今週は季節の変わり目で天気が崩れやすいってお天気おねえさんが言っていた。
明日はどうやら雪が降るらしい。


Snow love


朝。いつもより肌寒く感じながら、ヒヨリはうっすらと目を開けた。
横では最愛のパートナー、ヤナップがぺちぺちとヒヨリの頬を叩いて遊んでいた。

「ヤナナ」
「おはよう、ヤナップ」
「ナププ」

ヤナップと朝の挨拶を交わし、ヒヨリは半身を起こした。
ぶるる、と少し身震いをする。横の窓のカーテンを開ければ、灰色の空と白い雪がパラパラと舞っていた。

「わぁ、ヤナップ。雪だよ」
「ナップ!」

嬉しいのかヤナップはベッドの上でぴょんぴょんと跳んで喜んだ。
2人で喜んでいれば、ドアの方からノック音が聞こえてくる。
返事をすれば、ドアが開かれた。そこにはノボリが立っていた。

「おはようございます、ヒヨリ」
「おはよう、ノボリさん」

ヒヨリがそう言うと、ノボリがヒヨリのベッドまで歩み寄ってくる。
窓の外を見据えて呟いた。

「雪・・・ですね」
「うん。今日は1日雪らしいよ」
「そうみたいですね」

そう言ったノボリの表情は少し曇っていた。
ヒヨリは首を傾げてノボリに言う。

「どうしたの、浮かない顔して?」
「こういう雪の日や台風は電車がうまく動かなくなるんですよ」

雪や台風がやってくると、電車は止まって色々と影響が出る。
ヒヨリはノボリの心中を察した。

「あ、そっか。大変だね、このお仕事も」
「大丈夫です。ですが、ヒヨリ。今日は家から出ないで下さいまし」
「どうして?」

また首を傾げたヒヨリの頬にの手を伸ばすと、唇にキスを落とす。
そのまま額をこつんとくっつけて柔らかく微笑みながらノボリは言った。

「大事なあなたが雪で滑って転びでもしたら、気が気じゃありません」

ノボリの言葉にヒヨリは目を細めた。
片手を頬に添えられているノボリの手にそっと重ねた。

「心配してくれてありがとう」
「ヤナァ・・・!」
「でも、ヤナップは雪で遊びたいみたい」

窓の外を見て喜んでいるヤナップにヒヨリは視線を送った。

「仕方ありませんね、少しだけですよ?」
「ありがとう、ノボリさん」

そう言えば、ノボリがもう1度キスをしてくる。
唇と手が離れると、そこには恋人のノボリではなく、サブウェイマスターのノボリがいた。
帽子のつばを被りなおすと、ヒヨリに微笑んだ。

「では、行ってまいります」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「ええ」

そう言うと、ノボリはヒヨリの部屋を後にして、地下鉄へと向かうのだった。
ノボリが出て行った後、ヒヨリもベッドから降りて朝の支度を始めるのだった。
幸いにも今日はお休みだったため、ヤナップと雪で遊ぶ以外はノボリに言われた通り、家にいるつもりだ。
着替えを済ませると、ご飯を食べるべくリビングへと向かう。
リビングへ着くと、テーブルの上に1つの包みが置かれていた。
それはノボリのお弁当箱だった。

「あれ、ノボリさん、お弁当忘れてる・・・」
「ナップ?」
「雪遊びのついでに届けに行こうか、ヤナップ」
「ナァップ!」

ヒヨリがそう言えば、ヤナップは嬉しそうに声を上げた。


―――――――


あれから身支度を終えたヒヨリはヤナップを連れて地下鉄・バトルサブウェイにやってきた。
ヤナップは寒くないようにと、首にマフラーを巻いていた。
ここに来るまでの間、ヤナップは雪で大はしゃぎだった。
ヒヨリは2人組の駅員を見つけると、声をかけた。

「あの、すみません。ノボリさんに会いたいんですけど・・・」
「ヒヨリちゃんじゃないか。今日は休みだって聞いてたよ」
「ノボリさんに忘れ物を届けに来たんです」
「珍しいね、ノボリさんが忘れ物なんて。ちょっと待ってて」
「はい」

駅員はインカムのスイッチを入れると、ノボリにヒヨリが来ていることを伝えた。
声をかけたのがたまたま売店の常連で助かった。
ヒヨリは内心胸を撫で下ろした。

「ノボリさん、すぐに来るって」
「ありがとうございます」

すぐ近くにいたのだろうか。本当にすぐに来た。

「ヒヨリ、どうしたのです?」

ノボリがそう言えば、ヒヨリはカバンからお弁当箱を取り出した。

「ノボリさん、お弁当忘れて行ってたよ」
「おや、わたくしとしたことが。ありがとうございます」

ヒヨリからお弁当箱を受け取った。
この雪だ。来るだけでも疲れただろう。

「少し休まれてから帰りますか?」
「ううん。お弁当届けに来ただけだから、このまま帰るよ」
「わかりました。滑るので足元にお気を付け下さいませ」
「うん。じゃあ、後でね・・・きゃっ!!」

ノボリに背中を向けて2,3歩歩いた時だった。
濡れた地面に足を滑らせ、ヒヨリは転びそうになった。
ヤナップが心配そうに声を上げた。それはノボリも同じことで。

「ヒヨリ!」

ノボリは慌ててヒヨリのお腹を腕で支えた。
そのおかげでヒヨリは転ばずに済んだ。


―――わぁ・・・。


「大丈夫ですか、ヒヨリ?」

転びそうな自分を支えた力強さ。すぐ上で大好きな人の声がする。
ヒヨリはノボリの近さに胸が高鳴っていた。
心臓が、ドキドキする。

「うん、ありがとう・・・ノボリさん」
「言ってる傍から・・・気を付けてくださいよ?」

顔を赤らめてお礼を言えば、ノボリは微笑んだ。
ヒヨリの態勢を元に戻してやる。
そして、ヒヨリの手を握ると歩き出す。

「心配なので、出口までお送りいたします」
「はい・・・」

ヒヨリは嬉しそうにノボリの手を握り返して、ノボリに引かれて歩いていく。
ヤナップも嬉しそうに鳴いてノボリの肩に乗る。
その光景を始終見ていた2人組の駅員。

「なあ、なんかノボリさんかっこいいよな」
「ああ。俺もああいう男になりたいな」

2人で歩いている後ろ姿を見て、駅員が微笑ましそうに見ていたなんて知る由もなかった。

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