Song of the murder. 25




「あーなぁエア。そのスマホどした?それ、持ってなかったよな」
「うん。落としてたんだって。持ってたんだって」
「いや、落としたって誰が届けてくれたんだよ。なかったろ。無かったぞ」
「不思議だね」
「はぁ。あーもー少し、分かりやすく教えてくんねぇかなぁ」

部屋の中はシンプルにモノトーンで統一されていた。
軽く見積もって50畳はあるリビングダイニングのキッチンは対面式で、長く伸びたテーブルの端はバーカウンターになっていた。
その向かいに黒のくの字形をした大型ソファが置かれ、そして部屋の中央にはグランドピアノ。
窓は嵌め殺しだが長方形の室内の一面すべてにシュテルンビルトの夜景が広がっていた。
部屋へ入るなりエアはピアノの天蓋に乗っかって寝転がった。
虎徹も周りを見渡しながらだがあとに続いた。
他の立ち竦む面々は部屋の入り口でぽかんとした顔だ。
バーナビーはその中でもまだ、そこに広がる光景を静かに見つめていたが。

虎徹と同じように、しかし恐々近付いたカリーナがピアノのまわりを一周し、すとんと椅子に座る。
両手で、静かに鍵盤の蓋を開けた。
するとエアがカリーナに声をかけた。

「ねぇ、ピアノ弾けるひと?」
「ええ、……まぁ」
「なんか弾く?」
「良いの?」
「うん」
「おいエアー?話聞けって」
「聞こえてるよ。ちゃんと」
「うんうん、ならちゃんと答えようなーエア」









「……ちょっ、じゃあの子殺人現場にいたの?」
「ええ。彼女本人はまぁあの調子ですし。拉致をされたのも慣れているらしく気に留めていないようですが」
「どんな神経だそれ」
「見てないってことなのよね?その、死体は」
「その後の事情聴取では、みてない、と答えたそうです」

事件のあらましをカリーナへ説明する。
驚くカリーナの隣で、先程パーティー会場で聞いたとはいえアントニオも腕を組み難しい顔をした。

「でハンサム?あのコ、何でこんなマンション持ってんのよ?ココ、このマンションで一番高級な部屋よ」
「こっちが知りたいですよ。僕もわかりません」
「はぁ?何よそれ」
「困ったわねぇ」

ちらり。
ネイサンが視線を二人に向ける。
虎徹はエアに話しかけ続けているようだったが、彼女は天蓋にべたりと寝転がったままだった。
ぎり、とバーナビーは眉を寄せる。


 → 



∠main