病室に来れば、ヤナップはすやすやと寝息を立てていた。

「ヤナップ・・・」

ヒヨリはそっとヤナップの頬に手を伸ばした。



―――ずっと、一人だったんだよね、寂しかったよね。



脳裏にヤナップが寂しそうに仲間を待っている姿が浮かんだ。
自分も元彼にフラれた時は一人だった。
でも、ノボリに出会い、クダリに出会い、ヨシエに出会ってヒヨリはもう一人ではなくなった。
そして、ユウコに出会って、自分の気持ちに気が付いた。
それに、自分には辛い時に話を聞いてくれる優しい友人もいる。
それに比べて目の前で安らかに眠るヤナップにはそういう仲間がいない。



―――君は、私と出会ったとき、どんな気持ちだったのかな?



「ノボリさん・・・」
「どうしました?」
「私、ここにいてあげたい。目が覚めた時、この子が寂しくならないように傍にいてあげたい・・・。だめ・・・ですか?」
「いいでしょう。明日はお仕事もお休みですし」
「ありがとうございます・・・!」

それから私はずっとヤナップの傍にいた。
起きた時、寂しくならないように。
座ってヤナップが目覚めるのを待っていたけれど、気が付いたら私も寝てたみたいで。
目が覚めたら、病室には朝の陽射しが差し込んでいた。

「ヤナップ・・・」

そっと額に手を置いてやる。

「ナップ・・・」

ゆっくりとヤナップの目が開かれた。

「ヤナップ・・・!」
「ナップ?」

不思議な眼差しでヒヨリの顔を見るヤナップ。

「覚えてる?ペンドラーってポケモンに毒針で刺されて倒れちゃったの」

ヒヨリが言えば、ヤナップははっとした様子で思い出した。
ヒヨリはヤナップの頬に口づけを落とす。

「ナップ!?」

ヤナップは驚いて、キスされた頬を触った。
顔がほのかに赤い。

「私のこと、守ってくれてありがとう。ヤナップ」

ヒヨリは目を細めてヤナップにお礼を言った。
ヤナップも嬉しそうにヒヨリに微笑んだ。
勢いで立ち上がれば、背中に痛みが走ったようで顔をしかめた。

「ナッププ・・・」
「まだ寝てないとだめじゃない・・・」

ヤナップをベッドに寝かせ、毛布をかけてやる。
すると、ジョーイが部屋へやってきた。

「あら、ヤナップは目が覚めたみたいね」
「はい」
「ナップ!」

そう言うと、ヤナップはまた布団から立ち上がった。
背中に痛みが走り、辛そうな表情を浮かべる。

「あ、また・・・」

ヒヨリは苦笑して、ヤナップの身体を支えてやった。

「ナップ・・・」
「おや、元気になられたのですか?」
「良かったね、ヤナップ」

部屋のドアが開き、声がする方へ向けば、ノボリとクダリだった。

「ノボリさん、クダリさん・・・」
「でも、まだ完全に元気になった訳ではないみたいですよ」
「ナップ?」
「このまま野生に帰すのはちょっと心配ですね・・・」

困ったように言うジョーイにヒヨリは遠慮がちに声をかける。

「あの。私がヤナップの面倒を見ます!」
「ヒヨリ様・・・!」
「ヒヨリちゃん?」

ヒヨリの言葉にノボリとクダリも目を丸くさせた。

「こうなったのも、私のせいですし・・・」

ヒヨリがそう言えば、ジョーイはにっこり笑った。

「わかりました。この子はあなたにお任せします!定期的に検査に来てくださいね」
「はい!ありがとうございます!!」

そう言うと、ヒヨリはヤナップに向き合った。

「ヤナップ、これからよろしくね!」
「ナップ!」

ヤナップは嬉しそうに両手を上げて喜ぶのだった。



I love you
(ヒヨリとヤナップの心には絆が芽生え始めていた)





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