言われた通り最近思っていたことを口にする。
心配そうに見つめるヒヨリに、ノボリは笑みを柔らかくして言葉を紡いだ。

「いえ、そう言うわけではないですよ。ただ…」
「ただ?」

首を傾げるヒヨリの頬にノボリはまた手を伸ばした。

「あなたを…その、抱きたいなと思いまして…」
「だ、抱く!?」

ノボリの言葉に今度は顔全体を赤くしたヒヨリ。
ノボリは言葉を続けた。

「え、ええ…。ですがヒヨリはそう言うことよりはわたくしといる何気ない時間を過ごすのが好きなのでしょう?男と言う生き物は好きな女性を1度抱いてしまえばまた何度となく抱きたくなるものです。その反面、ヒヨリの気持ちも大事にしたいと思い、思いとどまることがよくあります…わたくしの一方的な気持ちであなたを抱いてもあなたも同じ気持ちでなければ幸せな気持ちは得られませんでしょうし…」

元彼とどう付き合ってきたか聞いて、ヒヨリが初めてなのはわかっていた。
自分と付き合う前に彼氏がいたにも関わらず、行為を拒否していたのは、
少なからずとも行為に恐怖心を持っているからだとノボリは考えていた。
だから、こういうことを迎えられた時、自分の全力で優しくしようとも思っていた。
ヒヨリに繋がることの幸せを教えてあげたかった。

それはヒヨリにも十分伝わってたみたいだった。
ノボリの気持ちを聞いたヒヨリは何だか申し訳なさそうな気持ちでいっぱいだった。

「ノボリさん、そこまで私の事…」
「日に日に抱きたい気持ちは強くなるばかりで御座います…」

熱を持った目でヒヨリを見つめるノボリ。

「ノボリさん…いいよ。私の事、だ…抱いても…」
「ヒヨリ、良いのですか…?」
「うん。ノボリさんは私が好きだからそういう風に思ってくれてるんでしょ?」
「当たり前で御座います。好きでなかったらそうは思いませんよ」

好きだからこそのこの思い。
好きでもない女にこんな感情は芽生えるのだろうか。

ヒヨリは自分の頬に置かれているノボリの手にそっと触れた。
頬を染めて、目を細めた。

「だったらいいよ。私もノボリさんの事、好きだから。ノボリさん。私がノボリさんが好きって理由じゃダメ?」
「駄目じゃありません。十分で御座います」
「それにノボリさんには私のことで我慢してほしくない…。好きな時に抱いていいから」

ヒヨリの思いがけない言葉にノボリは目を丸くした。

「ヒヨリ…しかし…」
「だったらこうしようっか。ノボリさんは好きな時に私を抱いて良いから。
その時にね、私の体調がよくなかったりしたら私ちゃんと言うから…」

それを聞いてノボリは安心するように笑った。

「それでしたら…ヒヨリ、早速ですが…よろしいでしょうか?」
「うん。わかった…」

ヒヨリは頷くと、一度ベッドから降りた。

「ヒヨリ?」
「ヤナップを私の部屋に寝かせてくるよ。シャンデラも貸してくれる?一人で寝かせるのはかわいそうだから…」

確かにヤナップが寝ている目の前でヒヨリを抱くわけにはいかない。
起きてびっくりでもされたら困るのは自分だ。

「わかりました」

ノボリはモンスターボールからシャンデラを出した。
シャンデラも眠たそうな表情を浮かべていた。

「シャンデラ、私の部屋でヤナップと寝てくれる?」
「シャン!」
「ありがとう、行こうか」

頷いたシャンデラはヒヨリと一緒にヒヨリの部屋へと向かうのだった。


―――――――


戻ってきたヒヨリは何の戸惑いもなしにノボリのいるベッドへと歩み寄った。

「お待たせ」
「ヒヨリ」
「きゃっ!」

グイッと引っ張られ、抱きしめられた。
ヒヨリの胸に顔を埋め、手で身体を撫でるノボリ。

「ね、ねえ…ノボリさん」
「はい」

名前を呼ばれて顔を上げれば、ヒヨリが顔を赤くしていた。

「私ね、こういう経験まだよくわかんないから…だから、その…私に色々教えてください…っ」
「…っ!」

予想だにしていなかったセリフ。
ノボリは我慢できなくなり、ヒヨリを抱き上げベッドに組み敷いた。

「ノボリさん…」
「ええ、色々と教えて差し上げますよ。愛していますよ、ヒヨリ」

そう言うと、ノボリはヒヨリに口づけた。

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