「ナップ、ナップ〜♪」

ヤナップはノボリとヒヨリの一歩前に歩いていた。
鼻歌まじりにスキップもしている。
その様子を見て、ヒヨリとノボリはくすくすと笑みを漏らす。

「ヤナップ、かなりご機嫌ですね」
「朝ご飯がよっぽどおいしかったのかな?」
「ヒヨリ様のお料理、とてもおいしかったですよ」

ノボリの言葉にヒヨリは顔を赤くした。

「そ、そうかな・・・」
「えぇ・・・」
「ナップ、ナップ〜♪」

後ろで良い雰囲気の2人がいることも知らずにヤナップは機嫌よくスキップを続けるのだった。


I love you


「おはようございます」
「おはようございまーす!」
「ナププ〜!」
「おはよう、ノボリさん。それにヒヨリちゃんにヤナップ」

売店の前で挨拶を交わす3人と1匹。
これが3人の朝の日課になりつつあった。
最近はヤナップも入れて、3人と1匹である。
ヒヨリは膝を曲げてヤナップに視線を合わせる。

「ヤナップ。私、これからお仕事だけど、どうする?」
「ナプ?」

ヒヨリの言葉に首を傾げたヤナップ。

「わたくしのところに来ますか?」

ノボリがそう言えば、ヤナップは首を横に振った。
ヒヨリの服の裾を掴んでノボリを見上げた。

「ナァップ!」
「え、お店手伝いたいの?」
「ヤナ!!」

ヤナップはそうだよ!、とでも言うように鳴いた。

「わかりました。ここはヤナップの意思を尊重しましょう」
「それもそうですね」
「ナップ!」

ヤナップはまた鳴いた。
まるでありがとう、と言っているように。

「さぁ、そろそろお店を開く時間だよ!」
「はい!」
「ナップ!」

ヨシエが手を叩きながら言えば、ヒヨリとヤナップは同時に返事をした。

「では、ヒヨリ様。また夕方に・・・」
「はい」

ノボリはヒヨリ達に背を向けて歩いていく。
ヒヨリはノボリの背中を嬉しそうに見つめた。
ヨシエが会計口のシャッターを開けながら呟いた。

「そういや、ノボリさん。痴漢が捕まった後もヒヨリちゃんを朝迎えに行ってるんだね〜」
「え、ええ・・・」
「ナプ?」
「一緒に来る姿がまるで恋人みたいだったよ」

はにかんでヨシエが言えば、ヒヨリは頬を真っ赤に染める。

「もう、ヨシエさん!からかわないで下さいよ」
「からかってないんだけどねぇ・・」

ヨシエは苦笑した。
お互いに想いあっているのに、どうしてこの2人はその気持ちを伝えられないのだろうか。
ヒヨリの失恋のこともあるだろうが、それはとうに過ぎたこと。
そろそろ、新しい恋をしてもいいのではないかとヨシエは思っていた。
ノボリとヒヨリが本当にもどかしい。

そんなことを思っていれば、常連で店に来ている2人の駅員がやってきた。

「お、こないだのヤナップじゃないか!」
「ナップ?ヤナナ!!」

ヤナップは一瞬、誰だっけ?と首を傾げたが思い出したように目を見開いた。
すっと、一人の駅員の手がヤナップの頭に伸びてきた。

「こないだはごめんな、泣かせちゃって」
「ナッププ!」

謝罪の言葉を述べれば、ヤナップは大丈夫!、と言うように鳴く。

「そういやヤナップってヒヨリちゃんのポケモンじゃないって聞いたんだけど」
「この子の体力が回復するまで私が面倒見てるんです」
「そうなんだ・・・」

すると、後ろからまた別の声がしてきた。
格好からして、ここの駅員なのだろう。

「あれ?この売店にヤナップいたっけ?」
「いませんでしたよ。事情があって今は私が預かってるんです」
「そうなのか、可愛いな。おばちゃん、サイコソーダ1つ!!」
「あいよ!!」

ヤナップの可愛さに魅了されたのか、駅員がヨシエにサイコソーダを注文した。
ヨシエは威勢よく返事をすればアイスボックスからサイコソーダを取り出した。
サイコソーダを渡せば、引き換えにお金が手渡される。

「ありがとうございました〜!」
「ヤナナップ〜!!」
「あら、ヤナップだわ。可愛いわね!」
「ナップ!」

駅員と入れ替わりでやってきた若い女の人。
慣れた手つきでヤナップに触っている。
ポケモントレーナーなのだろうか。
その女の人もサイコソーダを1つ買っていった。

今日はヤナップがいるおかげもあってか、少しだけお客さんの足の運びが多く感じるヒヨリだった。
朝から忙しくなりそうだ。


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