いつもの健康診断。
ヒヨリはヤナップに何かあってはならないと、数か月に1度の割合でヤナップに検診を受けさせていた。
前回は至って良好。体調管理や食事管理、その他の健康管理も多少の自信はあるものの。
ポケモンの知識が乏しいヒヨリは、時々不安になり、こうして検診がてらジョーイに相談しにやってくる。
ノボリとクダリに相談するのもいいかもしれないが、ここはポケモンの専門のお医者さんに聞くのが良いとヒヨリは思っていた。ヒヨリにとって、ジョーイは何より心強い味方なのだ。

「ヤナナ!」
「ヤナップ、お疲れ様」

ヤナップの診察が終わり、ヒヨリの胸に飛び込むのはいつもの光景。
ジョーイはそんな光景をいつも微笑ましそうに見ていた。
すっと、ヒヨリの前に健康診断の結果の用紙を差し出した。

「ヒヨリさん、これが今回のヤナップの検診の結果です」
「ありがとうございま・・・す」

ヒヨリは用紙を受け取ると、用紙の内容に目を通す。
今回受けたのは、身長、体重、毛並みの良さ、そして血液検査。

「今回も大丈夫そうで・・・え?」

その結果を見て、ヒヨリは固まった。


ダイエット大作戦!


おかしい。私の見間違いじゃなければ、ヤナップの体重が前回よりも重くなっている。

「あの、ジョーイさん・・・ヤナップの体重が・・・」
「ヤナップの平均体重より5キロオーバーしてますね」
「5キロも!?」

ジョーイの言葉にヒヨリは目を丸くした。

「1日の必要なエネルギー以上取ってるんではないんですか・・・?」
「そういえば、最近、ずっと食べてばっかだったかも・・・。運動もしてないし・・・」

ヒヨリは激しく後悔した。
最近ヤナップの為にと新しく焼いたクッキー。
おいしく食べるものだから、結構な量を与えてしまっていた。
ご飯の時もポケモンフーズをヤナップの好みに改良して。
おかわり、とねだられればおかわりを与えていた。
運動は朝夕の地下鉄から家までの距離を歩くだけ。
仕事も手伝ってはくれるが、それは接客業。
良い運動にはならないだろう。

ヒヨリは顔を青ざめてヤナップを見た。

「ナプ・・・?」

ヤナップは「どうしたの?」とヒヨリを見た。
ヒヨリはふるふると握り拳を作った。

「・・・ヤナップ」
「ナップ!」

ヒヨリがヤナップを抱き上げた。

「ダイエット結構よ!!」
「ナプ?」

ヤナップは「え?」と首を傾げたのだった。


―――――――


昼休憩が終わるころ、ヒヨリはノボリとクダリがいるであろう執務室にやってきた。
ノボリに今回の結果を報告するためだ。

「ヒヨリ、どうでしたか?ヤナップの健康診断・・・」
「ヤナップの体重が5キロ増えた以外は大丈夫だったよ・・・」
「5キロですか!?」

結果を聞いてノボリも目を丸くした。
ヒヨリもがっくしと肩を落とした。
ため息が一つ漏れた。
ヤナップがヒヨリの腕から降り、テーブルの上にあるクッキーに手を伸ばそうとした時だった。
それを見たヒヨリは慌ててヤナップに制止の言葉をかけた。

「だめよ、ヤナップ!」
「ナップ!?」

ヒヨリの言葉にびくん、と身体を反応させる。
どうして、とヒヨリを見た。

「今日からしばらくお菓子禁止!」
「ヤナァ・・・」

お菓子禁止と聞いて、ヤナップは耳をしおらせた。
テーブルの上には大好きなヒヨリのお菓子があって。
それを食べられないのはヤナップにとっては苦痛だ。

「おやつの時間は、ヒヨリお手製ダイエットドリンクだよ!」
「「ダイエットドリンク!?」」
「ナップ・・・」

ヒヨリの言葉にノボリとクダリの声が重なり、ヤナップは不満そうにヒヨリの顔を見ていた。


―――――――


おやつの時間。
ジョーイに教えてもらった通りにドリンクを作り、ヤナップに手渡した。

「はい、ヤナップ。ヒヨリお手製ダイエットドリンク・・・」

ドリンクが入ったボトルを渡されて、一口口に含んだ。

「ナッブゥゥゥウ〜」

余りのまずさにヤナップは口からドリンクを吐き出してしまった。
不機嫌そうな顔でボトルを投げ捨てれば、落下した勢いでドリンクがこぼれた。

「え、まずかった?」
「ナップ!」

ヒヨリの言葉に頬を膨らませて頷くヤナップ。
ヤナップは執務室から飛び出してしまった。

「あ、ヤナップ!!」
「ヒヨリ」
「ノボリさん・・・」

不安そうな表情でノボリの顔を見たヒヨリ。

「ヤナップはあなたのお菓子を大変楽しみにしております故、それをお預け状態にするのはいかがなものかと・・・」
「うーん、じゃぁ、どうしよう・・・か」

顎に手を置いて考え込むヒヨリの肩にノボリは手を置いた。

「わたくしに良い考えが御座います」
「え?」

驚いてヒヨリはノボリを見上げた。


―――――――


翌日。昼休憩で食事を取っていたノボリとヒヨリとヤナップ。
ヤナップは昨日の出来事を引きずっているのか、未だに機嫌が直っていなかった。
ご飯を食べ終われば、椅子から立ち上がる。
食器を返却口へと戻しに行く。
ヒヨリもノボリの後を追うように返却口へ歩いていく。
返却口へ食器を置けば、ごちそう様と従業員に挨拶する。

ノボリはヤナップに向き合い、にっこり微笑んだ。

「さて、ヤナップ」
「ナプ?」
「あなたに来てほしい場所が御座います」

ノボリはヒヨリとヤナップを連れて歩き出す。
やってきたのは、電車の中の形をした場所。
初めてきた場所にヒヨリは首を傾げた。

「ここは?」
「ギアステーションで御座います。地下鉄のバトルフィールドです」
「へぇ・・・」

興味津々で周りを見渡すヒヨリ。
地下鉄にこんな場所があったなんて。
ノボリが向こうの方へ歩けば、ヒヨリとヤナップに向き合った。
モンスターボールをフィールドへ投げる。

「さて、行きましょうか。シャンデラ!」
「シャーン!」

白い光と共にシャンデラが姿を現した。

「さ、ヤナップ。こちらへ」
「ナプ」

ノボリに言われるがままにヤナップも動く。
その行動にヒヨリは首を傾げた。

「ノボリさん?何をするの?」
「食べた後には運動で御座います。動けばエネルギーも消費するゆえ、
ヒヨリを守るために強くなれる・・・一石二鳥で御座います」
「の、ノボリさん・・・!」

ノボリの言葉にヒヨリは顔を赤く染めた。

「では、行きますよ!シャンデラ、鬼火!」

ノボリとヤナップのトレーニングが始まった。


―――――――


先ほどから続いているヤナップとシャンデラのトレーニング。
バトルではないため、ノボリも手加減をしていた。
ふと時計を見れば、もうそろそろ休憩が終わる時間だった。
ノボリは手を叩き、制止の声を上げた。

「今日は最初ですし、ここまでに致しましょう」

ヤナップがその場に座り込めば、ヒヨリが傍へ駆け寄ってヤナップを抱き上げた。

「そうだね。ノボリさん、ありがとう」
「ヤナナップ」
「いいえ。これからはご飯を食べたら少しここで特訓しましょう。ヤナップも強くなりますし、良い運動にもなります」
「ヤナップ、特訓する?」
「ナップ!」

ヒヨリがそう言えば、ヤナップは喜んで声を上げた。
そして、ヒヨリの頬にキスをする。
突然の出来事にヒヨリは驚いてヤナップを見た。

「え、何でキスしたの?」
「それはもっと強くなればヒヨリを守れる。ヤナップは今の特訓を通してそう思ったんだと思いますよ」
「ナップ!!」

これは頑張って痩せて、強くなって・・・そしてヒヨリを守ること。
ヤナップのヒヨリへの誓いのキス。

「ヤナップ、ありがとう。でも、ヤナップは今のままでも十分に強いから・・・ね?」

ヒヨリはそう言えば、にっこり微笑んだ。
2か月後、トレーニングの甲斐あってか、増えた分を落とせたヤナップ。
今ではクッキーやご飯の食べる量も決めて、ヤナップは健康的な毎日を過ごしているのだった。

ヤナップの身体が慣れてきたころ、ノボリは夕方にも運動がてら見回りで一緒に歩こうかと提案する。
時々手伝っていた見回りも、これからは日課になりそうだ。

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