私の脳裏にはヤナップと過ごした日々が蘇る。
初めて出会ったときのこと。私をかばって倒れてしまったこと。
一緒にお買い物に行って笑いあったこと。売店での出来事。
・・・思い出したらきりがないくらい。


『ナップ!』


「ヤナップ!?」

目を見開いた。

「ゆ・・・め?」

夢にまでヤナップとの思い出が出てくるなんて。
私はよっぽどヤナップのことが好きだったんだろう。
情けなくて、笑えない。

「目覚めましたか?」
「ノボリ、さん・・・」

そう言えばここはどこだろうか。
上半身を起こし、ノボリさんを見た。

「申し訳ございません。あそこからだとわたくしの家が近いので連れてまいりました」
「あそこ・・・?」

言われてハッとした。
そういえば、ライモンシティ入り口の付近からの記憶がない。

「わわ、すみません・・・!」

もう何度ノボリの前で泣き疲れて眠ってしまったのだろうか。
恥ずかしさに顔を真っ赤にさせて、あたふたするヒヨリの頬にノボリはそっと手を伸ばした。

「ヒヨリ・・・」
「え?」

呼び捨てにされてドキッとする。

「返事はあなたの気持ちが落ち着いてからで良いので・・・」
「・・・返事?」
「覚えて、ないのですか?」

きょとん、とノボリを見れば、ノボリは苦笑した。

「では、もう一度申し上げます」

真剣な眼差しでヒヨリを見据えた。

「わたくしは、あなた様をお慕いしております」

ヒヨリの顔が真っ赤になった。
そう言えば、告白もされていたんだ。
気を失う前の記憶が少しずつ蘇る。
さっきよりも顔を真っ赤にしたヒヨリは俯いてしまった。
ノボリはフッと笑い、優しくヒヨリに言った。

「返事はいつでもよろしいので・・・」
「あの、・・・!」

何かを言いかけたヒヨリの言葉を遮るようにノボリは言った。

「さ、今日はもう遅いです。自宅までお送りしますよ」

ノボリの言葉に首を傾げる。
ヒヨリのその仕草にノボリはまた苦笑した。

「意味、おわかりではないのですか?」

そう言うと、ノボリはヒヨリの額にキスを落とす。
それでようやく意味がわかり、顔をまた赤くした。


―――でも、ノボリさんとだったら嫌じゃないかも。


「ノボリ、さん・・・」
「なんでしょう?」
「ちゃんと、ちゃんと告白の返事するから・・・」

私のことをいつも大切に思ってくれたから。
私を好きって言ってくれたから。
それに、私も同じ思いだから。
ヤナップとの別れで心が沈んでいても、待ってくれるって言ってくれたから。

「わかっていますよ。あ、待つ代わりと言ってはなんですが、一つお願いを聞いていただけないでしょうか?」
「はい」
「わたくしは自分の大切な方は名前で呼ぼうと心に決めております」

あ・・・。
そういえば、ユウコさんの時も”ユウコ”って呼んでた。
彼女は天国で今何をしているのだろうか。

「ですので、あなた様のことも”ヒヨリ”と言わせていただきたいのです」

ずっとそうしたかったこと。
想いを告げられた今だから言えること。

「はい、喜んで」

ヒヨリは顔を赤くして微笑んだ。


I love you
(ノボリの気持ち、ヒヨリの気持ち)



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