ヤナップと感動的な再会を果たしたヒヨリ。
あれからしばらくすれば、ギャラリーも個々に散っていった。
ノボリとクダリもまた、ヒヨリとヤナップを連れて売店の方へ戻った。
売店ではヨシエが心配そうな顔をして待っていた。
ヒヨリに抱えられているヤナップを見て、一瞬驚いた顔をする。
事情を話せば、にこっと笑ってヤナップの頭を撫でた。
ヤナップは嬉しそうに両手を上げた。
ノボリは思い出したように、ポケットに手を入れモンスターボールをヒヨリに差し出した。
「ヒヨリ。これをお渡しします」
「これは・・・?」
「モンスターボールだよ。ポケモントレーナーは通常、このボールにポケモンを入れて連れ歩くんだ」
「そうなんだ。ありがとうございます」
ノボリからモンスターボールを受け取れば、ヤナップが一鳴きして開閉スイッチを押した。
「え?ヤナップ?」
モンスターボールから発せられた赤い光。
ヤナップはそれに包まれて、ボールの中に入ってしまった。
ポン、とゲット完了の合図がした。
「これでゲット完了です。さ、ヒヨリ。ボールを宙に投げてみて下さいまし」
「え、あ。はい。出ておいで、ヤナップ!」
ヒヨリが宙にボールを投げれば、白い光とともにヤナップが元気よく飛び出してヒヨリに抱き着いた。
「きゃ、ヤナップ、擽ったいよ」
「ヤナッチュ」
ヤナップはヒヨリ大好き、と言うかのようにヒヨリの頬にキスをする。
それを微笑ましそうに見る、ノボリとクダリとヨシエ。
「さ、ヒヨリちゃん、ヤナップ。仕事再開するよ!」
「はい!」
「ナプ!」
「じゃぁ、ヒヨリちゃん。またね」
「またあとで来ます」
そう言うと、4人はそれぞれの持ち場についていく。
―――――――
「ヤップゥゥゥ」
夕方。仕事が終わった時間。
ヤナップはとても疲れた表情を浮かべていた。
「大丈夫、ヤナップ?」
「ヤナァ・・・」
ヒヨリがフラフラのヤナップの身体を支えてやる。
ヤナップは弱弱しそうにモンスターボールを指差した。
「え、ボールに入りたいの?」
「ナップ・・・」
こくん、と頷けばヒヨリはモンスターボールをヤナップに向けた。
開閉スイッチから出てくる赤い光に包まれ、ヤナップはモンスターボールに入っていった。
「今日は色々とありましたからね。ヤナップも疲れたのでしょう」
「ノボリさん」
「お迎えに上がりましたよ、ヒヨリ」
「今、準備してきます。待っててくださいね」
「わかりました」
ヒヨリはヤナップの入っているモンスターボールをノボリに預け、更衣室に消えていく。
その後ろ姿にヨシエは笑みを漏らした。
「良かったね、ノボリさん。ヒヨリちゃんに笑顔が戻って」
「ええ・・・」
「あとは、ヒヨリちゃんとノボリさんがくっついてくれれば嬉しいんだけどね・・・」
その言葉でノボリの顔が赤くなった。
あの時、元彼の前で言っていたヒヨリの言葉。
ノボリさんが好き。
―――ヒヨリ。わたくしが好きと言うのは本当ですか?あなた様のその気持ち、確かめてもよろしいですか?
ノボリがそんなことを思っていると、着替えが終わったヒヨリが戻ってきた。
「お待たせしましたー!」
「では、参りましょう」
ヤナップのモンスターボールをヒヨリに返す。
ヒヨリはボールをカバンにしまった。
「はい。お先に失礼します」
「はい、お疲れ。また明日」
「お疲れ様でした」
ノボリと肩を並べ、ヒヨリは売店を後にした。
夕日が差し込むライモンシティを歩いていく。
ノボリは時折、ヒヨリの顔をちらちらと横目で見る。
「ノボリ、さん?」
「何でしょうか?」
「私の顔に、何かついてますか??」
ドキリとした。まさか、気付いていたなんて。
「いいえ・・」
「じゃあ、なんで私の顔を見てたんですか?」
ノボリは握り拳を作り、立ち止まった。
ヒヨリも首を傾げながらも立ち止まる。
街灯が点灯をし始めた。
太陽がゆっくりと沈んでいく。
「ヒヨリ」
「はい」
「わたくしを好きだというのは、本当ですか?」
ヒヨリの頬が赤くなった。
「どうしてそれを・・・!」
「昼間、聞いてしまったんです。元彼とあなたの話を・・・」
それを言われて、ヒヨリの顔がさらに赤くなる。
その顔はまるで林檎のようだ。
ノボリはヒヨリのそのリンゴのような頬に手を伸ばした。
「ヒヨリ。わたくしはあなたのその口から聞きたいでございます」
そう言うと、ヒヨリは1度深呼吸をして目を閉じた。
目を開けて、頬に添えられた手に自分の手を重ねる。
目を細め、言葉を紡いだ。
「私、ノボリさんが好き。大好きです!」
それを聞くと、ノボリはヒヨリの身体を抱き寄せた。
「わたくしもヒヨリが好きでございます。わたくしと、お付き合いいただけますか・・・?」
「はい」
ヒヨリの返事を聞けば、ノボリはヒヨリの顔を上にあげさせ、その唇にキスを落とすのだった。
I love you
(その日、私は大切なものを2つも貰ってしまった。どちらも私にとってかけがえのない存在だから。絶対に離したくない…―――)
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