Song of the murder. 5




「あー、悪いけどもう一度はじめから聞くな。名前は?」
「…………エア」
「日本人、で間違いないよな?」
「……そう」
「苗字は?」
「…ない」
「………」
「………」
「じゃ歳は?」
「…多分、26」
「えと、そうか……で。あー住所は?」
「………ない」
「…なぁバニー。ない、ってなんだ?」

それをこちらに聞かれても困る。
虎徹が虎徹なら彼女も彼女だとバーナビーは思った。
自称、26歳の彼女は座った椅子の上で膝を抱えた姿勢で窓にこめかみを押し付け、外を覗いていた。
一度も、こちらを向こうともしない。
敢えて女性が年齢を若くサバ読みすることはあっても今この状況で上へ言う必要もないとして。
ではその行動や口調を百歩譲って抜きにして、酷く童顔で見た目と合っていないのは虎徹同様に日系だからだと思おう。
バーナビーは奇妙なものを見る気分に陥りながらも、彼女へ質問の続きを投げ掛ける為に一旦先に進むことにした。

「…では。あなたはいつからあそこにいたんですか?」
「さぁ?…多分二週間くらい」
「ずっとあの部屋に繋がれて?」
「っぅおい、バニー!」

それは流石に単刀直入すぎんだろショックとか思い出したくないこととか!と焦った小声が飛んでくるが彼女はバーナビーの質問へ簡単に、そう、と言った。
淡々とした返事がまた返ってきて虎徹の方が肩をびくつかせ過剰反応する。
バーナビーは彼女を視界に収め続けるが、冷静な外見と異なりその頭の中には疑問ばかりが浮かぶ。

「……どうしてあなたは監禁されていたのですか?目的は知っていますか?」
「欲しい…から」
「は?なんだそれ」
「……あたしが欲しいから、だって。…世界が、手に入るって」
「あ?ってそりゃもしかして…」

虎徹とバーナビーは顔を見合わせる。

「あなた、…NEXTですか?」
「なんにもしないのに捕まえにきて。何にもしなかったのにいきなり捕まえて。でもだから待っていたの。ずっと。待っていたの。疲れちゃったの。どうして助けにきたの? せっかく眠かったのにあんまり眠れなかった」

支離滅裂で、もう本当にわからない。
ぶつぶつ言い出した彼女にバーナビーも思わず視線を窓の外に向けた。
まるでこれじゃあ子供相手じゃないか。
ふと奇妙なこのエアと名乗る彼女が、バーナビーがはじめ名乗った時も一切何の反応も示さなかったことを思い出した。
姿を見た時も、今もだ。
それが僅かに引っ掛かってバーナビーは視線をすぐに彼女に戻す。
普通に、誰だと聞いたのだ。
僕らを知らない?

「家がないと仰ってましたが、あなたのご家族は?シュテルンビルトには来たのは何故ですか?」
「あそっか、そうだ!二週間も連絡とれなかったら心配してるだろ?!連絡しねぇと!!な?」

わたわたと虎徹が身振り手振りしながら完全に子供相手の風に愛想笑いを彼女へ向ける。
しかし。

「だから、……そんなの、いないよ」

しかしやはりこちらを一度も向かないまま、彼女はそう言った。






「……ねぇおうち、必要なんだって」

呆けた二人を尻目に彼女はいきなり天井を見上げると一言そう言ってまた窓の外を見た。



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