「思い出すたびに懐かしさが込み上げてくるね」
「ナァップ!」
「しかし、あの時は焦りましたよ」
「あの時・・・?」
「ほら、クダリの時とヒヨリが・・・」
「あぁ!あの時は本当にもうだめかと・・・」


―――――――


目の前にいる友人、名をトウコと言う。
彼女は以前もケイゴとの仲を聞くために、ヒヨリを呼び出していた。
待ち合わせはいつもの喫茶店。
ここでよくヒヨリはトウコとのおしゃべりの時間を楽しんでいる。
トウコはヒヨリの姿を見つけると、その名を呼び手を振った。

「ヒヨリ〜、久しぶり!」
「本当、久しぶりだね」
「ほんとほんと。ケイゴと別れたって聞いて以来だわ・・・」
「そうだね」

前回会ったときはいなかった姿に目が行った。

「あれ?この子・・・」
「うん、ヤナップ。ノボリさんと付き合う前に出会って私のポケモンになってくれたの」
「ナップ」

ヤナップはトウコにこんにちわ、と手を上げて一鳴きした。

「挨拶もちゃんとできるんだね、偉いね」
「ナァップ!」

トウコはヤナップに微笑みかけ、その頭を撫でてやる。
ヤナップは嬉しそうに目を細めた。

「ところでヒヨリ」
「ん?」
「ノボリさんと付き合う前って今言ったよね?」
「あ、ごめん。今ね、ノボリさんと付き合ってるの」

ヒヨリはまたやっちゃった、と苦笑した。
目の前の友人にだけは何でも話そうと思っているのに、
報告はいつも事後だったりする。
付き合ってると聞いて、トウコはあっさりとその事実を受け入れた。

「そっか」
「あれ、驚かないの?」
「何となく予想はしてたから。それより、ノボリさんと付き合うまでの過程教えてよ」
「いいよ」

そう言うとヒヨリはノボリと付き合うまでの過程を話始めるのだった。


―――――――


トウコとの会話を一通り楽しんだヒヨリは、ノボリとクダリの執務室に足を運んでいた。
ガチャ、と扉を開ければそこにはクダリしかいなかった。

「こんにちわー、あれ?ノボリさんは?」
「ノボリ兄さんなら今は見回りに行ってるよ」
「そうなんですか?」
「うん」
「じゃあ、探しに行ってみます。行こう、ヤナップ!!」
「ナァップ!」

そう言うと、ヒヨリとヤナップは執務室を後にするのだった。


―――――――


ノボリが居そうな場所を歩いていくヒヨリとヤナップ。

「ノボリさん、どこだろうね?」
「ヤナ?ヤナナ!!」

ヤナップは視線の向こうにノボリの姿を確認すると、ヒヨリの服の袖を引っ張った。
ノボリの姿を指差す。ヒヨリもヤナップの指差す方向に目を向けた。
そこには黒いサブウェイマスターの証のコートを着ているノボリが居て。

「あ、ノボリさ・・・」

ノボリのところまで駆け寄ろうとするが、その足がぴたりと止まった。

「ノボリさん、好きです!」
「ヤナ?」

ノボリが好きと言って、ノボリに抱き着いている女の姿があった。

「・・・っ!」

その姿を見たヒヨリはその場にいてもたってもいられず、元来た道を走って行く。

「ナップ!?」

それを見たヤナップは目を見開き、ヒヨリが走って行った姿を見送るしかなかった。


―――どうしよう。ノボリさんが、女の人に告白されてた。


執務室まで戻ってくると、ヒヨリは勢いよく扉を閉めた。
その音の異常さにクダリは驚いてヒヨリを見た。

「ヒヨリちゃん?」
「・・・あ、クダリ、さん・・・」

クダリに名前を呼ばれて顔を上げたヒヨリ。
その目にはうっすらと涙を浮かべていた。
尋常ではないその表情にクダリは慌ててヒヨリの傍に駆け寄った。

「どうしたの?」
「ノボリ、さんが・・・」
「ノボリ兄さんが?」
「ノボリさんが、女の人・・・に告白されてて・・・」

ポロポロと溢れる涙。
クダリはヒヨリの手首を引き、ソファーに座るように施した。


―――――――


ノボリに告白した女がノボリの頬に手を伸ばす。
その表情は薄らと笑っていた。
ヒヨリ以上に色気がある微笑み。
ノボリにはヒヨリがいる。どう断ろうか悩んでいた。
ヤナップは2人に気が付かれないようにそっと近づく。

「ねえ、ノボリさん。今、彼女とかいないの?」
「い、いますが・・・」
「その子やめて、私にしない?」

そう言った女が背伸びをしてノボリに口づけようとした時だった。

「ナップ!」

ヤナップが女めがけて体当たりを仕掛けてきた。
当然、体当たりされた女は勢いよくその場に倒れた。

「いったぁぁい!何するのよ、このヤナップ!!」
「ヤナップ、お客様は丁重に扱わねばなりませんよ?」

ノボリは女に手を伸ばし、立たせてやる。
ノボリのその言動にヤナップは青筋を立てた。
ダンダン、と勢いよくその場を踏みつけながら女に叫んだ。

「ヤナ!ヤナナップ!」訳:お前!ヒヨリ泣かせた!
「ヤナップ?」

その怒りは収まることを知らず、ノボリは首を傾げた。
ヤナップはノボリの方へ振り向くと、ノボリにわかりやすいようにジェスチャーする。

「ヤナナ、ナッププププヤナナナナナナップ」
「え?『ヒヨリ、今の場面観て泣きそうになって走っていった』・・・ですって!?」
「ノボリ・・・」

次第に青ざめていくノボリ。
そんなことは露知らず、女はノボリに抱き着こうとしたが、ノボリがそれを制止した。

「申し訳ございません。大事な彼女が泣いていったとのことなので、失礼させていただきます」

それだけ言えば、ヒヨリが走って行った道を駆けていく。

「え、ちょ・・・!」

その場に立ちつくされた女はヤナップを睨み付けた。

「あんたのせいだからね」
「ナプ?」

ヤナップはそれ以上の睨みを女に向けた。
今にもリーフストームが飛びそうなそんな目。

「ヒィイイ」

女が怯むと、ヤナップもノボリの後を追いかけ走って行くのだった。


I love you
(ヒヨリとノボリの仲を裂いたら絶対に許さない)



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