お店の商品を整理していると、後ろに人の気配を感じた。

「ヒヨリ」
「え・・・?」

聞き覚えのある声がして、後ろを振り向けば、ヒヨリの元彼の姿があった。

「その、返事を聞きに来た」
「返事・・・あ」

ケイゴの言葉で思い出した素振りを見せた。
ここ数日、お客の出入りが多かったため、告白のことなんて忘れていた。
覚えていても、ノボリに話した通り、断るつもりでいた。
ノボリが、好きだから。

ヒヨリはノボリのことを想い、頬を染めケイゴに口を開いた。

「あのね、ケイゴ・・・」
「・・・」

ヒヨリの行動に黙り込んだケイゴは、ヒヨリの手首を掴んでそそくさに歩き出していく。

「え、ちょっと!どこ行くの?まだ仕事が・・・!!」

声を上げて抵抗するが、ケイゴは聞く耳を持たずにいた。
そこへたまたま近くを通りかかったクダリがヒヨリの声に気づく。
そこにはヒヨリの手首を掴んで歩く、男の姿と声を上げて抵抗しているヒヨリの姿があった。
クダリの表情が青くなっていく。

「あれは、ヒヨリちゃん!?大変だ・・・ノボリ兄さんに知らせないと!!」

クダリはすぐさまポケットからインカムを取り出し、ノボリの無線の番号を入れた。
ガガガ、と無線独自のノイズ音。
無線がつながるのを確認すると、ノボリの名前を呼ぶ。

「ノボリ兄さん!」
「クダリですか、どうしました?」
「ノボリ兄さん、大変なんだ!ヒヨリちゃんが変な男に!!」
「変な男・・・?まさか、こないだの・・・!急がなくては!!行きましょう、ヤナップ!」
「え、ヤナップって!?」

インカムの向こうで不釣り合いな名前。
”ヤナップ”の言葉にクダリは目を見開いた。

「事情は後で説明します!」
「あ、ちょっと!!」

それだけ言ってインカムを切ってしまったノボリにクダリは一つため息を吐いた。

売店付近の階段で合流したノボリとクダリ。

「ノボリ兄さん!」
「クダリ!ヒヨリは!?」
「向こうの方に言ったよ!たぶん路地裏だと思う!!」

ヒヨリは無事なのか、とヤナップは不安な表情を浮かべる。

「ナップ・・・」
「あれ、このヤナップ・・・」
「ええ。あの時のヤナップです」
「久しぶり、僕のこと覚えてる?」
「ナァップ!!」

そう言って頭を撫でれば、ヤナップは嬉しそうに両手を上げた。
ヤナップはもちろん、と言っているように見えた。

「挨拶は後にして、早くヒヨリを!!」
「わかったよ、行こう。ノボリ兄さん!!」

そう言うと、ノボリ、クダリ、ヤナップは路地裏の方へ走っていくのだった。

路地裏付近の入り口で、ヒヨリはケイゴに声を上げていた。
人も多少ではあるが、通っていた。

「離してよ!どこに連れて行く気なの!?」

先ほどから腕を振り解こうと必死になっているが、ケイゴの手は一向に離れる気配はない。
それどころか、握られてる部分がきつくなってきてるのを感じた。
ヒヨリは顔をしかめながらまた叫んだ。

「痛いよ!離して!!」

ここでケイゴが止まって、ヒヨリの手首を解放した。
ヒヨリは手首を抑えると、キッとケイゴを睨み付けた。

「酷いよ、ケイゴ!こんなところまで無理矢理連れてきて!!」
「お前、あのノボリって言うサブウェイマスターと付き合ってるのか?」
「今、そんな話じゃ・・・」
「良いから教えろ!!」

ケイゴの怒鳴り声にビクリと肩を震わせたヒヨリ。
ヒヨリは泣きそうになるのを堪えて、口を開いた。

「付き合ってないよ」
「じゃぁ、俺と付き合ってくれるよな、な!?」

ヒヨリの両肩に手を置きながらケイゴは言った。
ヒヨリはケイゴに頭を下げて答えた。

「ごめん、ケイゴとはもう付き合えない」
「なんでだよ!?」

未だに声を張り上げるケイゴ。

「私、好きな人できたの・・・」
「あの、ノボリって言うサブウェイマスターか!?お前、あれのどこがいいんだよ!!」

声を上げてケイゴが詰め寄ってくる。

「ノボリさんは・・・、傷ついた私の心を癒してくれた。どんなに悲しいことがあっても私の傍にいてくれた。あなたにはないものをたくさん持ってる。私、ノボリさんが好き!大好きなの!」

ノボリが好き、とヒヨリが叫んだと同時にノボリ、クダリ、ヤナップがヒヨリのいる場所へ駆けつけた。
それに気付いていないヒヨリとケイゴ。

「ノボリ兄さん・・・」

クダリがノボリの方を見れば、ノボリは目を見開いて頬を少しだけ赤くしていた。
ヒヨリの告白に動けずにいるノボリ。

「そうかよ・・・そんなにあいつがいいのかよ・・・」
「え?」

ケイゴが投げたモンスターボールからポケモンが出てきた。
出てきたのはデンチュラとペンドラーだった。
ケイゴは宙に浮いたモンスターボールをパシッと握ってニヤリと気味の悪い笑みを浮かべた。

「だったら、ノボリってやつにもう会わせなくしてやるよ」

ペンドラーはヒヨリを見て、威嚇の声を上げた。

「ドラァァァァァ」
「ペンドラー!?まさかあの時の!?」

オレンの実の木で襲ってきたペンドラー。
あの時のことを覚えているのか、興奮しているようだった。
ヒヨリの顔が青くなっていく。
カタカタと身体を震わせた。

「なんだ、お前。こいつのこと知ってるのか?なら話は早いな。デンチュラくものす攻撃!!
ペンドラーはくものすで動けなくなったヒヨリの確保だ!」

デンチュラが口からくものすを吐き出した。

「やばい、あいつ、ヒヨリちゃんをこのまま連れて行く気だ・・・!」
「いけません、ヒヨリ!!」

クダリの言葉に我に返ったノボリはヒヨリの名前を叫んだ。

「!!!」

自分に飛んでくるくものす攻撃。
ヒヨリは恐怖で逃げられずにいた。
足が、動かない。

「ナァップププププ!!!」
「え・・・?」

ヒヨリの横からタネマシンガンが飛んでくものすを壊した。
その衝撃で爆発音がした。爆風で辺りが何も見えない。


―――今、ヤナップの声がしたような・・・?


ようやく収まってきたころ、ノボリとクダリはヒヨリの元へ駆け寄った。

「ヒヨリ!!」
「ヒヨリちゃん!!」
「ノボリさん!?クダリさん!?」

振り返れば、ノボリとクダリがいた。
ノボリはヒヨリの頬に手を当てて、ヒヨリの顔色をうかがった。

「大丈夫ですか、ヒヨリ!?」
「なんとか・・・今、ヤナップの声がしたような気がしたんですけど・・・」
「気がした、じゃないですよ」

ノボリは微笑んでヒヨリの後ろを指差した。

「え?」

ゆっくり指差した方を見れば、見慣れた後ろ姿がそこにはあった。

「ヤナップ・・・?」

ヤナップは一度後ろを振り向くと、にこっと笑顔を向けて前を見据えた
その瞳に怒りの炎が宿る。
ヒヨリはヤナップの背中をただただ、じっと見つめているのだった。


―――大好きなヒヨリを傷つけようとした。絶対に許さない。


I love you
(やっと、君に会えた)



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