Song of the murder. 6




天井をちらりとバーナビーは見るが勿論そこには何もない。
ただ見慣れた天井があるだけだ。
バーナビーは眉を寄せ、それを見た虎徹も、あー?、と首を傾げた。

また沈黙が落ちる中、耐えきれなかった虎徹がお節介に口を開く。

「なぁ、今までは?いつもはどうしてたんだ?」
「いつも?」

虎徹は窓の横に寄り掛かると、膝を抱えた彼女の頭に手を伸ばす。
しかし虎徹は一瞬迷うように、触れる寸前ひくりと指先を揺らし手を止めた。
その後静かに手を乗せるが、懸念とは裏腹に彼女に警戒されることもなく。
ゆっくりと虎徹は彼女の頭を撫でる。
長い黒髪を指で梳くように、あやすように何度も指先が髪に通されるとむしろそれが心地好かったのか、彼女はゆっくりと目を細めた。
バーナビーは小さく溜め息を吐く。
子供というよりは自由奔放な猫かもしれない。
そう思い至って思わずバーナビーは猫科が増えたとこっそり虎徹を見たのだが見られた本人は知らない。

「そ。いつもは? 家、無ぇって。…ほら、飯とか寝んのとかだ。それどうしてたんだ?」
「いつもちょっとして色んなところ移る。……こんなことの繰り返し、だから」

バーナビーも虎徹も和んだような気分に陥ったがそれは彼女の言葉にまたぴきんと空気が凍る。
勿論それは二人の間だけで、彼女は変わらず虎徹の手が頭に乗ったままなのだが気にしていないようだ。
彼女は片手で足を抱え直すと、はー、と窓に息を吹き掛けた。
曇ったそこに何やらわけのわからないものを描き出す。

「いつも、少しすると誰かが、」

と。
そこまで彼女が言って、バーナビーの携帯が鳴った。
すみません、とバーナビーが二人から少し離れ扉のそばで電話に出る。
虎徹は、ああと答えつつ何となく目で追っていたが話の続きをしようと彼女に向き直った。




「うおっ」





しかし今まで一度も視線を合わせなかった、というか窓か天井ばかりで自分たちを見なかった彼女が自分と同じようにバーナビーを見つめていて虎徹は驚く。

「なになに?どしたの?エアー?………エアさん?エアちゃーん?」
「………いまのうた」

じぃぃぃっ、とバーナビーを見つめる彼女。

「今の……? ってああ、“A”の」
「……知ってるの?」

バーナビーの着うたが気になったらしい彼女は携帯で話す彼に目を奪われっぱなしだ。

「そりゃ、まぁ…俺も好きだし。」
「………す、き…?」

そういうと彼女は虎徹を見上げてきた。
真っ黒の大きな瞳だ。
猫か。
バーナビーと同じく虎徹もそう思った。

「…どこが、すき?なんで?」
「まー、落ち着くっていうか穏やかーな声だよな。透き通ってる、って言うのか?」
「……そうなんだ。」



それきり彼女はまた窓の外を見つめた。
窓に描かれたそれは小さな子供が描いたような、歪な猫の顔だった。



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