チン、とレンジの音がキッチンに響く。
クッキーが焼けた証だ。
ヒヨリはレンジから焼きたてのクッキーを取り出した。
ふと、この間森で出会ったヤナップを思い出した。


―――また、会えるかな?


ヒヨリはラッピング袋を2つ取り出すと、クッキーを包装していくのだった。


I love you


昼休憩を利用して、ヒヨリはライモンシティの外れの森までやってきた。
手に持っている小さなバスケットの中には、昨日焼いたクッキーが入っていた。


―――クッキー、気に入ってくれるといいな。


会えるかわからないけど。
気に入ってもらえるかわからないけど。
ノボリとクダリにヤナップというポケモンのことを聞いて、
ヒヨリはもっとヤナップと仲良くなりたい、そう心から思った。

この間ヤナップと出会った場所までたどり着いたヒヨリ。
辺りを見渡せば、見覚えある尻尾が顔を出していた。
ヒヨリは頬が緩くなるのを感じると、そっと尻尾の方へ近づいた。

「こんにちわ」
「ナップ!?」

ヤナップは驚いてヒヨリの方を見た。

「この間のヒヨリだよ。覚えてるかな・・・?」
「ヤナァ?」

首を傾げるヤナップにヒヨリはバスケットからオレンの実を出してヤナップの前へ持ってきた。
一瞬目を見開いたヤナップだったが、すぐに思い出したようで大きく頷いた。
オレンの実をそのまま渡せば、また嬉しそうにかじりついた。

「思い出してくれて嬉しいよ。あ、そうだ」

ヒヨリはバスケットからクッキーを取り出した。
その光景を見て、ヤナップはまた首を傾げた。

「これ、あなたの口に合うかわからないけど・・・」
「ヤナァ?」
「クッキー、作ったの。食べてみる?」
「ナップ!」

ヤナップは”食べる!”とでも言うかのように鳴いた。
ヒヨリは包みを開けると、クッキーを一つヤナップへ差し出した。

「ふふ、どうぞ」
「ナップ!」

クッキーを一つ受け取ると、ヤナップはその匂いを嗅いだ。
一口かじれば、クッキーの甘みが口全体に広がった。
ヤナップはその美味しさに一瞬固まった。

「ど、どうしたの・・・?」
「・・・」


―――まさか、口に合わなかったのかな?


ヒヨリが冷や汗でそんなことを考えていると、ヤナップが突如嬉しそうに飛び上がった。

「ナァップ!!」
「え?え?」

飛び跳ねながら呆然としてるヒヨリの周りを走るヤナップ。
その表情はにこやかだった。

「おいしかった、ってこと?」
「ナップ!」

ヤナップは嬉しそうに頷くと、両手をヒヨリに差し出した。

「ふふ。もっとくれって言ってるのかな?」

ヒヨリがクッキーの袋に手を伸ばした時だった。
突然、草の茂みから何かが飛び出してきた。

「ペンドラー!!」
「え?」

その影がヒヨリめがけて飛びかかってくる。
振り返れば、身体が紫色の胴体が大きい角の生えたポケモンだった。

「ナッププププ!!!」

ヒヨリに襲いかかろうとしてるのに気が付いたヤナップはタネマシンガンを繰り出した。
タネマシンガンがヒットし、標的はヒヨリからヤナップへと移った。

「ドラァァァ!」
「ヤップゥゥ!!」

ヤナップはペンドラ―の繰り出したどくばりを直に受け、角で木の幹に押し付けられた。

「ヤナップ!」
「ヤナァァァァ」

ヒヨリがヤナップの名前を叫ぶ。
さいわいにも両手が自由だったヤナップは、めざめるパワーを繰り出した。
辺りが爆発し、ペンドラーは驚いて逃げてしまう。
煙が消えた頃には、青ざめた顔をして倒れているヤナップの姿があった。

「ヤナップ・・・」

ヒヨリはそっとヤナップを抱き上げると、無我夢中で走った。
走り去った場所には、クッキーの包みが口を開けて落ちていた。


―――――――


地下鉄中央駅。
そろそろお昼休憩が終わろうとしていた頃だった。
突如、事務室のドアが勢いよく開いた。

「ノボリさん!クダリさん!」
「ヒヨリ様・・・?」
「どうしたの?」

明らかにヒヨリの様子がおかしい。

「ど、どど・・どうしよう・・・!」

そう言って、腕に抱いていたヤナップを2人に見せた。

「このヤナップは・・・」
「この間言ってたヤナップ?」
「紫色の角の大きいポケモンの針みたいな技をまともに受けて、動かなくなっちゃったの!」

今にも泣きそうな顔で訴えたヒヨリ。
ノボリとクダリは驚いて顔を合わせた。

「まさか、ノボリ兄さん」
「とにかく、ポケモンセンターへ連れて行きましょう。クダリ、少しの間任せましたよ」
「了解」

そう言うとノボリはヒヨリを連れてポケモンセンターへ向かって走るのだった。


―――お願い、死なないで・・・。


ヒヨリはきゅっとヤナップを抱く腕を強くすると、涙を零しながら走るのだった。


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