私とノボリさんはレストランへと向かって歩いていく。
あれ、ちょっと待って。そっちって、高級レストラン街。
とあるお店の前でノボリさんが立ち止まる。

「さ、ヒヨリ。着きましたよ」
「え、まさか・・・」
「お察しの通り。今日のお食事処で御座います」

目の前には外国の雰囲気を醸し出している高級で上品なお店。


こんな高いお店、聞いてないよぉぉぉ。


WHITE DAYS


ヒヨリはその上品な外見のお店の造りに絶句していた。

「ここでご飯・・・・」
「はい。お気に召さりませんでしたか?」
「違う違う違う。こんな高そうなお店・・・。それに私、今日、普通の格好・・・」
「大丈夫でございます」
「へ?ノボリさん・・・?」

ノボリはヒヨリの手を引いて、また少し歩きだした。
レストラン街から少し離れた、高級洋服店。

「いらっしゃいませー!」
「予約したノボリで御座います。彼女を綺麗にドレスコードしてくださいまし」
「えっ・・・?」

ヒヨリは驚いてノボリを見た。

ドレスコード。
高級料理店で食事をするときに、女性がする格好のこと。

「かしこまりました、さ、どうぞこちらへ・・・」
「ヒヨリ、今日はわたくしの為に綺麗になってきてくださいまし」

ちゅ、とヒヨリの手の甲にキスを落とす。
ヤナップが下で膨れていた。

「ナプゥ!」
「ヤナップのため、でも御座いましたね。申し訳ございません」
「ナププ!」

ヒヨリは苦笑しながら、店員に連れられ部屋の奥へと消えて行った。


――――――


更衣室でヒヨリは店員にされるがままだった。
茶色のワンピースにふわふわした生地のストール。
化粧もシンプルに施され、髪は大人っぽくアップにされていた。

「素敵な彼氏さんですね。ホワイトデーにこんな演出してくださるなんて」
「え、今日ホワイトデーだったんですか?」

ホワイトデー。
そのことをすっかり忘れていたヒヨリ。
店員に言われて初めて気が付いた。

「あら、気が付かなかったの?先月末くらいだったかしら。彼とヤナップがここに来店したのは」
「えっ、ヤナップもですか?」

ノボリはともかく、ヤナップも一緒だったなんて。
ヒヨリは目を見開いた。

「ええ。あのヤナップ、相当あなたのことが好きみたいよ」

ヒヨリが好き。
ヤナップがヒヨリを好きなのは、ヒヨリ自身もわかっていた。
好きで好きで甘えてきて。でも、いざと言うときは自分を守ってくれる頼もしい存在で。
ノボリのこともわかってくれる、賢い子で。
ヒヨリもそんなヤナップがとても大事で、とても好きだった。

脳裏には出会ったときと、別れて再会した時のことが過った。

「あの子とは運命的な出会いをして、感動的な再会をしてるんです・・・」
「へぇ、そうなの。さ、コーデ完了。あら、サイズぴったり。良かったわ」

出来上がった自分の姿を見てヒヨリは絶句した。
普段とは比べ物にならないくらいの、変身ぶり。
それに、ワンピースのサイズもぴったりだ。

「怖いほどピッタリなんですけど・・・」
「ちなみに、それ。彼のオーダーメイドよ?」
「えっ・・・?」

オーダーメイドと聞いて、ヒヨリは頬を染めた。
店員がそっとヒヨリに耳打ちをした。

「頑張ってね」


―――――――


ドレスコードが終わったヒヨリはノボリとヤナップの前に姿を見せた。
恥ずかしそうに視線を下に向けていた。
ノボリとヤナップはヒヨリの変身っぷりに頬を赤く染め上げた。

「お待たせしました!」
「ヤナナ!」
「ヒヨリ、綺麗で御座いますよ」

いつものサブウェイマスターの格好なのに。
この上品な格好からか、ノボリの普段の格好が一段とかっこよく見える。
ヤナップも首に蝶ネクタイを巻いていた。
演出とは恐ろしいものだ。

「ノボリさんもヤナップもかっこいいよ」
「お洋服はこちらで預かっておきますので」
「お願いいたします」
「では、楽しんできてくださいませ」

店員に頭を下げれば、ノボリはヒヨリに手を差し出した。

「さ、行きましょうか」
「はい」

ヒヨリはノボリの手を取り、歩き出した。
靴がヒールなためか、上手く歩けずにいた。

「うー、ヒール慣れないよ・・・」
「気を付けてください」
「うん」

それでもノボリがきちんとエスコートしてくれたので、
ヒヨリは転ぶこともなく、無事に先ほどの高級レストランの前まで歩くことができた。
レストランの扉を潜り抜けると、ウェイストレスが頭を下げた。

「いらっしゃいませ」
「予約していたノボリで御座います」
「お待ちしていました、さ。こちらへどうぞ」

ドキドキとしながらウェイストレスの後をついていく。
淡いライトに包まれた一つのテーブルへとたどり着いた。

椅子を引かれると、どうぞと施される。
ヒヨリは椅子に腰を降ろした。
ノボリの手がすっと離れて行く。それにヒヨリは少しさみしさを覚えた。

少し見渡せば、きちんとポケモン用の椅子も用意されていた。
ヤナップがそこへと座る。

「ヒヨリ。今夜は素敵な夜に致しましょう」

椅子に座ったノボリはにっこり微笑んでヒヨリにそう言うのだった。


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