仕方ねえな、ほんと。



「あーあーまたこんなに飲んでよ」
「ごーめーんーって、へへ〜」
 へらりと笑う彼女からは甘ったるい香り。近づくとこっちまで酔ってしまいそうだ。迎えに来てよかったと、口には出さないが内心胸を撫で下ろした。
「一体何をどれだけ飲んだんだよ」
「えー? 駆けつけにテキーラ二杯だけ!」
「駆けつけってレベルじゃねーだろ!」
「ああでもそのあとビールも飲んだかも?」
「はいはい。そうだよなお前テキーラ二杯じゃそんなにならないもんな」
 記憶が曖昧らしく、それでも無駄に思い出そうとして頭を捻る姿が可笑しい。毎度仕方がない奴だと思いつつも、付き合いもあるだろうし彼女が悪いわけでもないことも理解しているから。
「ほら、とりあえず帰るぞ」
 ふわふわと宙を彷徨う手を取ると、繋いだそれと俺の顔を見比べて、彼女がふにゃりと顔を緩めた。
「さーびとってば優しい〜」
「変な呼び方するなよな。良いから行くぞ」
「へへ〜、やっぱり錆兎が好き」
「はいはい」
「えー冷たい!」
「俺は優しいんじゃなかったのかよ。ほら、転ぶぞ前見ろって!」
 こういう軽口の応酬も嫌いじゃない。家に帰るまで、せいぜい十分そこそこの攻防だ。
 まだ冷たさの残る春先の夜風がひゅるりと抜けていった。クローゼットから引っ張り出してきたばかりのトレンチコートでは、この時間になるとまだ少し寒い。
 温かい手を離さないように、ぎゅっと握りしめた。
「俺も好きだよ」
 そう呟くと、握り返される力も強くなる。歩み方は変わらないのに突然無言になるものだから、妙に気恥ずかしくなって振り向けなくなってしまった。
「……ありがと、錆兎」
 数歩行ってから背中にかけられた言葉。柄にもなく顔が熱くなってしまったのはきっと、さっきよりも俺たちの距離が近いからに違いない。

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