Song of the murder. 29






「ねえ」

無表情のまま彼女はそう言う。

「なんで、来たの?」
「来るって言ったろー?」
「来なくていいよっていったのに」




そんな些細な問いの声には、何の感情も感じられなかった。
本当にただ、そう疑問に思っているだけなのだろう。
バーナビーは離れたところからまた虎徹とエアの会話を聞いていた。
世話を焼かれるのに慣れていない。
自分自身が突っぱねていた頃を思い出すバーナビーだが、やはりその眉は寄ったままだった。
慣れていないのではなく、彼女は何も『知らない』のだ。

「ねぇチョット、それでアタシ達何で集合かけられたのかしら。あの子にまた何かあった?」
「………」
「ハ、ン、サ、ム!」
「いえ、特に意味はありません」
「はぁ?何よそれ、だいた」
「意味なんて作ればいい。そう!友人は多い方が楽しい!そして楽しい!」
「…はぁもういいわ」

キースのお陰でカリーナの憤慨が止まる。
しかし、特に意味はないと言ったバーナビーの顔を見ていたネイサンが口を開く。
意味がなければ呼ばれることもないのだ。

「で、意味ないのに呼んだ訳はなーにハンサム?」
「はい?」
「んもぅホントにバカ騒ぎが目的じゃないでしょ?…ここはシュテルンビルトの中でもトップクラスのセキュリティよ」

ガッと腕を組んできたネイサンに苦笑を返しながら、やんわりとしかし強い力で振りほどく。
いいえただ…、とバーナビーは前置きをして、虎徹とエアに視線をやりながら。

「楽しいことを、…楽しいと知ってほしいと思っただけです」
「どうゆうコト?」
「スカイハイの言うそのままです、ということですよ」



大きなソファセットに寄り掛かるように座り込んだホァンがピザとパスタを頬張っていた。
イワンとアントニオもこちらの会話に耳を傾けつつも、その側で何を食べようかと皿を手にしている。
カリーナはいつも通りミネラルウォーターのグラスを持ち、しかし虎徹とエアがふたりで話しているのが気になっているのかそわそわとストローを回していた。

一面が大きな窓になっている。
その景色はバーナビーの自宅のマンションだって、角度は違えどシュテルンビルトの景色が一望できる。
しかし過去と今、独りと大勢ではその見え方が同じじゃないと知ってしまった。
ネオン輝く夜の街。
その灯りのひとつひとつはただの灯りに過ぎないと思っていた時があった。
そこには絶対に生きている人がいて、苦しみも悲しみも孤独も確かにあるが、それだけが世界じゃ、ない。

窓の外、そしてその手前の虎徹達から、ヒーローたちに目を向けたバーナビーはがやがやと各々楽しそうに話してる姿を見て穏やかに笑った。



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