昼時、ヤナップとヒヨリの様子見がてら売店にやってきたノボリは、売店の会計口でずらっと並んでる人だかりに絶句した。

「何なんですか、この行列は・・・」

人込みをかき分け、ようやくヒヨリの元へたどり着いた。
普段ならなんなく来れるところも、今日に限っては一苦労だ。

「あ、ノボリさん!」
「ヒヨリ様、これは一体・・・」
「うーん、しいて言えばヤナップの効果、かな?」
「ヤナップの?」

あれです、と視線をヤナップの方へ向ければ、お客様と思われる人物たちがヤナップに触っていた。

「お客さんたち、みんなヤナップが気に入っちゃったみたいで」
「ほう、それはそれは・・・」
「招き猫ならぬ、招きヤナップだよ!」

ヨシエは甲高く笑った。
ヤナップはヒヨリとノボリ以外の色んな人を相手にしたため、顔には疲れの表情が出始めていた。
それにヒヨリはいち早く気が付く。

「でも、ヤナップちょっと辛そう」
「少し休ませてあげるかね・・・」
「そうですね」
「ヒヨリちゃん、ここは任せてノボリさんとヤナップとご飯に行っておいで」
「え、この人数大丈夫ですか?」

見渡せば、いまだに減ることのない人だかり。
ヤナップ見たさにジュースを購入してくる人も今日は絶えなかった。

「大丈夫だって。私を誰だと思ってるんだい!」
「売店の主、ヨシエさんです・・・」
「よろしい。じゃぁ、休憩に行っておいで!」
「はい。ヤナップ、こっちにおいで」
「ナァップ!」

ヒヨリに呼ばれれば、待ってましたと言わんばかりにヒヨリに飛びついた。
その光景を見て、観客はブーイングの嵐を出す。

「すみません、ヤナップは休憩に入りますので」
「はいはい、ヤナップは見世物じゃないからね!」

ヨシエは両手を叩いて観客の説得を試みた。

「さ、ここはヨシエ様に任せて参りましょうか」

さりげなく握られた手。
驚いてドキリとしたが、ヒヨリは手を離さなかった。
ノボリの、こういうさりげない気遣いが好きだから。
片方はノボリの手、片方はヤナップを抱いてヒヨリは微笑んだ。

「そうですね、行こうか、ヤナップ!!」

ヒヨリがそう言えば、ヤナップは目を細めて頷いた。
きゅ、と落ちないようにヒヨリの腕にしがみつき、ヒヨリもまたヤナップを落とさないように
ヤナップが苦しくない程度に腕に抱く力を強くした。
歩きながらノボリがくすくす笑いながら言った。

「今日はヤナップのおかげでお店も繁盛ですね」
「この子、見世物じゃないんですけど・・・」

ヒヨリは苦笑する。
ノボリはすみません、と平謝りする。
目指すは社員食堂。
今日のお昼は何にしようかな?


―――――――


「ナァップ・・・」

ヒヨリの腕ですやすやと眠るヤナップ。
お昼ごはんのポケモンフーズをいつもの倍食べた後、
死んだかのように眠ってしまった。
余程おなかがすいて、疲れていたのだろう。

「お店に戻ったら、奥の方で寝かせておきますね」
「それがいいかもしれませんね」

売店に戻ってみれば、人通りも減っていた。
ヒヨリは売店の奥の方へ行くと、ヤナップを横にして毛布をかけてやった。
時折、ヤナァァァと寝言が聞こえてくる。
どんな夢を見ているのだろうか。
まさか、まだ食べている夢だったりして。
ヒヨリはそう思うと、一層笑みを漏らし、静かにその場を後にした。


―――――――


あれから2時間ほどが経った。
ヨシエも1時間前に昼休憩にと売店を後にしている。
時間的にそろそろ戻ってくる頃だった。

「ナプ?」

目をうっすらとあけて、上半身を起こす。
視線を下へ落とせば、毛布がかかっていた。
自分にこういうことをしてくれる人物はただ一人。
ヤナップはうっすらと明かりが差し込む扉へと歩いていく。
扉を開ければ、ヒヨリの後ろ姿が見えた。
ヒヨリは扉が開く音を聞き、後ろを振り向いた。
奥の部屋で寝かせていた、ヤナップをみて微笑んだ。

「あ、目覚めた?ご飯食べ終わった瞬間、寝ちゃったんだよ」
「ナプゥ・・・」

ヒヨリはヤナップを抱き上げる。
ヤナップは申し訳なさそうに鳴いた。

「お姉さん、これ下さい!」

会計口にサイコソーダを持った男がヒヨリに言った。
ヤナップに向けていた視線を男へ向ける。

「あ、はーい!」
「ヤナナップ!!」

ヒヨリの腕をすり抜け、カウンターテーブルに立つヤナップ。
ヒヨリは驚いて目を見開いた。

「え、手伝ってくれるの?」
「ナップ!」
「ふふ、じゃぁ、これを袋に入れてくれるかな?」

男からサイコソーダを受け取り、ヤナップに袋と一緒に手渡す。

「ヤナァ!」

ヤナップは嬉しそうにサイコソーダを袋に入れて男に渡した。
男は偉いな、と言ってヤナップの頭を撫でた。
ヒヨリは男から料金を受けとる。
じゃぁな、と言って男は売店から去っていく。
その光景を見ていたヨシエがヒヨリとヤナップの元へ歩み寄る。

「なんか様になってるねぇ!」
「あ、ヨシエさん。おかえりなさい」
「ナァップ!」
「しかし、今日は朝からお客さん多いねぇ・・・。これもヤナップのおかげなのかね・・・?」
「ナプ?」

そう言ってヨシエはヤナップの頭を撫でた。
ヤナップは首を傾げる。

「当の本人はわかってないみたいですよ」
「そうみたいだね」
「さ、午後も頑張るかね!」
「はい!」
「ナップ!」

午後も普段の倍近くの仕事量になりそうだな、と思いながらヒヨリは意気込むのだった。


―――――――


夕刻、いつもの時間にノボリはヒヨリのいる売店へ顔を出した。

「ヒヨリ様、お迎えに上がりました」
「ノボリさん!」

ヤナップもよく知る人物にヤナップは嬉しそうにノボリに抱き着いた。
ノボリはおっと、と言ってヤナップを抱きとめた。

「何か今日は疲れてる顔、してますね。ヒヨリ様もヤナップも」
「まぁ、今日はいつもよりお客さん多かったですし」
「あんまり、無理して倒れないでくださいね?」

ノボリはヒヨリの頬に手を置く。
ヒヨリはノボリの行動にドキドキしながらも、笑顔で答える。

「はい!あ、着替えてくるので待っててください。行こう、ヤナップ!!」

ヤナップは一鳴きすれば、ノボリの腕から離れてヒヨリに抱き着く。
ヒヨリはヤナップを抱きしめ、更衣室へと消えていく。
ヒヨリとヤナップの仲睦い姿を見て、ヨシエは言った。

「ノボリさん。ヒヨリちゃんとヤナップ、すっごく仲がいいじゃないか!」
「ええ。これではお別れするとき、お互いにお辛いのでは・・・」
「本人たち、そのことを忘れてる気がしてならないよ・・・」

少し、悲しそうな表情をしたノボリ。
ヤナップと別れる時、ヒヨリはどういった行動をとるのだろうか。
笑って送り出す?それとも・・・。
ノボリはそんなことを考えながらも、ヒヨリが歩いて行った方向を見つめるのだった。


I love you
(ヤナップとの別れがやってくれば、あなたが壊れそうで怖い)



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