木の幹の前で目を回して倒れているミルホッグとガマゲロゲ。
2人の男は確信した。ノボリには叶わないと。
呆然と立ち尽くし、ノボリとヤナップとシャンデラを見ていた。
「シャンデラ!ヤナップ、よくやってくれました!」
「シャン!」
「ヤナァ!」
笑顔で勝利を分かち合うノボリ達。
ノボリは男達を睨み付けた。
「あとは・・・」
「ひぃぃいいい!!勘弁してくれぇ!!」
顔を青ざめて、ポケモンを戻す男達。
戻し終えると、ヒヨリを置いてその場から逃げるように走り出した。
「逃がしはしません!シャンデラ!!」
「シャーン!」
シャンデラのサイコキネシスが男達を捕えた。
そのまま木の幹に男達を叩きつける。
「うわぁ!!」
男達も先ほどのミルホッグやガマゲロゲのように目をくるくると回して気を失った。
それと同時にドサッと、ヒヨリの身体も地面に落ちた。
どうやら力が抜けたようだ。
「これでよし・・・ヒヨリ!」
「ノボリさん、ヤナップ・・・!」
ノボリとヤナップはヒヨリの元へ駆け寄ると、拘束されていた手首を解放した。
ヤナップは心配そうにヒヨリの顔を見上げた。
「大丈夫でございますか!?」
「ヤナァ・・・」
「なん、とか・・・あれ?」
気が付いたらポロポロと涙が流れていた。
「こ、わ、かった・・・の、かな?」
涙の理由がわからずに困惑しているヒヨリにノボリがそっと抱きしめた。
「大丈夫ですから。わたくしが傍にいます」
「ナプナプ!」
「ヤナップも、で御座いますね」
「ナァップ!」
しばらくヒヨリを抱きしめ、気分を落ち着かせると、ノボリは徐に立ち上がった。
着ていた自身の黒いコートを脱ぎ、ヒヨリにそっとかけてやる。
「ノボリさん?」
「コート、羽織っててくださいまし。その前に・・・」
どこから出したのか、紙とペンを取り出し、字を書いた。
そこには”誘拐犯です”と書き、男に貼りつけた。
それを見て、ヒヨリは笑った。
「ぷっ、何それ・・・」
「ヒヨリは見ててください。シャンデラ!サイコキネシス!!」
「シャーン!」
サイコキネシスで男達を浮上させ、そのまま空の向こうへ放り投げた。
「これで大丈夫ですね。さ、ヒヨリ。帰りましょう」
差し出した手を取るが、うまく上がらない。
どうやら安心して腰が抜けたようだ。
「ごめん・・・腰、抜けちゃった」
ヒヨリの言葉に苦笑したノボリは、ヒヨリの腰と両膝下に手を入れた。
そのままコートごとヒヨリの身体を持ち上げた。
「わっ!!」
ヒヨリは驚いてノボリのシャツを握った。
ヤナップもノボリの肩に乗り、準備は良いようだ。
「ナップ!!」
「しっかりつかまっててください!」
そう言うと、ノボリはライモンシティ目指して駆けだした。
「きゃっ!!」
慣れない浮遊感にヒヨリは握るシャツに力が入る。
前を見据えて走るノボリの真剣な表情。
自分を楽々抱き上げた、その力。
それはノボリを男だと再認識させるには十分で。
―――男の人、なんだなぁ・・・。
ヒヨリの視線に気が付いたノボリが、優しい目でヒヨリを見た。
「どうしました?」
「な、なんでもないっ!」
顔を赤くして、ヒヨリはノボリから視線を逸らした。
クスクスと、頭上から笑い声が聞こえてくる。
「可愛いですね」
「可愛くないっ」
「今はそう言うことにしておきましょう」
「・・・?」
ノボリはそう言うと、走るスピードを上げた。
ヒヨリはノボリの言った意味がわからず、ずっと考え込んでいた。
―――――――
しばらくすると、地下鉄の入り口付近でクダリが立っていた。
クダリはノボリとヒヨリに気付くと、傍まで駆け寄った。
「ノボリ兄さん!」
「クダリ!」
クダリはノボリの腕に抱かれているヒヨリを見てほっと胸を撫で下ろした。
「ヒヨリちゃん、無事だったんだね。良かった」
「ええ・・・」
「クダリさん、ご心配をおかけしました」
抱かれたままの態勢でクダリに頭を下げたヒヨリ。
「良いんだよ。ところで、ヒヨリちゃんを攫った奴らは?」
「あぁ、それならシャンデラのサイコキネシスでジュンサー様のところへ飛ばしました」
「そ、そう・・・」
ノボリの意外な行動に顔をひきつらせたクダリ。
ノボリはヒヨリをその場に降ろし、手を引いて事務室へとクダリと共に歩いて行った。
事務室へと戻ってくれば、ヒヨリをソファーに座らせた。
「ヒヨリ、帰り支度をしてきますので、少しお待ちを」
「はい・・・」
そう言うと、ノボリはそそくさと帰り支度を始めるのだった。
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