昼からクッキーを作り始めて、今は午後3時前。
世間ではおやつの時間に当たる時間帯。
紙袋には、私の”ありがとう”の気持ちを込めたクッキーが入っている。
この間のお礼をしようと、私は扉の横に立っている駅員さんに声をかけた。

「すみません、ノボリさんにお会いしたいのですが・・・」
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」

そう言った駅員さんに私はノボリさんからもらったパスを見せた。
見せると態度は一変し、私をノボリさんのいる執務室へと案内してくれるのだった。


I love you


コンコン、と扉が叩く音がした。
返事をすれば、扉が開かれる。

「失礼します。ノボリさんにお客様です」
「通してくださいませ」
「さ、こちらへ」

駅員の案内で、ヒヨリはノボリの部屋へとやってきた。

「こ、こんにちわ。お邪魔します」
「ヒヨリ様でございましたか」

ヒヨリだとわかると、ノボリは笑みを漏らした。
クダリが椅子から立ち上がると、ヒヨリの前で立ち止まった。
ノボリと同じように、笑みを漏らしながら、左手を出した。

「いらっしゃい、ヒヨリちゃん!僕はノボリ兄さんの弟でクダリって言うんだ。よろしくね」
「よろしくお願いします」

差し出された手をヒヨリはそっと取った。
すぐに手を離し、視線をノボリの方へと向けると、ノボリの名前を呼ぶ。

「あの、ノボリさん・・・」
「はい、なんでございましょう?」

ノボリも椅子から立ち上がり、ヒヨリの傍まで歩み寄る。
ヒヨリはノボリに紙袋を差し出した。

「この間は本当にありがとうございました。そのお礼に、クッキー焼いてきたんです。良かったら召し上がってください」

そう言って、ノボリに紙袋を手渡した。
紙袋を開いてみれば、綺麗にラッピングされたクッキーが顔をのぞかせていた。
ノボリは紙袋からクッキーを取り出した。

「ほう、これはなかなかのものでございますね」
「おいしそうなクッキーだね!」
「クダリさんもよかったら食べてください」
「良いの?」
「はい!たくさん作ってありますので」

ヒヨリがそう言うと、ノボリとクダリは顔を合わせてにっこり笑った。

「どうでしょう?ヒヨリ様さえよければ、これからわたくしたちと一緒にお茶していかれませんか?」
「お茶・・・ですか?」
「えぇ、せっかくですし。ゆっくりしていってくださいませ」
「ありがとうございます!」

そういうと、ノボリは給油室に消えていった。、
クダリはというと、ヒヨリを客間まで案内して、ソファーに座らせた。
しばらくすると、お菓子の入れ物にクッキーを入れ、お茶が注がれているであろう、
ポッドとティーカップを持ったノボリが姿を現した。
それをテーブルの上に置き、一人一人の前にカップを置き、お茶を注ぐ。
ノボリとクダリは白い手袋を取って、ズボンのポケットにしまえば、
両手を合わせて”いただきます”と言った。
ヒヨリが”どうぞ”と促せば、二人はクッキーを一つずつ手に取り、口に入れた。

「どう、ですか?」

おそるおそる二人に聞いてみれば、

「おいしいですよ」
「うん、おいしい!」

と円満の笑みが帰ってきた。
ほっとヒヨリは胸をなでおろした。
そして、嬉しそうな笑顔を二人に見せた。

「よかった・・・!」

その笑顔を見て、ノボリが微かに固まった。
頬もどうやらうっすら赤い。
不思議に思ったヒヨリが首を傾げた。

「ノボリ、さん?」
「な、なんでもないですよ」

ノボリはまた一つ、クッキーを口に含めば、ぷいと視線を逸らしてしまった。
それを見たクダリはクスリと笑っていた。

しばらくの時間、3人は他愛のない会話を楽しんだ。
趣味のことや家族のことなど、様々な会話が飛び交った。
クダリが”あ”、と思い出したようにヒヨリに聞いた。

「そういえば、どうしてあの日、ヒヨリちゃんは泣いてたの?」
「え・・・?」

クダリの言葉に固まるヒヨリ。

「こ、これクダリ!」
「良いじゃない。ノボリ兄さんも気になっていたんでしょ?」
「えぇ・・・。それはそうですが・・・」

二人のやり取りに意を決して、持っていたカップをテーブルに置く。
そして視線をノボリ、クダリへと向けた。

「笑いませんか?」
「笑わないよ」
「わたくしもです」
「失恋、したんです」

そう、切なそうにヒヨリは言った。
思い出したのかわからないが、ヒヨリは今にも泣きそうな顔をしていた。
そして、視線を下に落とし、俯いてしまった。
ノボリとクダリは顔を合わせ、ソファーから立ち上がり、
ヒヨリの両隣に来ると、腰を下ろす。
ノボリとクダリはぽんぽん、とヒヨリの頭を優しくなでた。
ヒヨリは驚いて、顔を上げた。

「そう・・でございましたか」
「そっか。でも、よく頑張ったね。ヒヨリちゃん」
「え?」

クダリの言葉に目を丸くする。

「こう言っちゃ悪いけど、その失恋があったから今こうして僕らと出会えたわけだし」
「そう、ですね」
「またいつでもおいでよ。ね、良いでしょ、ノボリ兄さん」
「そうでございますね。パスもお渡ししたことですし。ヒヨリ様、いつでもお越しくださいませ」

そう、ヒヨリに告げれば、彼女の表情はいつの間にか悲しみは消えていた。

「じゃぁ、私・・・毎日クッキー作ってきます」
「いいの?」
「はい!これでも毎日暇してますし」
「それは楽しみでございますね」
「じゃぁ、約束」
「はい、約束です」

二人の小指と指切りげんまんをしたヒヨリ。
明日からの楽しみがまた、一つ増えたのだった。



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