Song of the murder. 26








翌日。



「エア!元気にしてたかー!」

扉を開けると室内は各所に配置された淡いオレンジのフットライトで照らされていた。
壁一面、窓の外にはシュテルンビルトの夜景が広がっている。
そして真ん中のグランドピアノの上に、白いドレス姿の彼女がペタリと座っていた。
ぼんやりと浮かび上がるような光の中、その様はまるで、世界が切り取られたようだ。
二人は互いに知らぬまま、小さく息を飲んでいた。

「いつも、どうり。ふつう」
「………」
「…、」
「なに」
「ぅえ?ああ、いや、普通っておまえなぁ。…と、今日、ひとりでちゃんと食ったかー?」
「……………たべ…た」

とエアが答えるわりに、虎徹が見渡した限り部屋は少しも変わっていない。
バーナビーもちらりと部屋を見るが、着替えてもいない彼女がピアノから降りた気配はなかった。

「はいはい食ってねぇのな…なーんでこう、みんなそうなのかねぇ」
「失礼な。最近はちゃんと摂取してますよ」
「…摂取とかさいい加減その言い方どうにかなんないの?バニー」

虎徹がちらりと後ろを見る素振りをすると、バーナビーは大袈裟に目を逸らし口元を緩やかに歪ませながらも、フン、と鼻で笑った。

昨晩はその後、タイガー&バーナビーへと翌日朝からぎっちりと入っているスケジュールの為にすぐに引き上げていた。
現在、19時を回り20時近く。
就業は過ぎているが今日の仕事はまだ終わっていない。
つい先程までかかっていた出動により、この時間帯の予定はキャンセルになっただけだった。
この抜けたスタジオ撮影は明日以降の、きりっきりの予定のどこかしらへと更に捩じ込まれることになるのだろう。
今夜は残り雑誌の取材だが、ここエアのマンションは現場となるジャスティスタワーの目と鼻の先。
移動途中で食べてから向かうとロイズに無理を押して来た。

「エア、飯食うぞ。飯」
「……ごはん…」

オムライス、と二言目にはエアが発したのと同時、ピンポーンとインターフォンが鳴った。

「っと、噂をすれば来ましたね」
「おーさっすが!早ぇのなぁ」
「?」

届いたのは、オムライスだった。
エアの部屋へ上がる前、バーナビーがフロントで頼んだのだ。
虎徹が手を引いてエアが天蓋から降りる。



この日に至るまでの数日、二人はエアを四六時中側に置いていた。
保護を任されている二人がロイズに彼女が今どこにいるかを話せば、彼は安心したように頷きはしたが一瞬あからさまに眉を寄せ。

「何か起こすならTVクルーがいる時にしてくださいね」

と言った。
彼も勿論二人と同じように引っ掛かるのだろう。

二人は雑誌やテレビの取材に撮影にと大忙しだ。
引退から二部復帰、そして昨晩から一部に復帰した二人と話題は尽きないが、関連性の無さそうな彼女がついて回れば別の話題にシフトしてしまうかもしれない。
騒ぎ立てられる以前にエアの存在は表に出さない方がいいだろう。

セキュリティは万全、はめ殺しの窓は防弾ガラス。
保護を、との名目で彼女を連れ歩いていたがここにいる限り二人のそばでなくとも、もう大丈夫だった。


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