The person who is sung.1




ばたばたとビニール製の傘に大粒の雨が当たる。
イヤホンからは男女三人の会話音。
片手には最新のスマートフォン。
画面には地図が、そしてその地図上ではとある一点が赤く光り続けている。
点の場所はここからそう遠くない。
傘を握り直すと高い位置で結わえた白髪をさらりと揺らし彼女は雨の中、交差点を渡る。
アポロンメディア内の会議室を指し示し続ける赤い印はその人物が今もそこにいることを示していた。
イヤホンから聞こえる声にその人物が安全な場所にいることが知れた。
体調は良好のようだ。

『……ねぇおうち、必要なんだって』

そう聞こえた声が、自分に言っている、とすぐに気付き彼女は小さく笑った。







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