ノボリとヒヨリが出会って1週間が経とうとしていた。
あれからというものの、ヒヨリは一歩も外を出ていなかった。
―――だいぶ落ち着いてきたかな。
鏡に映る自分の顔を見て、ヒヨリは苦笑した。
情けない顔、と思った。
ふと、ノボリが肩を貸してくれた時のことを思い出す。
あの時、ノボリが何も聞かずにただ傍にいてくれたことがうれしかった。
彼が慰めてくれなければ、自分は今頃自殺していたかもしれない。
そう、思うようになってきた。
交わした言葉は少なくても、また彼とお話ししてみたい。
この間のことのお礼をしたい。
ヒヨリは意気込むと、勢いよくクローゼットのドアを開けた。
―――また、会えるかな?
ライモンシティの中心部。
バトルサブウェイにやってきたヒヨリ。
駅構内はちょっとした売店もあるため、一息するにはちょうどいい。
少し歩くと、後ろから声をかけられた。
「かーのじょっ!可愛いね、どう?俺と遊ばない?」
俗にいう、ナンパ男である。
「あの・・えっと・・・」
こういうことは初めてなので、どう対処していいのかわからない。
「良いじゃん、俺と行こうよ」
「あの・・・!」
―――やだ、怖い!
半場強引にヒヨリの腕を掴む男。
ヒヨリは思わず目を閉じる。
「お客様」
頭上から聞こえてきた声。
その声にヒヨリは聞き覚えがあった。
「なんだよ!」
不機嫌そうに男は言った。
「どこをどう見ても、こちらのお客様は困っております。今すぐにその手を離してください」
「あ・・・あんた!」
男は青ざめると、ヒヨリの手を離して慌てて逃げて行った。
「お客様、お怪我などはございま・・・おや、あなた様は」
「こんにちは、この間はありがとうございました」
そう言ってヒヨリは深々と頭を下げた。
「また、助けられてしまいましたね」
「これも仕事ですので」
微笑むヒヨリ。
ノボリは一礼をすると、では、と呟きヒヨリに背を向けた。
「あの・・・!」
後ろからするヒヨリの声で呼び止められる。
立ち止まり、ノボリは振り返った。
微笑んで言葉を紡ぐ。
「どうなさいました?」
「あの、この間の事も兼ねて、お礼をしたいのですが・・・」
勇気を出して、思っていたことを伝えてみる。
「それは困ります。これも仕事のうちですので・・・」
断られたが、ヒヨリは引かなかった。
「それでは、私の気が治まりません!」
「・・・わかりました」
ヒヨリの気迫に押されてしまい、ノボリはすんなり申し入れを受け入れた。
「あ、私、ヒヨリって言います」
「ヒヨリ様、でございますか。わたくしはノボリにございます」
「・・・ノボリ、さん」
ヒヨリははにかんだ笑顔でノボリの名前を呟く。
「ヒヨリ様。立ち話もあれなんでこちらへ・・・」
「あ、はい」
ノボリが歩くと、ヒヨリはその後ろを追いかけるようについていくのだった。
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