Song of the murder. 21








「…きもちわるい頭いたい」









「あしのうら…いたい」

少し前、エントランスホール。
階層はゴールドステージ。
引き摺るように小さくヒールを響かせながらエアが歩く。
壁伝いに進み、端にあったソファセットに辿り着いた。
しかし彼女はソファへは座らず、ずるずると壁とその隙間へ蹲る。

「はい、おねえちゃん」
「?」

すると少しもしないうちに、目の前に差し出された小さな手のひら。

「あたしに?」
「そう。あそこのおねえちゃんがおねえちゃんが落としたからわたしてって!」
「落とす…?」
「……あれ?いなくなっちゃった」

5、6歳だろうか。
内緒話をするように、顔を近づけて話し掛けてくる。
男の子が振り返り指を指すがその先には誰もいなかった。
あれー?と首を傾げる。
しかしすぐに母親の呼ぶ声がして、彼は立ち上がった。

「バイバイおねえちゃん!もう、落としたりしちゃダメだよ!」

少し声が大きくなり男の子は慌てて口を押さえる。
瞳がキョロキョロと動いて辺りを確認するとその小さな手が座り込むエアへ伸び頭を撫でた。
見つからないようにがんばってね。
しぃぃ、と唇に一本指を押し当ててエアを見ると最後に笑って走っていった。






彼女が視線を落とすとその手の中には最新のスマートフォン。
ブルブルと突然それが震え、画面には着信を告げるマークが現れた。

『パーティーはどうだった?』
「疲れた」
『あらそう』
「足いたい」
『仕方ないわ。慣れていないもの』
「でも……きらきら」
『ふふ。気に入った?』
「どうなの?」
『気に入ってるんでしょう』

携帯の向こうで女性の笑い声が上がる。
ずり、と壁に寄り掛かるとエアは膝を抱えた。
ストラップをパチンと外し、素足を床に下ろす。

「そうかな」
『そうだと思うわ』
「そう?」
『わからない?』
「そう」
『本当に、そう?』



「…死にたい」
『死なれたら、困るわ』
「疲れた。なのに、眠れない」
『ふふ。そうね。だって、まだ』






コ ロ シ テ 、 ナ イ カ ラ 。





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∠main