霞柱及び恋柱、そして竈門炭治郎が滞在していた刀鍛冶の里に上弦の鬼が出没し、無事に討伐されたという知らせは鬼殺隊中を震撼させた。 またしても上弦が現れたこと、日輪刀の力で鬼を斬る鬼殺隊にとって本部の次に重要な施設が襲われたこと、そしてそれ以上に皆を驚かせたのは上弦を討ち果たした竈門隊士の妹禰豆子が『太陽を克服した』という事実である。 竈門禰豆子は鬼舞辻無惨によって鬼にされてしまった哀れな少女だ。 しかし兄の炭治郎を助け、人を襲わず鬼殺隊と共に戦うという稀有な存在としてその名を馳せていた。 だがその禰豆子が陽の光を克服したとなれば、史上初めて『太陽を恐れる必要のない鬼』が生まれたということになる。 それはまさに、日中は惨めたらしく息を潜めている無惨にとって何としてでも手に入れたい存在であった。 それと同時に鬼殺隊にとっては絶対に鬼舞辻に奪われてはいけないものとなり、一千年続いた鬼と人との戦いの歴史が大きな転機を迎えたことを示す証となった。 それが事実であることを証明するように、その日を境に鬼の出没はぱったりと止まったのだ。 暁に鳴く 拾玖 「お世話になりました」 肩に三統彦を止まらせたナマエが深々と頭を下げる。 向かい合った義勇の肩にも寛三郎が舞い降りてきて、カァカァと声を上げた。 「マタ遊ビニクルンジャゾ。ナマエ、三統彦」 「元々遊ビニキテタ訳ジャネェゾ爺サン……」 鴉たちのやり取りを微笑ましく思いながら、頭を上げたナマエは義勇を見上げる。 濃紺の瞳からは相変わらず感情が読み取れない。 だが、口を開いた義勇の声音は柔らかかった。 「色々と助かった」 「これからも、何か困ったことがあれば遠慮なく呼んでくださいね」 「……無いように努力する」 塀を登って家に入ろうとするようなことなど金輪際しないよう義勇は胸に固く誓っている。 せめてもの詫びにと送った髪留めは、今もナマエの頭に輝いていた。 「では、失礼します」 ナマエはもう一度頭を下げると振り向いて歩き始める。 その背中が見えなくなるまで、義勇と寛三郎は門の前で彼女たちを見送った。 こうして、短かった夜間の同居生活は鬼の出没が止まったことにより静かに幕を下ろす。 産屋敷家はこれを機に鬼殺隊全体の戦力を磨き、来る決戦の日に備えることを全隊士に通達していた。 ナマエも鬼の襲来に怯えることが無くなり、より一層鎹鴉の訓練に力を入れるため鴉の集会場へ戻ることとなったのだ。 自室へと戻る途中、義勇は台所の前で立ち止まる。 食卓の上にあるのは漆塗りの大きな二段の箱で、中身は一段ずつ今日の義勇の昼食と夕食だった。 最後だからとナマエが用意してくれたものだが、義勇はぽつんと置かれたその重箱を見つめて考える。 限定的な時間ではあったものの、彼は今回育手の元を離れてから初めて他人と一つ屋根の下で暮らした。 少し前までの自分なら異議を申し立てたかもしれないと、義勇は彼女が朝食後に洗い、乾かしてある食器類を見ながら思う。 或いは他の隊士であったなら──と、そこまで考えてた義勇は頭を横に振った。 考えても仕方のないことだ、また自分と寛三郎だけの静かな生活に戻っただけなのだからと。 台所から離れ、廊下の突き当たりにある部屋へと入る。 襖を開けた義勇の目に映るのは桐箪笥と文机以外何もないがらんとした部屋だ。 俺が片付ける必要も無かったかと思い、義勇はその場を去ろうとする。 中庭から吹いてきた風が彼の頬を撫で、彼の束ねた後ろ髪を靡かせた。 「ミョウジのような風だ」 義勇は目を瞑り、心地の良い舞風の余韻を噛み締める。 この風がそよいでいる間だけは、不思議と後ろ向きな気持ちになることは無かった。 『柱稽古』と名付けられたそれは、文字通り鬼殺隊最高位の剣士である柱たちから直々に指導を受けられる稽古のことである。 隊士は柱の用意した稽古場に向かい、認められるようになるまで毎日修行に励むのだ。 修行の項目は柱によって違い、その一つ一つが剣士としての実力を大きく底上げするものであった。 しかしどれもが血反吐を吐くほど壮絶な内容だったので、全く次に進めない者やら脱落する者も多かった。 ナマエは鎹鴉の訓練に力を入れるため、柱稽古については一部を免除されている。 とはいえ鬼殺の剣士であることには変わらないので、時間が許す限り柱稽古にも顔を出した。 その日の夜は、もう鴉たちの相手をすることもできないくらい疲弊してしまうのだが。 そんな日々を過ごしつつ、今日も朝からナマエは鴉たちの訓練に取り掛かっていた。 歴の長いの鴉も若手の鴉も皆、鬼殺隊士たちと同じように飛行速度や持久力を上げるための鍛錬を行なっている。 それは年嵩の鴉も例外ではなく、鴉自身が希望する場合を覗いて皆等しくこの場に集まるのだ。 「寛三郎、無理しなくても良いからね」 中でも寛三郎は高齢なので、ナマエだけではなく他の鴉たちからも心配されている。 しかし寛三郎自身が訓練を受けたいと譲らなかったので、ナマエは彼を気遣いながら訓練をさせることに決めていた。 「ワシハ、問題ナイゾォ……」 辛くも体に重りをつけた飛行訓練を終え、寛三郎は乱れた呼吸を整えている。 そこへやってきたナマエは寛三郎の背中を撫でてやりながら、やはり無理はさせられないかもしれないと考えていた。 「冨岡さんを側で支えてさしあげるのが、お前の一番の役目だよ」 義勇からは寛三郎が望む限り鎹鴉として側に置いてやりたいと言われているので、無理をして怪我するくらいなら訓練を受けなくても良いとナマエは最初に告げていた。 しかし寛三郎は出来る限りのことをすると良い、若い鴉たちに混ざって訓練を受けるという道を選んだのだ。 そんな寛三郎がナマエにつぶらな瞳を向ける。いつもは穏やかなはずのそこには、縋るような想いが込められていた。 「義勇ガ心配ナンジャ」 「何かあったの……?」 ナマエの寛三郎を撫でる手が思わず止まる。 寛三郎の悲痛な眼差しもその言葉も、彼女の気持ちを揺さぶるのに十分だった。 寛三郎が語った内容はナマエを驚かせ、同時に悲しい気持ちにさせた。 水柱が柱稽古に参加していないことはナマエも気になってはいたが、蟲柱の稽古も行われていないので何か事情があるのだろうとだけ思っていた。 しかし寛三郎が言うには、義勇は自分に柱稽古をする資格はないと言い自邸に引きこもっているらしい。 今まで通り自らの鍛錬はしているものの、志ある隊士たちからの要望に対しても自分は柱では無いからの一点張りらしい。 「義勇ニハ、安ラギガ必要ナンジャヨ」 寛三郎はナマエの膝に乗り、動揺を隠せないでいる訓練士の顔を見上げる。 「遊ビニ来テクレト頼ンダジャロウ?ワシハズット待ッテイルンジャガナァ」 「寛三郎……。でも、そんな冨岡さんに私が何を言っても無駄なんじゃないかな」 好意を寄せる相手に拒絶されることは恐ろしい。 ナマエは義勇の過去に何があったかは聞いていたので、それが彼自身の心に重くのしかかっているのだろうということは想像に難くなかった。 なので自分がその重荷を解いてやれる自信など無く、彼が他人に踏み込まれたくないと思っているであろう部分に触れる勇気もない。 だが、それでも寛三郎はナマエを見つめ続けてくる。 普段はとぼけた雰囲気すらある老いた鴉の真剣な眼差しに、ナマエは無下に断ることもできず狼狽えた。 するとそこへ、バサバサと音がして一羽の鎹鴉が舞い降りてくる。 その首には、鴉にしては珍しく襟巻きが巻かれていた。 あくる日、ナマエは竹林沿いの小径を歩いている。 『彼』が柱稽古をやらない限りしばらくここに来ることもないだろうと思っていたのに、あまり日が開かないうちに再訪することになったのはナマエにとって意外なことだった。 間も無く見えてきたのはすっかり見慣れた屋敷の門。 閉ざされた門の前でうっかり袂に手を入れたナマエは、少し前までそこにあったはずの鍵はもう返してしまったのだと思い出す。 しかし彼女は戸を叩いてから、さて何と言ったものかと悩むのだった。 ごめんくださいと言い名乗りはしたが、案の定義勇からの返事はなくナマエは溜め息を溢す。 三統彦が事前に彼の在宅は確認してきてくれていたので、恥を承知でナマエができる事はただ一つ。 怒られて追い出されるかもしれないが こちらにも理由はあるのだと心の中で言い訳をして、ナマエは辺りを確認してから塀に手をかけた。 何かが落ちるような音が庭から聞こえてきたので、義勇は一度そちらに目を遣る。 つい先ほど来訪を告げる声が聞こえてきたのは無かったことにしたはずだ。 どうせ猫か狸でも迷い込んできたのだろうと決め込んで、義勇は再び膝の上に置いた握り拳に視線を戻した。 彼はこの頃剣を振るうか身体を鍛えているときを除き、自邸の道場にて正座し黙しているばかりだ。 それでも今日はあの竈門炭治郎が訪ねてきて久々に人と会話した義勇であるが、稽古をつけてほしいと言う炭治郎をあしらったのは一刻ほど前のことだった。 炭治郎は産屋敷耀哉からの命を受けて義勇の元へ訪ねてきたのだが、とりつく島もない義勇の態度に今日のところは一度帰ることにしたのだ。 そんなことがあって、義勇はようやく再び静寂が訪れた道場に戻ってきたところだった。 精神統一といえば聞こえは良いが、碌に食事も取らずこうして座って微動だにしない彼のことを傍らに控える寛三郎はずっと心配していた。 だからこそ、訪れた気配は寛三郎にとって一筋の希望である。 「ごめんください」 縁側から聞こえてきた声に、義勇の拳が僅かに揺れた。 猫や狸なわけがない。そうであったら、気にする必要も無かったのに。 「すみません、お邪魔します」 なぜ今日は立て続けに来客があるのか。 しかも、どちらとも家主の反応を無視して上り込んでくるのだから堪らない。 義勇は眉間に皺を寄せた。 最初に外からかけられた声が誰のものかは分かっていたが、まさか彼女が塀を乗り越えてくるなどと思わなかったからだ。 過去に自分も同じ手段で帰宅したことはあったが、あれは酒に酔ってのことだった。 しらふである彼女がわざわざ塀を登ってくるなんて、一体どんな酔狂だというのだ。 そう思って義勇は目を伏せた。今はとにかく一人になりたい。 彼女にも会いたくはなかったと、心の中で呟きながら。 「冨岡さん?」 炭治郎がしたのと同じように、ナマエが道場の入り口から顔を覗かせる。 寛三郎にはいつかナマエに話してみると良いと言われたものの、今の気持ちを上手く言葉にする自信も無ければ、そもそも彼女という他人に心の内を明かすことは義勇にとって困難なことだった。 何を話したら良いか、どんな顔をしたら良いかも分からない義勇は目を伏せたままだ。 ナマエはゆっくり道場の中へ入ってくると、義勇から数歩離れた場所で止まる。 「お久しぶりです。鍵はお返ししてしまったので塀を越えてきてしまいました」 ナマエはそう言って笑みを溢した。 寛三郎から今の義勇の状態は聞いていたので、彼の反応は予想済みだ。 焦らず、少しでも義勇の状態を確認できれば良いとだけ考えてやってきていた。 何故なら、この来訪自体が産屋敷耀哉からの命であったからだ。 ナマエの元に産屋敷家からの文が届けられたのは、寛三郎が彼女の元を訪ねてきた時のことだ。 耀哉の鎹鴉自らが運んできたその手紙には、炭治郎が義勇の元へ尋ねるだろうから彼らの手助けをしてほしいという旨が綴られていた。 更に詳しく言えば、炭治郎は素直な子供であるから義勇の心が前向きになれるきっかけを与えるだろうという前提の元、真っ直ぐすぎる炭治郎の全力に義勇が困惑することが予想されるので気にかけてやってほしいというのが耀哉からの頼みである。 産屋敷家直々の命とあればナマエには拒む理由もなく、その指示通り炭治郎が収穫無く帰ったであろう頃合いを見計らって訪れてきたという経緯だった。 ナマエは俯いたままの義勇を見下ろし、彼の一歩前まで歩み寄る。 それから腰を屈めて義勇と目線の高さを同じくした。 彼の表情は、前髪に隠されてしまって見えない。 「ご飯、作っていっても良いですか?」 義勇の指先が僅かに揺れた。しかし彼は黙したままだ。 「あまり食事を取られていないと寛三郎から聞きましたので」 そう言ってナマエはすぐに立ち上がる。 「あと、お布団干しておきますね!ふかふかにしておきます」 「……要らない」 「かびが生えますよ?」 流石の義勇も、それでも良いとは即答できなかった。 かびだらけの布団に寝るのは御免被りたいが、正直なところ今は自分で布団を干す気にもなれなかったから。 柱稽古について話し合った緊急柱合会議の日からずっと、何をするにも義勇の気持ちは塞ぎ込んだままだった。 「ではお台所と中庭の物干しをお借りします。終わったらすぐに帰るので安心してください」 それだけ言うと彼女は道場から出て行った。異を唱える暇も与えられず、義勇はただ彼女の後ろ姿を見送ることしかできない。 ナマエの髪には、今日も菫青石が光っていた。 どんな時でも生きていれば腹は減る。 夕刻になり、義勇はほぼ無意識のうちに台所へと向かっていた。 今夜は見回りの任務は自分の担当ではない。 以前よりも非番の日が多くなったのは鬼が出なくなったからで、だからこそ柱や隊士たちはみな痣を出すための鍛錬を行なっているのだ。 義勇だけは、別であったが。 「握り飯か」 義勇が食卓のお櫃を開けると、中には混ぜご飯の握り飯が三つ並んでいる。 次に小鍋の蓋を開けてみれば中からは味噌と出汁の香ばしい匂いが漂ってきた。 もしかしたら義勇が手をつけないと思ったのだろうか、ナマエは他の惣菜類は作っていかなかったようだ。 義勇は無言のまま食卓を見つめてから、やがて鍋を火にかける。 ふわりと立ち昇る湯気とともに、何でもないと思っていた日々の出来事が頭に甦ってきた。 そしてそのどれもに、彼女が佇んでいる。 「……何故だ」 義勇には分からなかった。 どうして今彼女を思い出したのか。 確かに目の前にあるのはナマエが置いていった物であるが、そんな浅い意味で彼女の姿を思い出しているわけではなかった。 「ミョウジとは、もう何も無い」 今までだってただ夜の間部屋を一つ貸していただけだ。 見返りというには過大すぎる奉公を受け、その利便性に慣れてしまったのだろう自分が恥ずかしかった。 ナマエは義勇が侘びと礼を兼ねて送った髪留めを気に入り使っているようだったが、いざ彼女が去ってみればそんな物では釣り合わないほどの快適さを提供されていたのだと彼は気づく。 彼女を例えるならやはり『舞風』だ。 心地良く隙間をひゅるりと吹き抜けていく風。 それを掴むことは困難であるが、求めればどこからともなく吹き込んでくる。 義勇はそこまで考えて、小鍋の中身が吹きこぼれそうになっているのを見つけ慌てて火を止めた。 彼が見事に煮えたってしまった味噌汁を覗き込むと、表面に薄らと自分の顔が映り込んでいる。 揺らめくその表情には、困惑の色が見え隠れしていた。 「……分からない」 義勇にはどうしたら良いのか分からなかった。一人でいると自然とミョウジナマエのことが頭に思い浮かんでは消えていく。 だがそれを繰り返してしまう意味も、その理由も言葉にすることができなかった。 「錆兎、蔦子姉さん……。俺には分からないことだらけなんだ」 こんな時彼らならどう答えてくれたのだろう。 たった二人、本当ならこの心の内を打ち明けられるはずだった存在を思い描こうとする義勇の胸の奥に鈍い痛みが走った。 緊急柱合会議の後も、炭治郎が訪れてきた後も、そして今も。 義勇が悩み、塞ぎこんだ時に縋りたい相手は、もうこの世にいない。 ──錆兎がいれば、水柱の柱稽古は素晴らしいものになっただろう。 義勇は拳を握りしめた。 沸いていたはずの食欲は消え去り、温めすぎたはずの味噌汁はすっかり湯気を失っている。 本来なら自分ではなく『本当の』水柱になっていたはずの友を思えば、胸が苦しくてたまらなくなった。 錆兎が生きていれば。錆兎が柱になっていれば。 鬼殺隊に与える影響もさることながら、義勇が考えているのはとある隊士のことだった。 あの時死んだのが自分で、今ここにいるのが錆兎だったなら。 ミョウジナマエはきっと寛三郎を通じて錆兎と懇意になっていただろう。 そして錆兎の側で、もっと沢山心から笑っていたのだろうと。 あくまで義勇の想像の中ではあったが、肩を並べた錆兎とナマエの背中は遥か遠く、手を伸ばしても決して届かないほどの隔たりを感じる。 圧倒的な強さと周囲を引っ張っていく頼もしさを持つ錆兎なら、彼女の心遣いを拒むような真似はしないだろう。 反対に自分は応えることができなかったと、先程の来訪を思い返して義勇は目を瞑った。 ナマエは寛三郎から話を聞いて来たと言っていたが、門前払いされても怒ることなく塀を乗り越えて中へ入って来たのには驚かされるばかりだった。 彼女にどんな顔を見せたら良いのか分からず碌な反応も示さなかった自分にこうして食事を用意し、おろそかにしていた家事をして帰って行ったナマエ。 義勇はそんな彼女の優しさに応えられない自分を嫌悪し、錆兎ならばと思うばかりだった。 ふと彼の脳裏に蘇ったのは、いつの日か団子屋で見かけた伊黒小芭内と甘露寺蜜璃の姿だ。 仲睦まじく肩を寄せ合い笑い合う彼らの姿が、ミョウジと大人になった錆兎に重なった。 錆兎は言わずもがなナマエも義勇にとっては信頼できる相手である。 似合いの二人だと思うと同時に、またしても得体の知れない苦しさが彼を襲う。 「……やめよう」 義勇は冷めてしまった味噌汁を椀に注いだ。 食欲は戻ってこなかったが、食物を粗末にするわけにはいかないと自分に言い聞かせる。 本来は錆兎が食べるべき食事で、代わりに自分は黄泉から見守るべきなのだと心の中で呟きながら。 まるで外界と彼を遮断するかのように、台所の窓も襖も締め切られていた。 彼の頬を撫でてくれる風も、今は吹いていない。 [back] ×
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