笹舟に託した手紙



勝手な俺を赦してほしい。

お前はきっと、呆れたように笑ってこう言うのだろう。
仕方ないひとね、と。
そしてきっと、また俺の居ない場所で泣くのだろう。

お前はいつだってそうだった。
俺の枷になりたくないからと、一度だって任務に赴く俺に縋り付いたことなど無かったな。
それが誇らしくて頼もしくて、お前とならこの先も歩いていけると思っていた。

恥ずかしい話だが、母上という拠り所を無くし父上からは興味を持っていただけなかった俺にとって、
親の様に俺を頼ってくれる千寿郎と俺に花のような笑顔を向けてくれるお前がいなければ、とっくにこの心は折れていただろう。

お前が俺の名を呼んで、俺の顔を見上げて、俺がお前の名を呼ぶ度に頬を赤らめて微笑むのが堪らなく好きだった。
愛おしかった。
誰よりも、家族とは違った意味で愛していた。
炎柱として誇りを忘れずに戦い抜けたのも、お前がいつだって待っていてくれたからだ。

母上には叱られるだろうか。
愛する女を泣かせてしまう俺を。俺にはもう、お前を笑顔にさせてやることなど出来ないのだから。
だが……俺が命を賭けて、この命を燃やして守りたかった若い芽たちがきっと近い内に鬼をこの世から葬り去るだろう。
そうしたら、きっとお前も笑顔になってくれるだろうな。
だから俺はあの少年たちに後を託すことにした。
お前が、弟が、俺の愛する者たちが笑って過ごせる世の為に。

願わくば幸せな人生を。
もしいつか、お前を護り幸せにできる男が現れたならーー

すまない。
これだけはまだ、考えられないようだ。
俺もまだまだ修行が足らんな。
よもや、よもやだ。

では、達者でな。
黄泉の国の淵から、いつでもお前のことを想っている。

煉獄 杏寿郎



届ける術の無い手紙をしたためて、川のほとりに立つ。
向こう側に渡る手立ては無い。俺はたった今こちらへ辿り着いたばかりだが、あちらへ還ることは断じて許されていない。

川辺に生えている笹の葉をひとひら手折って舟を編む。
そこに折り畳んだ手紙を乗せて、そっと放流した。

どうか彼女の元に届けてほしい。
別れの言葉も告げられず、ただいつも通り任務に赴くと伝えたまま永遠の別れとなってしまった、たった一人の愛しいひとに。

文句は、いつか必ずこの場所で聞くから。

back
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -