―――バタン


ノボリが管理室に戻ってきたときには、ヒヨリと話してからずいぶんと時間がたっていた。

「おかえり。遅かったね、ノボリ兄さん。・・・その子は?」

ノボリが抱きかかえている女の子にクダリは視線を向けた。

「ただ今戻りました、クダリ。ホームで俯いていたので声をかけたところ、
大泣きしてしまい、そのまま疲れて眠ってしまったみたいで、連れてきました」

そういって、ヒヨリの顔を見る。
この様子では、しばらく起きることはないだろう。
そう判断したノボリは潔くここまで連れてきたのだ。

「そっか」
「仮眠室、少しお借りしますよ」
「わかった!」

クダリにそう告げると、ノボリは仮眠室に足を運んだ。
ヒヨリをベッドにそっと寝かせ、布団をかけてやる。
涙の跡が残る頬にそっと触れてみる。

しかし、わたくしは何をしているのでしょう。
お客様と言えど、見ず知らずの女性を泣かせてしまうなんて。

ホームの見回りの時間、地下鉄を利用するお客様方は皆普通のお顔をしていらしたのに、
彼女だけが・・・彼女だけが切なげに小さく歩いているのが見えて、思わず声をかけてしまいましたが。


―――何を思ってここまで泣いてしまわれたのでしょうか?わたくしはその理由が知りたいにございます。


「ノボリ兄さん、ちょっといい?」

ドアが開かれ、クダリが顔を出した。

「どうしました、クダリ?」
「うん、ここなんだけどさ・・・」


―――――――


「・・・ん?」

目を覚ますと、見慣れない白い天井が視界に入ってきた。
そっと上半身を起こす。

「あれ・・・私・・・」

そうだ、確か、駅員さんの肩を借りて本格的に泣き出しちゃったんだっけ。
そのまま記憶がないから、泣くだけ泣いて疲れて寝ちゃったんだろう。

扉の向こうから若い男の人の声が聞こえてくる。
ヒヨリはベッドから降りると、部屋のドアを開けた。
目の前にはたくさんのモニターがある。
どうやらここはモニター室のようだ。
話し込んでいた二人は、ヒヨリの存在に気が付いた。

「目が覚めたみたいだね」
「そうでございますね」

ノボリとクダリは話をいったんやめ、ヒヨリのほうまで歩み寄ってきた。

「ご気分はどうですか?」
「大丈夫です。あの・・・えっと・・・。ありがとうございました」

ヒヨリは深々と頭を下げる。

「これも仕事のうちですので。今日はもう遅いです。駅の出口までご案内いたします」
「はい」
「クダリ、少しの間、頼みます」
「了解」

私はクダリと呼ばれた人に軽くお辞儀をすると、黒いコートの人の後についていくのだった。


―――――――


「今日は本当にありがとうございました」
「困ってるお客様をお助けするのもわたくし達の仕事でございますので」
「それでは、失礼します」

柔らかく微笑み、ノボリに背を向けヒヨリは歩き出した。
空を見上げると、涙がまた頬を伝った。


―――私、また恋できるのかな・・・?


空には一番星が輝いていた。


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