あの告白以来、ケイゴはよくヒヨリのいる売店の前を通った。
ちらっと、ヒヨリの方を見れば、ヒヨリはこちらに気づくことはなかった。
ノボリに笑顔を向けて、楽しそうに話をしている。
「あいつ、またサブウェイマスターといる・・・あ、すみません」
「なんでしょう?」
たまたま横を通った駅員に声をかける。
駅員は足を止めて、ケイゴの方へ振り向いた。
「あの、売店の女の子の横にいるのって」
「ノボリさんですか?売店の女の子、ヒヨリちゃんって言うんですけど、付き合ってるって噂がありますよ」
「え・・・?」
駅員の言葉にケイゴは固まった。
―――ヒヨリがあいつと?そういえば、前も・・・。
手を掴んでいたのを覚えてる。
それに、ノボリが来たときのヒヨリのあの笑顔。
ケイゴの心には醜い感情が芽生え始めていた。
―――――――
仕事の合間を見計らって、ノボリはヤナップのいるオレンの実の木にやってきていた。
「ヤナップ、いますか?」
「ナップ!」
ノボリが声を出せば、木の穴からヤナップがひょこっと顔を出した。
ノボリの存在を確認すると、大喜びで両腕を広げ、ノボリに抱き着いた。
「おっと!ヤナップ、あなたに良い知らせが御座います」
「ナプ?」
そう言うと、ノボリはポケットからモンスターボールを取り出してヤナップに見せた。
「これはシャンデラを入れているモンスターボールです。意味、おわかりですよね・・・?」
「ナップ・・・?」
まさか、とヤナップはノボリの手から顔へと視線を移した。
ヤナップの目には微かだが涙が浮かんでいた。
ノボリは微笑んだ。
「ヒヨリとあなたを、パートナーにして差し上げます」
「ナップ・・・!」
「ですが、あなたのモンスターボールはまだここには御座いません。少しの間、待っていてくれますか?」
「ヤァップ!」
「ありがとうございます」
ヒヨリとまた一緒にいられる嬉しさにヤナップは涙を漏らした。
だが、ヤナップとヒヨリが一緒になれるのは、もう少し先のことらしく、
それでもヤナップはヒヨリと一緒にいられるなら、と首を縦に振り、涙ながらに喜んだ。
ノボリは片膝を立て、ヤナップと視線を合わせると、頭を撫でた。
そして、また微笑んで言葉を紡いだ。
「ヤナップ、あなたにお願いが御座います」
「ナプ?」
「あなたにしかできない事で御座いますよ」
「ナァップ!!」
―――――――
さらに3日が経ち、ノボリはジョーイに呼ばれ、ポケモンセンターへ足を運んでいた。
ポケモンセンターに入ると、ジョーイが待ってましたと言わんばかりに笑顔をノボリに向けた。
カウンターへ足を運べば、ジョーイはモンスターボールを一つとりだした。
「ノボリさん、これを」
「ありがとうございます、これでヤナップとヒヨリを一緒にさせてあげられます!」
モンスターボールを受け取ると、ポケットにしまってジョーイにお礼を言った。
「2人によろしくお伝えください」
「わかりました。ジョーイ様、本当にありがとうございました!」
そう、ジョーイに手を降るとノボリはポケモンセンターを後にした。
「あんな必死なノボリさん、初めて見たわ・・・」
「タブンネ?」
ノボリが去った後で、ジョーイがクスリとそんなことを漏らしていた。
―――――――
オレンの実の木。
ノボリはポケモンセンターに言ったその足でここに来ていた。
目的は、そう。ヤナップを迎えに来たのだ。
「ヤナップ、いらっしゃいますか!?」
「ナァップ!!」
ノボリに呼ばれれば、木の穴から顔を出したヤナップ。
手にはあの日、ヒヨリと別れた時にもらったショルダーバッグとパジャマを持っていた。
ノボリはヤナップに自分専用のモンスターボールを見せた。
「これで晴れてあなたとヒヨリを一緒にさせることができます」
「ヤナァ・・・」
嬉しさでスイッチに手を伸ばしたヤナップだったが、それをノボリが制止した。
「おっと、ここではまだ駄目ですよ」
「ヤナ?」
「これはヒヨリの前で」
「ナァップ!」
この感動的なゲットはヒヨリと。
そんなことを思っていれば、持っていたインカムがノイズ音を出した。
ボタンを押して、無線に唇を近づけた。
「ノボリ兄さん!」
連絡を入れてきたのは、どうやらクダリのようだった。
「クダリですか、どうしました?」
「ノボリ兄さん、大変なんだ!ヒヨリちゃんが変な男に!!」
「変な男・・・?まさか、こないだの・・・!急がなくては!!行きましょう、ヤナップ!」
「え、ヤナップって!?」
「事情は後で説明します!」
「ヤナップ、行きますよ!!」
ノボリがそう言えば、ノボリは駆けていく。
ヤナップも走ろうとすれば、ヤナッキーに呼び止められた。
振り向けば、視線の向こうにはヤナップの群れがいた。
野生のヤナップ達がヒヨリのヤナップにエールを送っていた。
「ヤナナップ!!」
ヤナップは手を降ると、先に駆けて行ったノボリの後を追うのだった。
I love you
(ヒヨリ、どうか御無事で!/ヒヨリは絶対に僕が守る!!)
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