優しく触れるだけのキスをして離れて行ったノボリさんの唇。
閉じていた目を開くと、視界いっぱいにノボリさんの顔が映った。
目を細めて私の前髪をかき分けおでこにキス。
そのままぎゅ、と抱きしめられた。
ノボリさんの手が私の頭に触れて、肩甲骨まである髪を指で梳かした。

「ヒヨリの髪、良い香りがしますね」
「そう・・・ですか?」
「ええ」

そう言えば、ノボリさんは横髪を一つ掬ってキスをする。
その仕草が不覚にもドキッとしてしまって。

「ヒヨリ、顔が赤いですが・・・?」
「な、なんでもないです!」

あたふたとノボリさんから離れようとしたけど、がっちりと腰を掴まれていて、離れることができなかった。

ふと、元彼が言っていたことを思い出した。


―――オレ、ヒヨリの長い髪が好きだ。


「どうしました?」

考え事をしていたみたいで、ノボリさんが首を傾げる。

「え、ううん。何でもないの!」

私がそう言えば、ノボリさんがまた私を抱きしめる。


長い髪・・・。
確か、ここまで伸ばした理由って・・・。


私は一つの結論に達したのだった。


―――――――


ライモンシティのとある美容院。
休日を利用し、ヤナップを連れて、ヒヨリはここに来ていた。
ヤナップはヒヨリを待っている間、店の従業員と遊んでもらっていた。

「さ、おしまいです。お疲れ様でした」

理容師から鏡を受け取り、自分の新しい髪型を確認する。

「ありがとうございます」

散髪用の椅子から立ち上がれば、一目散にヤナップの元へ駆け寄った。

「ヤナップ、お待たせ!」

ヒヨリの声に気が付いたヤナップがヒヨリの方へ顔を向ける。

「ナァァァァアアアアップ!?!?」

ヤナップの声が店中に木霊した。


―――――――


翌日。
朝、いつも通りの時間に家のインターホンが鳴った。

「きっとノボリさんだ。ヤナップ、お願いできる?」
「ナァップ!」

そう言うと、ヤナップは嬉しそうに玄関へと走っていく。
廊下の向こうでは、ノボリとヤナップの声がした後、ドアが閉まる音がした。
廊下を歩く2つの音。
リビングのドアが開かれると、ヤナップとノボリがいた。
ノボリがヒヨリがいるであろう、キッチンに足を運んだ。

「ヒヨリ。おはようございま・・・」

す、とは言えずにノボリの口は開いたままだ。

「おはようございます、ノボリさん。どうしたんですか?」
「ナプ?」

ヤナップはノボリの足元に歩み寄り、ノボリを見上げた。
ヒヨリはパンとスクランブルエッグを持って、首を傾げた。

「ヒヨリ、その髪は・・・」

ヒヨリはテーブルにパントスクランブルエッグを置くと、ノボリと向き合った。
今、ノボリの目の前にいるヒヨリは昨日までの髪の毛が長いヒヨリではない。
ショートカットのボーイッシュな髪型のヒヨリだ。

「これですか?ちょっと気分を変えたくて・・・」
「しかし、折角の長い髪が・・・」

確かに今の髪型も似合う。
しかし、ノボリは女性らしく髪は伸ばしたままの方が良かったと感じている。

女性が髪を切るときは、失恋したときだとよく聞くが、今のヒヨリには失恋はしていても自分がいる。
とても髪を切る理由にはならない。

そんなことを考えていると、ヒヨリが頬を赤く染め、ノボリに紡いだ。

「あのね、ノボリさん。髪の毛を切ったのには理由があるんです」
「理由ですか・・・?」

ノボリが問えば、ヒヨリはこくんと頷いた。

「あのね、あの髪は元彼を想って伸ばしてたんです。でも、元彼はもういないし、今はノボリさんが大好き。これからはノボリさんを想って髪を伸ばしたいな・・・なんて」

それを聞いたノボリは固まってしまった。

「あの、ノボリさん?」

ヒヨリが不安そうにノボリの顔を見れば、急に腕を引っ張られる。
すっぽりとノボリの腕の中に収まったヒヨリの身体。

「ヒヨリ。わたくしは嬉しいです。わたくしを想って髪を伸ばして下さるのですから。ありがとうございます」
「うん・・・」

ヒヨリもゆっくりとノボリの背中に手を回した。

「ナプ?ナプ?ナプ〜」

ノボリとヒヨリを交互に見やり、プリンのように頬を膨らましたヤナップ。
自分がいることを忘れられたかのような甘い空気に少々不満を持ちつつも、自分のポケモンフーズが置かれているテーブルに足を運ぶ。
器用に椅子を引けば、そこに飛び乗った。
テーブルを叩きながら、「ナ、プ、プ」と言った。
ヤナップの声にびくんと反応したノボリとヒヨリ。
抱き合ったままヤナップの方を振り向いた。

「あ、ヤナップごめんね?」
「朝食を頂きましょう」
「ナァップ!」

そう言えば、ノボリとヒヨリはお互いの身体を離し、椅子に座った。
2人と1匹で手を合わせた。

「「「いただきます/ヤナナップ」」」


I love you
(元彼との思い出とその気持ちよ、さようなら)



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