「さ、今日からここが君のおうちだよ」
「ナップ?」

ヤナップは家の扉を見て、首を傾げた。

「ヒヨリ様、わたくしは仕事がありますので・・・」
「あ、はい。いつも送っていただいてありがとうございます」

ヒヨリはノボリの小さくなっていく背中を見つめた。
無意識にヤナップを抱いている腕の力が強くなる。
ヤナップは驚いて、ヒヨリを見上げた。
ヒヨリの頬は微かに赤くなり、そのままヤナップに視線を向けて言った。

「ヤナップ、あのね。私、ノボリさんがすきなの」
「ナップ?」

ヤナップは”どういうこと?”とでも言うかのように首を傾げていた。
それに気づかずにヒヨリはさらに続ける。

「でもね、私、失恋しちゃってて彼にこの気持ち伝えるのが怖いの」
「ヤナァ・・・」
「どうしたらいいのかな?」

ヤナップの頭に顔を隠したヒヨリはさらにヤナップを抱く力を強くした。


I love you


「ただいまー」

赤い顔のまま家の中に入る。
廊下を渡ってリビングに入って、明かりをつけた。

「ヤナァ?」
「あ、ヤナップ」

腕からすり抜け、テーブルの上にあるバスケットを覗き込む。

「ナップ?」

そこには見覚えのある木の実が詰め込まれていた。

「ふふ、それはクッキーの材料だよ」
「ヤナナップ?」
「うん。ほら」

そう言うと、ヒヨリは作っておいたクッキーをヤナップに見せた。
クッキーを見ると、ヤナップはどこか懐かしそうな表情を浮かべ、物欲しそうに鳴いた。

「食べていいよ」
「ナップ!!」

ヒヨリがそう言えば、ヤナップは嬉しそうにクッキーを受け取る。
この間と同じようにクッキーにかじりつく。

「そうだ、少ししたらヤナップのご飯も買いに行かなくちゃね」
「ヤナァ!!」

クッキーを食べ終わると、ヤナップは両手を上げて嬉しそうに鳴いた。

「じゃぁ、今はこれで我慢して、くれるかな?」

ヤナップに見せたバスケットにはたくさんのクッキーが入っていた。
ヤナップは目を輝かせてクッキーを見つめれば、バスケットの中に手を突っ込んだ。

「ナップ、ナップ!」
「そんなにがっつかなくても・・・。あ、言わんこっちゃない」

いくつもいくつも口にクッキーをほうばるヤナップ。
ヒヨリは苦笑しながらその光景を見ていれば、クッキーが喉に詰まったのかヤナップが急に苦しみだした。
背中を叩いて、ジュースを渡せば、ヤナップはごくごくと飲んでいく。
ごくり、と喉に食べ物が通る音がすれば、ヤナップは嬉しそうに両手を上げた。

「ナップ!」
「さて、私も朝食にしようかな」

ヒヨリはキッチンに立つと、冷蔵庫から野菜と卵を取り出した。


―――――――


街の中心にある、大きなデパート。
そこのポケモンコーナーにヒヨリとヤナップはやってきた。
ヒヨリは家までの道をノボリと歩いている時、ノボリからポケモン専用のご飯があることを教えられた。
ヤナップのご飯はおそらく、ごく普通のポケモンフーズ。
これにヤナップ好みの味を加えれば良いというわけだ。
缶ケースに入ったポケモンフーズを見つけると、手に取った。

「あった。ヤナップ専用のポケモンフーズ」
「ナップ!」

ヒヨリの肩に乗っていたヤナップが嬉しそうに鳴いた。

「ふふ、今夜からこれがヤナップのご飯だよ」
「ヤナァ!」

ヒヨリがそう言えば、ヤナップはまた嬉しそうに鳴いた。
今夜が楽しみだ。
ヒヨリもヤナップはどんな味が好みなのか興味津々だったりする。
会計を済ませ、お店を回っていれば、一つの看板が目に入る。

「洋服・・・かぁ。ねえ、ヤナップ」
「ナプ?」
「ヤナップの洋服、見ていこうか」
「ヤナァ?」

首を傾げるヤナップをよそに、ヒヨリは洋服コーナーへと足を踏み入れた、
そこにはポケモンのためだけに作られた洋服がいくつも並んでいた。
ゴスロリ系からB系まで種類は豊富のようだ。
ヒヨリはあれもこれも手に取って、目を輝かせた。

「わぁ、かわいい!」
「ナ、ナップ・・・」

洋服のセンスにヤナップは顔をひきつらせた。
ヒヨリに半無理矢理試着室に入れられたヤナップは、ヒヨリの手によって色々と着せ替えられた。
最早、目の前でかわいい、と目を輝かせてるヒヨリの趣味と化していた。
ヤナップの頬がだんだん膨らんでいった。
しまいには、駄々をこねてしまう。

「あ、ごめん。あんまり気に入らなかったのかな?」
「ナップ・・・」

その言葉に強く頷くヤナップ。
ヒヨリはしぶしぶヤナップに着せていた洋服を脱がし、試着した服をすべて店員に渡した。

「ごめんなさい、この子、気に入らなかったみたいで」
「いいえ、まだ店内をご覧になられますか?」

未だにぶすっとしてるヤナップを横目で見て、苦笑する。

「じゃあ、もう少しだけ・・・」

歩いてみれば、寝具のコーナーがあった。
パジャマがヒヨリの目に止まった。
寒くはないが身体を冷やしては身体に良くないと考えたヒヨリは一つ手に取ってヤナップに言うのだった。

「パジャマ・・・かぁ。ヤナップ、寝てる時に身体を冷やしたら良くないから、パジャマだけでも買っていこうよ」
「ナップ・・・!」

ヒヨリが持っていたパジャマを見ると、さっきとは違う反応が返ってきた。

「え、ヤナップ!?」
「ヤナヤナァ!」
「え、これがいいの?」

うん、うん、と大きく頷いたヤナップ。
どうやら自分好みの服が見つかったようだ。

「じゃぁ、試着してみようか」
「ナップ!」

ヤナップは嬉しそうに試着室に入ると、先ほどのパジャマを身に纏った。
目を輝かせてくるくるとその場で1回転しては、嬉しそうに鳴いた。
よほど気に入ったのだろうか。

「良く似合うじゃない!」
「ナップ!」
「じゃぁ、これにする?」
「ナップナップ!」

これが良い、とヤナップはヒヨリに言っているかのようだ。
ヤナップの頭を同じ、緑のモチーフのシンプルなパジャマ。
どうやらこのヤナップはシンプルなものが好きなようだ。
ヒヨリはヤナップから1度パジャマを脱がし、会計へと向かった。

「良いの見つかりましたか?」
「ええ。この子、これがすっごく気に入ったみたいで。これ、下さい」
「かしこまりました」


お金を払い、パジャマの入った袋を受け取る。
寝るのも楽しみになったヤナップはヒヨリの肩でまた鳴くのだった。
ヒヨリも自然と頬が緩む。

「そうだ、後でノボリさんとクダリさんのところに行ってみようか」
「ナップ!」

ヤナップは買い物ですっかり上機嫌になり、ヒヨリもヤナップの笑顔を見て来てよかったなと思うのだった。


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