ヒヨリはノボリの部屋までやってきた。
食事の用意ができたからだ。
部屋を開ければ、ノボリは本を読んでいた。
その姿は絵になっていて、ヒヨリは本来の目的を忘れそうで魅入ってしまいそうになる。
フルフル、と首を横に振り、ノボリに声をかけた。
「ノボリさん、ご飯できましたよ〜」
「今行きます。ところで、ヒヨリ」
パタンと本を閉じて、椅子から立ち上がればヒヨリの前に立ちはだかるノボリ。
そっとヒヨリの頬に手を伸ばせば、ヒヨリは首を傾げた。
「?」
「そろそろその『ノボリ”さん”』って言うのをやめていただけませんか?
もう、付き合い始めて1か月にもなるというのに、”さん”付けでは他人行儀ですし・・・」
突然のノボリの申し出にヒヨリの頬は赤く染まる。
「むっ、無理です!」
ノボリが言うには自分はヒヨリの彼氏なのだから、それ相応の呼び方をしてもいいのではないかと言うこと。
他人行儀と言えば、そうだ。
近い存在にいるのに、敬語になってしまうのは、ノボリが年上だからで。
ヒヨリにはヒヨリの考えがあるのだ。
「ではせめて、敬語を取ってください」
「ノボリさんだって敬語じゃないですか」
むすぅと頬を膨らませるヒヨリ。
ノボリは苦笑した。
「わたくしはこれが普通で御座います」
「うー、少しずつ・・・で良いかな?」
「かまいませんよ」
ノボリはふっと笑うと、ヒヨリに顔を近づけた。
すると、もう一つ扉が開く音がした。
いつまでたっても戻ってこないヒヨリとノボリに痺れを切らせたのか、ヤナップが姿を現した。
「ヤナナ!ナップ!?」
ノボリの顔とヒヨリの顔を見て、ヤナップは目をぎょっとさせた。
次の瞬間には、目に涙を溜めていた。
「ナップ、ナップ!?」
「ヤナップ?どうしたの、そんな泣きそうな顔して・・・」
「ナップぅ!!」
ヤナップはヒヨリとノボリの手を取ると、前へ引き寄せた。
2人の手がトン、と当たった。
「え?」
「喧嘩でもしてたのと思ったのでは?」
「そうなの、ヤナップ?」
「ナップ!!」
喧嘩、という言葉を聞いてヤナップは首を縦に振った。
ヤナップはヒヨリとノボリと3人でいる時間が好きだった。
もちろんヒヨリと2人の時、ノボリと2人でいる時も好きだ。
そんな大好きな2人が嫌悪な状況になっているのと思ったらしい。
喧嘩でもなんでもないのに、とヒヨリは心の中で呟いた。
「ヤナップ、わたくしたちは喧嘩はしていないで御座いますよ。さ、せっかくの食事が冷めてしまいます、いただきましょう」
「ナァップ!」
ノボリとヒヨリはお互いにヤナップの手を取ると、そのままリビングへと歩いて行った。
手を繋いで3人で歩く様はまるで親子のようだった。
I love you
(ノボリとヒヨリ、大好き!)
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