Song of the murder. 2




二人はシルバーステージの裏路地を先回りして待ち伏せた。
ここ1ヶ月で当たり前と化した、相変わらずの軽犯罪取り締まりだ。
ちなみに能力を使うまでもなく、二人の姿を見た今回の犯人が観念しその場にへたり込んでくれたおかげで簡単に逮捕できてしまった。
二人にしては拍子抜けだが楽に終わるに越したことはない。




「すっげ…」

場所は変わり。
本来なら就業も過ぎた夕食時、しかし一度出動要請が掛かればヒーローには関係ない。
大通りから少し入った路地の、ビルの壁へ寄りかかるヒーロースーツ姿のワイルドタイガーとその隣に立つバーナビーの視線の先。
炎はほぼ消えたらしいが、ビルからはもうもうと黒い煙が空に広がっている。
避難は済んでいるらしいが万一の場合、と、勝手にトランスポーターへとは戻らず二人はそれを見守っていた。
尤も今の二人には手出しは無用だが。

「避難はもう済んでいるようですからブルーローズ先輩がいればすぐですね」
「ま、もうそっちも粗方終わってそうだな。はー煙りすげーなぁ」

バリバリと青白く輝く氷が見るまにビルをおおっていく。
その様子にいつもながら虎徹が感心していると不意に、すぐ側でギャギャギャキャとまるでドリフトをした時のようなタイヤが擦れる音がした。

「なんだ?」
「さぁ」

丁度今虎徹の寄りかかっていたビルからだ。
不思議に思った虎徹は壁から離れ、ひょいとビルの地下駐車場の入り口を覗き込む。
すると猛スピードでドリフト気味の白いバンが掛け上がって来るではないか。
虎徹は驚いてわたわたと顔を引っ込めた。

「!! だぁあ!!…っぶねぇー!」

ふうぅ、とスーツのマスクは下ろしたままだが思わず汗を拭う仕草をする。

「まったく、危ないのはあなたですよ」
「だっ!流石にあんな勢いで通りに出てくると思うかよ普通」

そんな彼にまたバーナビーが小言を言うのも当たり前、多分に呆れを含んだ刺々しい口調だ。
最早、二人にとっては時間潰しの言葉遊びだったが。

だがそれさえもつかの間だった。
今度は二人の頭上からガラスの割れる音がし、先ほど二人がいた場所に破片が降り注いだのだ。
いよいよ顔を見合わせる。
そのまま二人して前を向くと虎徹はワイヤーを向かいのビルへと伸ばし、バーナビーは能力を発動させた。

「なんだなんだ?」
「今日はやけに続きますね」
『バーナビー!何があった!』

飛び上がる二人は向かいのビルの屋上へ。
勿論、何の予定もないはずのバーナビーが能力を発動させたので斎藤から通信が入った。

「斎藤さん。ええ、それが」

ガラスが割れたのは七階。
そこを大体二階層程度見下ろす形で降り立ったのだが。

「!」
「っ、待ってください虎徹さん!」
『おいバーナビー!』

それほど広くない路地の向かいのビルだ。
スーツを来ていれば高々4m程度しかない路地は簡単にジャンプ出来てしまう。
能力の減退した虎徹が発動もしないまま割れた窓へ飛び、斎藤への返事も忘れバーナビーは同じように後を追った。
割れた大きな窓ガラス。
その部屋の中に倒れ込んだ女性の背が見えていたからだ。



 → 



∠main