「疲れちゃったのかな?」
腕にヤナップを抱えながらヒヨリは微笑んだ。
ノボリのシャンデラ、クダリのシビルドンとずっと走り回っていた挙句、
ヨシエ達とのこともあり余程疲れたのかヤナップはヒヨリの腕ですやすやと眠っていた。
時々、ナァップ、と寝言が聞こえてくる。
「結構はしゃいでいましたしね」
ノボリはヒヨリの腕にいるヤナップの頭に手を伸ばす。
「ふふ、なんか子どもができたみたいで嬉しいな」
「子ども、ですか・・・。そうですね」
ヒヨリにつられてノボリも笑みを漏らした。
夕日を背に、2人と1匹はヒヨリの家に向かうのだった。
I love you
他愛のない話をしていれば、ヒヨリの家までたどり着いた。
ヒヨリはドアの前で足を止めれば、ノボリと向き合った。
「ノボリさん、いつも送ってくださってありがとうございます」
「いえいえ、ヒヨリ様に何かあっては困りますからね」
笑顔でそう言えば、ヒヨリは微かに顔を赤らめた。
ノボリは持っていたバスケットと袋をヒヨリに渡した。
―――あっという間、ですね。
本当はずっとヒヨリの傍にいたい。
ヒヨリと一緒に笑って朝を迎えたい。
それは日に日に増すノボリのヒヨリへの想いだった。
「ノボリさん、また明日。おやすみなさい・・・」
そう言うと、ヒヨリは鍵穴に鍵を差し込み、玄関のドアを開けた。
家へ入ろうと足を踏み入れたところでノボリはヒヨリを呼び止める。
「ヒヨリ様・・・!」
「どうかしました?」
家に入るのをやめ、ノボリへと視線を向けたヒヨリ。
ノボリは顔を赤くして、視線を下へ向けていた。
「わたくしは・・・あなたが・・・す、す・・・」
口籠って言えないノボリにヒヨリはだんだん表情が真剣なものに変わっていく。
ノボリがあと一歩で”すき”と言えるところだったのに。
「ナァップ!」
突然ヤナップが声を上げ、両手を上げた。
「「えぇ!?」」
2人してびくん、と身体を強張らせてヤナップを見れば、ヤナップはまたむにゃむにゃと夢の中へ旅立っていく。
「なんだ、寝言か・・・」
絶妙なタイミングに2人して笑ってしまった。
だが、ノボリは少し脱力してるようにも思えた。
「ノボリさん、今、私に何か言おうとしませんでした?」
「いえ、また今度で。では、また明日。おやすみなさいませ、ヒヨリ様」
そう言って、ヒヨリに言えば背中を向けた。
「おやすみなさい」
ヒヨリはそう言うと、ヤナップを抱いている腕を少しだけ強くした。
昨日と同じように、ノボリの背中を切なそうに見つめた。
―――ノボリさん、私はあなたの気持ちが知りたいです。
―――――――
あの後、ヤナップをベッドに寝かせた。
ヒヨリは夕食とお風呂を済ませると、自室へとやってきた。
あれからヤナップはまだ目を覚ましていない。
ベッドに腰掛け、そっとヤナップの頭を撫でた時だった。
「ナァップ?」
うっすらと目を開けたヤナップがヒヨリを見た。
「あ、起きた?はしゃいでたものね。私ももう寝るから。その前に、パジャマに着替えようか?」
ヤナップはまだ寝ぼけ眼でナァップと言えば、身体をそっと起こした。
ヒヨリは昼間に買ったパジャマの入った袋を開けた。
パジャマを取り出せば、優しくヤナップに着せてやる。
「できたっと。さ、おいで。ヤナップ」
ヒヨリがベッドへ入って、ヤナップに両手を差し出した。
その行動にヤナップは首を傾げた。
「一緒に寝ましょ?」
「ナップ!」
ヤナップは嬉しそうにヒヨリに飛びついた。
ヒヨリは受け止めると、ヤナップと一緒にベッドに横になった。
あっ、と思い出してヒヨリはヤナップに聞いた。
「そう言えばヤナップ、ご飯はいいの?」
「ヤナァァァァ」
欠伸をしてるあたり、今のヤナップは食欲より睡眠だろう。
ヒヨリはクスリと笑ってヤナップを抱きしめた。
「おやすみ、ヤナップ」
「ナップ!」
そう言って、2人は目を閉じた。
朝になれば、また忙しい1日が待っているだろう。
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