8-4


 待ち合わせの時間にはまだ少しあるけれど、生真面目なあのお方のことだからそろそろ着いているに違いない。
 今日の作業を早めに切り上げた私は足早にエッジの大通りを歩く。ゴツゴツした石畳の道では、手に持った麻袋の中身がカチャカチャと音を立てた。

 二年前よりはだいぶ街らしくなってきたこの辺りも、一つ路地に入ると星痕症候群に冒された孤児たちが膝を抱えて、虚ろな目で空を見上げていたりする。物乞いをする気力さえ失った彼らにはボランティアの一部が声かけをしたりしているものの、根本を解決しない限り付け焼き刃なことは誰にだって分っていた。そういう現場を目にすればするほど、何もできないのにただただ私たちは焦ってしまう。
 
 今はタークスたちがジェノバの捜索を続けているから、彼らを信じるしかないのだけど。きっと、みんなならやってくれる。ツォンさん達現役タークスだけでなくシスネを始めとした元タークスだって頑張ってくれているのだから。

 角を曲がったところですれ違った人を見て、私は思わず振り返ってしまった。
 さらさらと風になびく金色の髪とすらりとした体躯。いくら彼のことが好きだからって、似ている人に振り向いてしまうなんてちょっと恥ずかしい。
 横縞の靴下を履いた女の子と肩を並べたその青年は、ポケットに手を突っ込んでやる気無く歩いている。

 世の中に似ている人は三人いるというけれど、その中の一人なんじゃないかと思うくらいにはあの男の子の髪と眉、そして背格好はルーファウスにそっくりだったように思う。もしかして、彼のことを思いすぎて見えてしまった幻覚? なんてね。そう思うくらい−−そしてルーファウスよりも先代を思い起こさせる顔の輪郭も相まって、私はボムの描かれたジャケットを着た背中をしばらく見送っていた。
 今日は、早く帰ろう。


 待ち合わせ先は相手の指定だったけれど、私にとっては少し抵抗のある場所だった。でも、これもいい機会なのかもしれない。エッジに出入りする限り、避けてばかりではいられないから。きっと彼はそれをお見通しで、私をここに呼び出したのだろう。

「えっと……あ、いた」

 やはり先に来ていたらしい待ち合わせ相手は、一番奥のテーブル席で優雅にコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる。カウンター席の向こう側では、私が会いたかった――大分背も伸びて、短かった髪はポニーテールに結われている――少女と、あまり会いたくなかった店主が和気藹々と喋りながら洗い物をしていた。

「いらっしゃいませ! あーっ、ナマエお姉ちゃん!」

 入口に立ったままの私に気づいた少女――マリンちゃんが笑顔で手を振ってくれる。幼児らしい丸みを帯びた顔のラインはいくらかほっそりとして、誰が見ても美少女に成長したマリンちゃんは、カウンターからフロアに出てくると私をリーブさんの席まで案内してくれた。

「久しぶりだね。リーブさんからお姉ちゃんが元気にしてるって聞いて会いたかったよ」
「マリンちゃんはすっかりお姉さんになったね。元気そうで安心したよ。お店、手伝って偉いね」
「ティファの飲み物も料理も美味しいからね、ナマエお姉ちゃんもくつろいでいってね!」
「ふふ、ありがとう。リーブ局長、お待たせしました」

 マリンちゃんにはカフェラテをお願いして、私は待ち合わせ相手であるWROーー世界再生機構のリーブ統括に会釈した。

「すみませんね、お呼びたてして」
「いえ! まさか局長直々に来ていただけるなんて驚きでした」
「私がお願いしたんですから当然でしょう」

 穏やかな微笑みを向けるリーブ局長は、今や巷で『死の匂いを漂わせた男』と噂されているらしい。そんな風には見えないけれど、もはや軍隊とも言える規模になったWROを率いる彼には、私には分からない顔もあるのだろう。今まではそれが神羅の役目だったから、一般の人たちの目に触れてこなかっただけなのかもしれないけれど。

「お待たせしました! 特製カフェラテです!」

 マリンちゃんがやってきて、私の前には湯気の立ち上るカップが置かれる。もこもこの泡にはラテアートで子供が描く絵らしい犬が描かれていた。

「お姉ちゃん、ディーは元気?」
「うん、最近はお留守番してもらってるんだけどね」
「そうなんだ! 元気なら良かったぁ」

 トレーを抱えたマリンちゃんが屈託ない笑顔を向けてくれる。僅かな時間だったけれど一緒に過ごしたダークネイションのことを忘れずにいてくれる彼女は、きっとこのまま優しい女性に育っていくのだろう。
 マリンちゃんがこんな世の中でも真っ直ぐなまま成長しているのを目の当たりにすれば、彼女と暮らしているティファだってきっと、悪い人な訳が無いと思うしかなかった。

 カウンターから視線を感じたので横目で伺うと、そのティファが私とマリンちゃんとやり取りを神妙な面持ちで眺めていた。きっと神羅関係者と大事な預かりものであるマリンちゃんを近付けたくないのかもしれない。リーブさんは彼らと行動を共にしているうちに彼ら寄りになった人だから例外なのだろう。
 でも私は散々人を傷つけるための兵器を作ってきたのだから、そんな視線も甘んじて受け入れようと思う。
 
 そうしたらいつか、私が犯した罪は消えるのだろうか。

 そんな事を考えていたら目の前でリーブさんがくすりと笑った。マリンちゃんと私は同時に彼を見て、首を傾げる。

「これからは救うんですよ。あなたの手、世界再生のために貸していただきますからね」

 リーブさんの目は真っ直ぐに私を見据えていた。この人の言葉には不思議な説得力がある。
 私はまだ温かいカフェラテを一口飲むと、リーブさんの目の前に麻袋を出した。まろやかなミルクフォームは、気持ちを落ち着かせるのに効果抜群だった。

「ここで広げるのは、ちょっと」
「ええ、持ち帰って試しますよ。あなたの事は信用していますから」

 麻袋を覗くリーブ統括は私の言葉に顔を上げると片目を瞑ってみせる。死の匂いを纏った男がするチャーミングな仕草に、少し残っていた緊張感がするすると解けていった。

 きっと、罪っていうものは消えないし許されない。
 でも、私は許されたいんじゃない。
 犯した罪は償って、そして他の誰かの罪を受け入れてあげられる……そんな風に生きていきたいと、ぼんやりと考えた。

「しかし、彼も変わりましたね。良い意味で」

 麻袋の口を閉じてコーヒーカップに指をかけたリーブさんが突然そんなことを口にした。勿論名前は出さないから誰の話をしているのか周りには分からないだろうけれど、私には分かる。
 リーブさんは目を閉じてコーヒーの香りを楽しんでいるようだ。あなたの方こそだいぶ変わりましたよねとは、私にはさすがに言えなかった。

 前にも同じようなことを言われたことがある。でも彼ーールーファウスがどう変わったのかと考えてみたけれど、何度考えても私から見た彼は、出会った頃から変わらない優しくて強い人のままだとしか思えなかった。



「弟がいるらしい」

 ロッジに帰ると開口一番、出迎えてくれたルーファウスが苦笑いを浮かべてそう言った。

「は……? 弟って、ルーファウスの?」
「半分だけの、だがな」

 その説明で私はすぐに理解することができた。先代社長は生前数々の浮名を流していたーーとは言っても、表向きには誰も知らないと言うことになっていたーーので、先代に余程の慎重さが無かったのならばルーファウスに『兄弟』がいることも容易に想像できる。そもそもプレジデント神羅ほどの人間には、そんな慎重さも必要なかったのだろう。

「でもどうして今更分かったの?」
「あいつらが探してきたらしい。まったく物好きな奴等だ。特にレノ」

 ルーファウスはやれやれと肩を竦めたけれど、その口元は笑っていた。いつも通り、この面倒な状況を楽しんでいるのだろう。

「今は神羅の名にも大した価値はない。遺産の分け前を寄越せくらいは言われるかもしれないが、生憎他にやれるものもないしな。会ったところでどうにかなる訳ではない」
「その割には興味が有りそうじゃない?」
「フッ……好奇心を失っては、人間死んだも同然だ」

 そんな屁理屈にも似た台詞で誤魔化したルーファウスは、車椅子を回転させ私に背中を向けると手を止めた。

「……しかし、中でも『兄』にはかなり恨まれていたな」
「お兄さんも、いたの……?」

 弟、ならまだしも兄とはさすがに驚くしかない。先代が一体何を考えていたのかなんて、誰にも知る術はないけれど。彼の墓標に並んだ唯一の女性の名を思い出して、何とも言えない気分に陥れられた。

「おやじを恨めば、自ずと俺を恨むことにもなるだろうからな。まあ、かなり昔に死んだから今となっては過去の話だが」

 そう言って煙たそうに手を振るルーファウスの表情は伺えない。

「レノが煩いから会うことにはするが……正直気乗りはしないな。良い思い出はひとつもない」

 恐らくお兄さん以外にもルーファウスを恨んでいた兄弟は他にもいたのだろう。それでもルーファウスが会うと決めたのだから、私は少しでも彼の心の靄を晴らしてあげたいと思う。いわくはあるけれど、せっかくの対面なのだ。

「生い立ちに拘らないで、縁があったから会う、って思っていれば良いんじゃないかな。こんな世界だからこそ、人の縁ってすごく大事だと思うし」

 私に背中を向けたままのルーファウスは、肘掛けに乗せた指先を僅かに揺らした。

「もしルーファウスが生い立ちを気にするような人だったら、私だってあなたの隣に立つ権利が無いよ?」
「フッ、それは困るな」

 顔を下に向けたルーファウスが小刻みに肩を揺らす。

「……ククク、未だにおやじが撒いた種に悩まされるとはな。だがナマエ、お前のおかげで気持ち良く『弟』に会えそうだ」

 やがてルーファウスは顔を上げ、遊ばせていた指先を握り締める。その声は、いつもより少し弾んでいた。


 翌日行われたその感動の対面に私は立ち会わなかった。エッジでの作業は山のようにあるし、何より兄弟水入らずーー流石にタークスの面々には居てもらわないと困るがーーで再会してほしいと思っていたから。
 ツォンさんには私も会えば良いと言われたけれど、私がいない方がルーファウスも素直になれるかも知れないと答えると、よく分かっているなと少しだけ笑われた。


 ヒーリンに戻ると地面には銃弾や車輪で泥が抉れた跡が残り、何やら争った形跡がある。慌てて私の住むロッジに駆け込んだ。

「ルーファウスっ!?」
「戻ったか、ナマエ。早かったな」

 そこではルーファウスがダークネイションを撫でながら優雅に紅茶を飲み、ツォンさんと談笑していた。

「あれ? てっきり、敵襲でもあったのかと……」
「敵襲? あったか?」
「似たようなものは有りましたね。ですが、我々の敵ではなかった」
「……どういう意味です?」

 顔を見合わせてくつくつと笑う二人。私は荒れた屋外の状況とこの部屋の中ののんびりした空気があまりに不釣り合いだったので、ただ首を傾げることしかできなかった。

「弟さんと会ったんじゃなかったの?」
「ああ、会ったぞ」
「兄弟喧嘩でも、した……?」

 私が窓の外に視線を遣りながら聞くと先にルーファウスが、そしてそれに釣られてツォンさんが二人して噴き出した。

「クックッ……そう心配するな。お前の期待通り面白い縁だったぞ」

 ひとしきり笑ったあとルーファウスはそう言ってツォンさんと目配せした。一体何があったか詳しく説明してくれる気はないらしいので、イリーナ辺りに聞くしかなさそうだ。
 それからルーファウスは着ていたガウンのポケットに手を入れて、ポケットを裏返して見せる。

「しかし生憎だが銃を人にやってしまった。今の俺は丸腰だ。困った」
「え!? 銃、どうしたの?」

 ルーファウスは今の身体では到底大型のショットガンは扱えないので、タークスが見つけてきた手頃なハンドガンを護身用として持ち歩いていた。このロッジで過ごすようになってから使用したことは一度もなかったけれど。
 ポケットの裏地を元に戻したルーファウスは、傍で黙っていたツォンさんを見る。しかしツォンさんは目を瞑って首を横に振ると、席を立ってしまった。

「ご自分の口から説明されてください」

 そしてそれだけ言うと部屋から出て行く。ルーファウスはまた肩を竦めて、苦笑いを浮かべた。ダークネイションも大きな欠伸をして、自分の寝床へと去っていってしまう。

「つれないな。まあ……仕方あるまい。あれを人にやったのは簡単に言うと餞別だ」
「餞別? ハンドガンを?」
「ああ。弟の、ちょっとしたランデブーの為のな」

 ランデブーとハンドガン。その単語のミスマッチのせいで私にはルーファウスの言いたいことが全く分からない。今やそれを隠す間柄でもないので、私はあからさまに意味不明だと言いたい表情になっているはずだ。

「母親を捨てた男の息子に会いにくるのに、女連れて来るとはな。ククク……しかも、女の方が大分度胸が据わっているときた」

 ルーファウスは弟さんとの邂逅場面を思い出しているのだろう。口元に手を当てて楽しそうに笑い始めた。外があんな状態なのに彼が笑っているから、私は余計に混乱する。

「兄弟揃って女頼み。血は争えない物だな、ナマエ」
「よく、分からないんだけど……?」
「あれの連れてきた女にくれてやったんだ。弟よりもしっかりしていそうだったからな」
「そう、だったんだ」

 他意がないことは分かっているけれど、あえて弟さんではなく連れの女の子に護身用の銃をあげたと聞いて、少しだけ……ほんの少しだけ、胸の奥がチクリと痛んだ気がした。
 するとルーファウスは車椅子を操作して私の横までやって来ると、ずっと立ったままだった私の手を取った。

「お前が作ったあのショットガンだったとしたら人にやる訳がない。ちょうど新しい物が欲しいと思っていたんだ。あれはあれで、俺には使いにくかった」

 ルーファウスはずるい。こうして彼に手を握られながら下から見つめられて、文句の一つでも言える人は存在しないだろう。
 一言くらいは、何でわざわざ女の子に、とでも言ってやろうかと思っていた私の気持ちはあっという間に穴の開いた風船みたいにしぼんでいく。
 そんな私の様子を伺っていたルーファウスは、行き場を失った思いを吐き出すように溜息をついた私の手を両手で包み込んだ。
 普段は他人に対して上から目線な彼のごますりが可笑しくて、私にはルーファウスを咎めるような声色なんて出せもしない。

「上手くごまかせたと思ってる?」
「まさか」

 ルーファウスも、悪戯が成功した時みたいににやりと目元を弛ませて私を見上げる。私の手を解放するとルーファウスは手を肩の前に上げて降参のポーズを取った。

「エヴァンには女の前で情けない姿を見せるなと言ってやったが……フン、兄貴の方は随分と情けない姿を晒してきたと言うのにな」

 彼は自嘲的に鼻を鳴らし、手を上げたまま首を横に振る。
 エヴァン、というのは弟の名前なのだろう。冗談半分かもしれないけれど兄としてアドバイスをしてあげたというなら、ルーファウスはエヴァン君のことを相当気に入ったのだと分かる。
 彼自身のことについても冗談めいた部分もあるのだろう。しかし普段あまり弱気なことを言わないルーファウスが言うからこそ、彼の本心なのだと思ってしまう。

「そんな風に思ったことないよ」

 私はルーファウスの前に跪いて、彼の膝の上に手を置く。そして今でも変わらずに痛む彼の身体を労わるように、軽く撫でた。

「でも、何もかも完璧な人より、ありのままのルーファウスが好き」

 見上げた彼の表情は穏やかで、ゆるゆると下された手は私の頭の上に置かれる。

「本当に、ナマエと居ると目から鱗が落ちるばかりだな」

 常に完璧であることを求め続けられたルーファウスは、良くも悪くも未だにその価値観に縛られているし、今更そこから抜け出そうというつもりもないのだろう。
 ただ私と居る時だけは情けない姿を見せてくれたって良いし、彼も心では分かっているのだと思う。価値観を変えるのは、なかなか難しいことだとは思うけれど。

「生まれも育ちも、見てきた世界も違うからね」
「そうだな。だが昔お前に言ったことがあったと思うが……そういうお前の実直さに、俺は救われてきたんだ」

 それはもうだいぶ遠い日の記憶になってしまったけれど、初めて二人で食事に行った日の帰りのことだ。私もあの日のルーファウスの横顔はよく覚えている。

「違う環境で育ってきたからこそ補い合えるところもあるよね、きっと」
「なるほど、前向きな意見だ。採用しよう」

 そう言い合って、私たちは顔を見合わせ笑い合った。
 昔からの身分や立場なんてあってないような世界になってしまったけれど、だからこそ色んな価値観の人が助け合って生きている。
 ルーファウスともそうやって支え合っていければ良いなと、私は強く思った。


「そういえばこの前エッジでルーファウスによく似た男の子を見たんだけど、もしかしてエヴァン君ってエッジに住んでたりする?」

 ルーファウスの揺れる金糸を眺めていた私は、ふとあの縞靴下の女の子と歩いていた彼の姿を思い出した。
 何度思い出してみてもやはりそっくりだと思う。特に、この髪の色。

「あんまり似てるからつい振り返っちゃったんだよ。年はそうだなぁ……イリーナと同じ位か、もっと下かも。縞々の靴下を履いた女の子と歩いてた」
「ああ、ならおそらくそれがエヴァンだろう。その女をここへ連れてきたからな」

 ということは、ルーファウスが銃をあげたのはあの女の子だったという訳になる。
 女の子の方ももっと見ておけばよかったなんて未だに少しだけ気にしている私を余所に、ルーファウスは優雅な仕草で顎に手を当てた。

「しかし、恋人がいるのに他の男に見惚れるのは良くないな」
「……へ?」
「その間の抜けた返事は久しぶりだ。まさか俺の言っている意味が分からないのか?」

 何故か少しだけ不機嫌にも見えるルーファウス。でも彼の発言を頭の中で反芻していくと、相変わらず説明不足であるルーファウスの言いたいことも分かってきた。

「もしかして、やきもち?」

 私が街角ですれ違った男の子に見惚れていたと、確かに理由を知らなければルーファウスという恋人がいながら何という浮気者だと思われても仕方ない。でもそんなルーファウス自身にそっくりだったから、つい気になって見てしまったというだけなのに。

「ルーファウスにそっくりだと思ったからだよ。そうじゃなきゃ見向きもしないって」

 私がそう説明すると、ルーファウスは熟考する素振りを見せた後に顔を上げた。私は彼の片方しか顕になっていない碧眼を見つめて微笑んでみる。
 やきもちを焼かれることなんて皆無なので、実は少しだけ……嬉しかった。

「安心してね。私にはルーファウスだけだよ」
「フッ……それなら」

 すると不敵に笑ったルーファウスが、負けじと見つめ返してくる。

「先程のお前自身にも、同じ台詞をくれてやろう」
「あっ……」

 ばっちりバレていたらしい。私があの縞靴下の女の子に、僅かにではあるけれど嫉妬心を抱いてしまったことは。

「俺にはナマエだけで良い。なにせお前に夢中過ぎて、目移りする余力も無いからな」

 彼の膝に置いていた私の手に、一回り大きな掌が重ねられる。顎を掬われて、ルーファウスの端正な顔がずいっと目の前に近付いてきた。

「俺達は案外、似た者同士らしいな」

 生まれも育ちも歩んできた道も違うけれど、恋人に対してこんなに些細なことで嫉妬してしまうところは、確かに二人そっくりだ。
 それに気が付いて可笑しくなった私達は、声を上げて笑った後、どちらからともなく口づけた。

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