定時の1時間前。
日頃の運動、と勤めてるノボリもしくはクダリとの見回り。
今日はクダリと一緒に、とのことでヤナップはクダリと見回りに行っている。
昼間はヒヨリと一緒に店番、夕方は見回り。
ヤナップもすっかり地下鉄・バトルサブウェイの一員になっていた。

いつもは1時間ほどで終わる見回りだったが、今日は遅い。
時計を見れば、時間を15分ほどオーバーしていた。

「ヤナップとクダリさん、遅いねぇ・・・」
「ですね。もう戻ってきてもいいのに」
「長引いてるのかねぇ?」
「私、先に着替えてきますね」
「わかったよ。二人が来たらそう言っておくから行っておいで」
「はい」

そう言うと、ヨシエに頭を下げてロッカールームへ向かう。
入り口付近で不審な男がヒヨリを見ていたが、気にせずにヒヨリはロッカールームへ足を運ぶ。
その途中で男に背後を取られ、布で口を塞がれた。

「きゃっ!」

驚いて男の顔を見上げた。
男は帽子にサングラス、とサスペンス劇場でありそうな姿をしていた。
抵抗を試みるも、相手は男。力でかなうはずがなかった。
次第に朦朧としてくる意識。ヒヨリは目を閉じて深い眠りへと落ちていく。
その反動でずしりと身体の重みが増した。

「悪いな、しばらくの間眠っていてもらうぞ」

男は軽々しく抱き上げ、ヒヨリを用意していた車へと運んでいった。


I love you


ヒヨリが着替えに行ってから10分くらいしたころ、ようやくクダリとヤナップが戻ってきた。

「ごめん、ヒヨリちゃん!遅くなっちゃった」
「ヤナナ!」
「おや、ヤナップにクダリさんおかえり」

迎えてくれたのは、ヒヨリではなく売店の主ヨシエだった。

「ヨシエさん、ヒヨリちゃんは?」
「ヒヨリちゃんならさっき着替えに行ったけど・・・?」
「そうなの?じゃあ、戻ってくるまで待ってようか」

クダリがそう言ったのも聞かずに、ヤナップはヒヨリがいるであろうロッカールームへと入っていく。

「ヤァップ!」
「あ、ヤナップ!」
「待ちきれないんだねぇ。よっぽどヒヨリちゃんが好きと見えるよ」

ヨシエの言葉に微笑するクダリ。
クダリもヤナップのヒヨリ好きっぷりはよくわかっていた。
すると、ヤナップが顔を青ざめてこちらに走ってきた。

「ヤナァァァァ!!」
「どうしたの?ヤナップ?」
「ヤナナナ、ヤナナプ!!」

ヤナップのその表情は今にも泣き出しそうな顔で。
この顔をするときは、大体ヒヨリ絡みだとクダリはノボリから聞いていた。
いる、と信じて見に行ったらこの顔をして戻ってきた。
と言うことは・・・。

「え、ヒヨリちゃん、ロッカールームにいないの?」
「ナップ!!」

うん、と首を縦に振った。

「先に執務室にでも行ったのかね・・・?でもおかしいねぇ。
あの子はどこか行くときは必ずどこに行くか言ってから行くのに・・・」

ヨシエの言葉にクダリとヤナップは顔を合わせて青ざめた。

「まさか、ヒヨリちゃん・・・」
「ヤナナ・・・」

おかしい。
ヨシエが言うことが本当なのなら、ヒヨリは間違いなくロッカールームに行ったはず。
ロッカールームにいない上に、ヨシエに居場所も伝えずにいなくなるなんて考えられない。
困っているお客様を助けているとかなら話が別だが、それは売店の販売員をしているヒヨリの仕事ではなく、ノボリやクダリ、その他駅員の仕事だ。
人を助けることに駅員も販売員も関係ないが。


―――もしかして、ヒヨリちゃん、誘拐されたんじゃ?


「ヨシエさん、ありがとう!」
「良いって!ヒヨリちゃん、見つかるといいね!!」

そう言うと、クダリはヨシエにお礼の言葉を述べて、ヤナップを連れて執務室へと向かう。
目指すはノボリ。ノボリにこのことを伝えるために。


―――――――


場所は変わって、執務室。
ノボリはソファーの上で少し休憩をしていた。
今日は少し残業になりそうだから、とヒヨリには伝えてある。
こういう時はここでノボリの仕事が終わるのを待つ。
前に先に帰ってるとも言ったが、ノボリがそれをやんわりと却下した。
ヤナップがボディーガードしてるとはいえ、ヒヨリに万が一のことがあっては身が持たない。
それにヒヨリが居れば、残業も猛スピードで終わらせられるというものだ。

突如、部屋の扉が開かれた。
そこにはヒヨリが立っていた。
口角を釣り上げて、ノボリに声をかけた。

「ノボリさん」
「ヒヨリで御座いますか?ヤナップとクダリと一緒だったのではないのですか?」
「先にこっち来ちゃった。早くノボリさんに会いたかったから」

そう言うと、ヒヨリはノボリのいるソファーに駆け寄り、ノボリを押し倒した。
不思議に思い、ノボリは眉をひそめた。

「ヒヨリ・・・?」

おかしい。彼女の行動が。
ノボリがヒヨリを押し倒すことはあっても、ヒヨリからノボリにこういったことはしてこない。
甘い空気になれば、顔を赤くするそういう仕草もない。
あるのは大人の女のその表情。
ヒヨリは厭らしく笑うと、ノボリの頬に手を伸ばした。

「ねえ、ノボリさん」
「私とイイこと、しない?」



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