今日も無事に1日が終わった。
ここ2,3日、ヤナップのおかげもあってかお店が繁盛した一方で、ヒヨリやヨシエの負担もだいぶ減ってきてる。
明日は3日ぶりの休みだ。
ヒヨリのいないお店は、どこか寂しいものがあると依然お客さんに言われたこともある。
だが、ヒヨリとて人間で、休みを取らなければ身体を壊してしまう。
何をしようかなと考えていると、ヤナップが一生懸命お店の後片付けをしていた。
頑張るヤナップを見て、ヒヨリは自然と頬が緩む。
ヤナップのところまで歩み寄り、頭を撫でてやる。
「ヤナップ、今日もありがとう!明日はお休みだし、木の実取りに行く?」
「ナァップ!」
時計を見れば、ノボリがそろそろ迎えに来る時間。
ヒヨリはヨシエに一礼すると、ヤナップを連れて更衣室に足を運ぶのだった。
I love you
翌日。
たまたま休みが被っていたヒヨリとノボリは一緒にヤナップと出会った場所までやってきていた。
「ほう、ここがヒヨリ様とヤナップの出会った・・・」
「オレンの実の木ですよ!ここで私たち、出会ったんだよね、ヤナップ!」
「ナァップ!」
見渡す限り、360℃オレンの実が生っている。
「あ、あそこのオレンの実、大きいね・・・」
ヒヨリがそう言えば、ヤナップはヒヨリの腕からするりと抜けた。
「あ、ヤナップ!」
「ヤナップがとってくれるんではないんですか?」
「あ、なるほど・・・」
ヤナップが気によじ登り、オレンの実に手を伸ばした時だった。
自分の手と同じ手が重なった。
「「ナップ!?」」
「「え?」」
その光景にヤナップ、ヒヨリ、ノボリは声を揃えた。
ヒヨリが保護してるヤナップの目の前にはもう一匹のヤナップがいた。
おそらく野生だろう。
「ヤナ!」
「ヤナナップ!」
野生のヤナップは、ヒヨリのヤナップを見て驚いて木から降りてしまった。
その後を追う、ヒヨリのヤナップ。
追いかけるがすぐに見失ってしまった。
「ナップ・・・」
しゅん、と項垂れるヤナップ。
「ねえ、ヤナップ・・・今のって・・・」
「ヤナップの群れの仲間・・・かもしれませんね」
「ノボリさん・・・」
久しぶりの仲間との再会。
仲間は自分のことを覚えてなかったのかよくわからなくてヤナップは悲しみに包まれる。
「ナップ・・・」
ヒヨリは目に涙を浮かべてるヤナップを見て、そっと頭を撫でてやった。
「また会えるよ。また今度行ってみよう?」
「ナップ!!」
ヤナップは嬉しそうにヒヨリにすり寄った。
ヤナップを抱きとめ、少し曇らせた表情をするヒヨリ。
「ヒヨリ、様・・・?」
「え、あ・・・なんでもないですよ!」
―――ヤナップ、やっぱり仲間の元へ帰りたいのかな?
ヒヨリがそんなことを考えてるとは知らずに、ノボリの言葉がヒヨリに拍車をかける。
「しかし、ヤナップの仲間があそこにいたとは。やっぱり仲間がいると嬉しいものなのかもしれませんね」
「え・・・?」
―――そうだ、この子は元は野生のポケモンなんだ。私のポケモンじゃない。ヤナップが傍にいるのが当たり前って思ってた。ヤナップと離れたくないけど、ヤナップの幸せを一番に考えなくちゃ。だけど・・・。
徐々に表情を曇らせていくヒヨリ。
ノボリはヒヨリの顔を覗きこむ。
「ヒヨリ様・・・」
「ヤナップ、明日はクッキー作ろう!」
「ナップ!」
「次の休みのときの分まで作るから大変だぞ〜!」
「ナプ〜??」
口は笑っているが、目が笑っていない。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
この子が私の元に来て随分経ってるんだね。
ヒヨリは少しずつ近づいているヤナップとの別れを感じているのと同時に、それまでの間にヤナップとの思い出をたくさん作ろうと心に決めるのだった。
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