Song of the murder. 8




「どうして僕の家なんです」
「だってバニーの部屋のが広いし安全だし?」

そんな疲れきった帰りに言い渡されたのは、保護。
じゃ、よろしくね。
簡単にそう言ったロイズに二人は同時に顔を見合わせ、同時に眉を寄せた。
昨晩はメディカルチェックがてらアポロンにいたらしいが、そうずっと置くわけにいかないのが現状だろう。

「狙われてるっぽいんだから仕方ないだろ?」
「………何のNEXTかも結局教えてもらえなかったんでしょう?」

精神から来る疲労感にバーナビーが刺々しさ5割り増しの口調で返す。
当の彼女は部屋に入るなり、窓際だ。

「ま、まーまーバニーちゃんてば落ち着けって。ほら!今夜は飛びっきりの特製チャーハンだぞー?」
「…いつも通りですね」

「嫌」
「「…え?」」

バーナビー以上に冷えた声。
いつの間にか背後に立っていた彼女に、二人は驚き勢いよく振り返った。

「チャーハン、いや」








「それ…なんだ?」
「ねこ」

ケチャップで卵の上に歪な猫、らしきものが描かれた。
それが三つ、彼女がすべて絵を描いた。

「んじゃそれは?」
「とら」

額にギザギザが入ったものを聞けばどうやらこちらは違ったらしい。
というかケチャップなのでギザギザはすぐに潰れ額に間違って出しすぎたように見える。

「……これは…?」
「うさぎ」

耳が、長い。
妙に的を得た彼女に、我々のことは知らないんじゃなかったのかと二人は思う。

「いただきます」

ケチャップのキャップを閉め、さっさと手を合わせた彼女に何故か慌てて二人もいただきますと言った。
匂いも悪くない、寧ろ食欲を誘う良い匂いだ。
久々に目にしたオムライスは崩れることはなく皿へ綺麗に盛り付けられている。
二人のものは彼女のより一回り大きく、黄色の薄焼き卵が中のバターライスを包み込み何とも美味しそうだった。
ごくり。
しかし隣から緊張感を漂わせたバーナビーの唾を飲み込む音が聞こえ、虎徹はまじまじとケチャップで描かれた『とら』を見た。
美味しそうだ、ちゃんと。
ただ、何処と無く浮世離れした彼女が作ったものがまともなものなのか疑問だっただけで。
味が違うだけで中身は虎徹がチャーハンに使うはずだった具材と同じだ。
スプーンを立てて卵を切り掬う。
ちょんとスプーンの先で『とら』の髭先を拝借するのを忘れずに。
大丈夫、大丈夫だ、これは普通のオムライスだ。
なんて彼女にはかなり失礼な話だが、虎徹もバーナビーも真剣だった。

「ぁ、美味しい、…ですね」
「うっまー! これめっちゃくちゃ美味いぞエア!! おまえちゃんと料理出来るんだな!」

包み込む卵の内側はいい具合にトロトロの半熟だった。
まともなものか、とは失礼なんてものではない。

ちびちびとスプーンを口に運ぶ彼女は立てた両膝に皿を乗せ片手で押さえながら上手いバランスを保つ。
ちなみにスプーンを持つ手は左、せっかく描いたねこは既にその姿はなくぺったりと塗り広げられていた。



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