今日は週に一度の定期検診。
今回で三度目となった。
ヤナップは今、ジョーイに見てもらっている。
検査室の扉が開かれた。

「ナァップ!」

元気よく飛び出してきたヤナップはヒヨリに飛びついた。
ヒヨリはヤナップを優しく抱き留める。

「ジョーイさん、ヤナップの調子はどうですか?」
「思った以上の回復力ですね。これなら野生に還しても大丈夫」

ジョーイの言葉にヒヨリは石のように固まった。

「えっ・・・今、なんて?」
「この子が元気になるまで、面倒見てくれてありがとう!」
「い、いえ・・・」


―――そっか、元気になったんだね。ヤナップ。


きゅ、と抱きしめられたヤナップは疑問詞を浮かべながらヒヨリを見上げていた。


I love you


検診を終えた後、いつものようにノボリとクダリのいる管理室に足を運んだ。
ドアが開くとノボリとクダリは、ドアの方へ顔を向けた。
扉の前にはヒヨリが立っていた。
2人は今日、ヤナップが定期検診を受けたのを知っている。

「どうでしたか、ヤナップの定期検診」
「もう、野生に還してあげても大丈夫だそうです・・・」
「そうですか」
「よかったな、ヤナップ。仲間のところに戻れるぞ」

ノボリとクダリはヒヨリの前に歩み寄る。
クダリは少し屈むとヤナップの頭を撫でて微笑んだ。

「ナァップ!」

喜ぶヤナップとは裏腹に、表情を曇らせるヒヨリ。
唇を噛み、顔を下へと向けてしまった。
先ほどのジョーイの言葉が頭をよぎる。


―――もうすぐヤナップとお別れなんだ・・・。


「ヒヨリ、様?」

ノボリの声にハッと顔を上げる。

「え、あ・・・。そ、うですね。ヤナップ、今度のお休みの時に仲間の元へ行こう!」
「ナップ!」

ヤナップが両手を上げて喜べば、ヒヨリは抱いていたヤナップをソファーの上に下ろした。

「ヤナップ、ここで少しの間ノボリさんたちといてくれる?」
「ナプ?」

首を傾げるヤナップを置いて、ヒヨリは元来た通路へ戻ってしまった。
ノボリとクダリは眉を八の字にして顔を合わせた。
ノボリがソファから立ち上がると、ヒヨリの後を追うように部屋を出ていく。


―――パタン。


「・・・っく、ひっく・・・」

扉を閉めれば、ヒヨリはそのままずるずると崩れ落ちる。
もう一つ扉が開いて閉まる音が聞こえ、顔を上げた。
目の前には切なそうな表情を浮かべたノボリが立っていた。

「ノボ、リ・・・さん」
「ヒヨリ様・・・」

ヒヨリを立たせるとそのまま自分の腕へ引き寄せた。

「!!」

思わず目を見開いてノボリから離れようとするが、ノボリがそれを許さなかった。
腕が背中に回され、ヒヨリを精一杯抱きしめた。
耳元でノボリの吐息が聞こえる。

「わかってます、わかってますから。どうか気のすむまでここでお泣きください」

何度もヒヨリの泣き顔を見てきた。
しかし、これほどまでに辛い顔で泣いていただろうか。

「あ、り・・・がと・・・」

ヒヨリは初めて会ったときのように、ノボリの腕で泣き崩れるのだった。


―――――――


ヤナップは出て行ったきり戻ってこないヒヨリに痺れを切らしていた。

「ナプ・・・」

先ほどのノボリとクダリと同じように眉を八の字にしてヒヨリが出て行った扉を見つめた。
それをみて、クダリはポンポンとヤナップの頭を撫でてやる。

「大丈夫だよ、ヤナップ。ヒヨリちゃんたちは戻ってくるから」

クダリがそう言ったと同時だった。
部屋の扉が開かれた。
そこには、ヒヨリを横抱きにしたノボリの姿があった。

「ナップ!?」

何かあったのではないかと慌ててノボリの元へ駆け寄った。
ヒヨリの顔を覗けば、すぅすぅと寝息を立てている。
どうやら寝てしまったようだ。

「泣き疲れて眠ってしまったみたいです・・・」
「まるでヒヨリちゃんと出会ったときみたいだね」
「そうですね」
「ナプ?」

言ってる意味が分からない、ヤナップは首を傾げた。

「君も聞きたいかい、ヤナップ。僕たちとヒヨリちゃんの出会いを」
「ナァップ!」
「うん、わかった」
「その前にわたくしはヒヨリ様を寝かせてきます」
「オッケー」

両手を上げて喜ぶヤナップ。
よしよし、とヤナップの頭を再度撫でるクダリ。
ヒヨリを抱えて仮眠室へ運ぶノボリ。
ノボリは仮眠室までやってくると、ヒヨリをベッドに寝かせた。

「ヒヨリ様・・・」
「ん・・・ヤナップ・・・」

ヤナップ、と呟けば閉じられた目からうっすらと涙が流れた。


夢の中までヤナップを思って泣かれるのですね。
ヤナップが本当にうらやましい限りです。


「おやすみなさいませ、ヒヨリ様」

ノボリはそう言うと、ヒヨリの額にキスを落とし、部屋を後にするのだった。


―――――――


「ん・・・?」

目が覚めれば、白い天井が視界に入ってきた。
前にも同じようなことがあった感覚に襲われ、ヒヨリはゆっくりと上半身を起こした。
見覚えある場所。ここは以前にも1度来たことのある仮眠室だった。


―――そっか、私、また寝ちゃったんだ。ノボリさんの腕の中・・・で。


先ほどの光景を思い出し、ボン、と顔が赤くなる。
扉の向こうからヤナップの笑い声が聞こえてきた。
ヒヨリは赤くなる顔を抑えて、ベッドから降りると隣の部屋へと足を進めた。

「ヤナヤナ!!」
「面白いだろ?」
「クダリ!あんまり変なことをヤナップに言うものではありません!」

ガチャ、と開かれた扉。
そこに立っていたのはヒヨリで。

「あ、ヒヨリちゃん、目覚めた?」
「はい・・・」
「ナァップ!」
「わっ・・・!」
「ナップ、ナップ!」

勢いよくヒヨリに飛びついてきたヤナップ。
ヒヨリは驚いてヤナップを抱き留めた。
ヤナップはヒヨリにすり寄っている。
顔を上げて、おなかを摩った。

「え、おなかすいたの?」
「ナップ!」
「もう、夕食時だもんね」

時計を見れば、午後6時を指していた。

「わかった、帰ろうか。ヤナップ」
「送っていきますよ」

ノボリが立ちあがった。

「寄りたいところがあるので、大丈夫ですよ。失礼します」

ヒヨリはペコ、とお辞儀をするとノボリとクダリに背を向けた。

「ヒヨリ様・・・」
「ヒヨリちゃん・・・」

扉が閉まれば、ノボリとクダリは切なそうにヒヨリの名前を呟いた。
ホームまでの道を歩きながらヒヨリはヤナップに言った。

「ヤナップ」
「ナプ?」
「家に帰る前にどうしても寄りたいところがあるの。行ってもいい?」
「ナップ!」

ヤナップが頷くと、ヒヨリは商店街へと足を運ぶのだった。


その夜、私はヤナップが寝静まるとリビングへ向かい、
夕方に寄った糸針屋で購入した布を取り出した。
そして、ミシンを開けて、あるものを作り始めた。
これは、もうすぐ私の元からいなくなってしまう君への贈り物。


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